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敗血症:治療の進歩と免疫異常のポイント④ [critical care]

Advances in the Management of Sepsis and the Understanding of Key Immunologic Defects

Anesthesiology 2011年12月号より

剖検研究で得られた敗血症についての知見

治療アルゴリズム(下記参照)が進歩するのに伴い、敗血症患者の大半が当初の炎症亢進期を乗り切り、敗血症が遷延し免疫抑制の進行が特徴の状態に陥るようになっている。敗血症死亡例の剖検研究を通じて、敗血症における免疫抑制の発生機序とその影響の大きさについての重要な知見が得られた。我々は、敗血症で死に瀕している患者のベッドサイドで組織を採取し、自然免疫系および獲得免疫系の細胞がアポトーシスにより激減していることを明らかにした(fig. 2)。減少した免疫細胞の種類は、CD4陽性T細胞、CD8陽性T細胞、B細胞、樹状細胞および単球などである。こういった免疫エフェクタ細胞が失われる点には特に注目すべきである。本来であればT細胞のクローン増幅がおこるべき重症感染時に、むしろ免疫細胞が失われているからである。小児および新生児の敗血症死亡例を対象とした後続の剖検研究でも、免疫細胞が著減していることが明らかになり、先行する成人の剖検研究の結果を裏付ける結果が示された。つまり、免疫エフェクタ細胞の大幅な減少は、あらゆる年齢層の敗血症に共通して認められる所見だということである。

CD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞の減少や、単球もしくはマクロファージの減少が宿主免疫に及ぼす影響を明らかにすれば、新しい知見が得られる。CD4陽性T細胞は「ヘルパーT細胞」として知られていて、他の多くの免疫細胞の活性を調整するはたらきがある。例えば、抗原刺激に対してCD4陽性T細胞はインターフェロンγなどのサイトカインを分泌する。インターフェロンγは単球またはマクロファージの活性化を誘導する。CD4陽性T細胞には、B細胞の増幅を誘導するサイトカインを分泌する作用があり、その結果、抗体産生能が上昇する。CD8陽性T細胞は感染に対する攻撃を受け持つ細胞で、細菌またはウイルスなどの病原体に侵入され感染した宿主細胞を認識し、その細胞を溶解させる。また、CD8陽性T細胞は潜伏ウイルスの再活性化を防ぐ上でも重要な役割を果たしている。マクロファージは成熟単球であり、抗原提示によってT細胞を活性化する働きを持っている。その上、マクロファージは病原体を捕捉し破壊する貪食細胞としての専門機能も担っている。以上のように様々な免疫細胞が減少することによる影響がすべて絡み合い、外から侵入する病原体を撃退する宿主の力が大幅に低下するのである。

数多くの重要な免疫細胞が失われるのに加え、生き残った細胞がアポトーシスに陥った細胞を貪食する機能も阻害される。既に述べた通り、敗血症になると免疫エフェクタ細胞がアポトーシスによって死滅する。すると、死滅した細胞を除去する機能に特化した食細胞が、死んだ細胞を直ちに処理する。壊死細胞が貪食されると、食細胞からのTNF-αの放出が刺激され炎症促進反応があらわれるが、アポトーシス細胞が貪食されるとIL-10やTGF-βなどの抗炎症サイトカインが放出され免疫抑制反応が誘導される。重要な各種免疫細胞の減少に、こういった作用が拍車をかけて、宿主の免疫防御能が一層低下する。敗血症に伴う免疫抑制を引き起こす別の機序として、HLA-DRなどの細胞表面分子の発現低下、T細胞疲弊、サプレッサー細胞(制御性T細胞およびミエロイド由来サプレッサー細胞)の増加などが挙げられる。

我々の研究グループが最近行った剖検研究では、宿主の実質細胞が免疫反応を修飾する作用を持っている可能性があるという興味深い知見が得られた。また、内皮および上皮細胞が、免疫細胞の機能を大きく変化させる作用を持つ様々な免疫抑制分子を発現することが最新の研究で明らかにされている。臓器の実質細胞にこういった免疫制御分子が発現する程度が、その臓器が敗血症による影響を受けやすいか受けがたいかを決定している可能性がある。敗血症で死亡した患者の肺組織に免疫組織化学染色を施したところ、敗血症ではない対照患者の肺組織と比べ、ヘルペスウイルス侵入メディエイタ(herpes-virus-entry-mediator)という免疫抑制作用のある分子の発現に強力なup-regulationがかかっていることが分かった(2011年未公表データ)。このことが、肺が他の臓器より院内感染に弱い一因であるのかもしれない。

教訓 重症感染のときには、本来であれば免疫系細胞は増殖しなければなりませんが、敗血症になると自然免疫系および獲得免疫系の細胞がアポトーシスにより激減します。アポトーシス細胞を貪食する機能も低下します。
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