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小児肺疾患最前線2009④ [critical care]

Update in Pediatric Lung Disease 2009

American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2010年4月1日号より

遺伝子、幹細胞、肺の発達

この10年間に、成長因子、転写因子、細胞外基質成分による肺の発達、傷害および修復の制御について数多く研究が行われてきた。その過程で明らかにされた重要な経路は、sonic hedgehog経路、notch経路、レチノイド経路およびFGFアイソフォーム経路である。ヒトの疾患を模したマウスの遺伝子モデルを用いた実験によって、こうした研究の進歩が実現した。だが、新しい治療法としてヒトに応用するには不透明な点も多い。稀な急性または慢性肺疾患のなかには、ABCA3、SFTPC、SFTPB、SFTPA、Scl34a2、TTF-1/Nkx2.1といった、サーファクタントのホメオスタシスに関与する遺伝子の変異によって起こるものが数多く存在することが分かってきた。SFTPB、ABCA3、Nkx2.1に変異のある乳児では、新生児期に呼吸不全や呼吸機能障害を呈することが多い。最近、2組の研究グループが同時期にGM-CSF受容体の変異/欠損のある小児についての報告を発表した。このような乳児の遺伝子型は肺胞タンパク症と同じで、び漫性の間質性肺疾患と肺胞マクロファージの機能障害を呈し、肺生検では肺胞蛋白症の所見を示す。

最近では、新生児の肺疾患における幹細胞の病態生理上の役割に着目した報告が相次いでいる。Bakerらは早期産児臍帯血中の内皮性コロニー形成細胞は、満期産児の臍帯血中の内皮性コロニー形成細胞よりも増殖速度が速いことを明らかにした。In vitroでは早期産児の細胞は高酸素状態に対する脆弱性が増しているが、この高酸素状態に対する脆弱性は抗酸化物質によって改善される。在胎32週未満で生まれた98人の早期産児を対象とした臨床試験では、大半の児において出生時の臍帯血中の内皮性コロニー形成細胞数が少ないという結果が得られた。内皮性コロニー形成細胞数がもっとも少なかったのは、BPD発症児であった。この研究を裏付けるような観測結果をBalasubramaniamらがマウスモデルを用いた実験で示している。マウスを高酸素状態におくと、骨髄由来の肺血管内皮前駆細胞数が減るのである。おそらくこれが、BPD における微小血管の発達遅延の一因であろう。

van Haaftenらはラットモデルを用い卓抜した実験を行い、新生児における酸素による肺傷害を、骨髄由来幹細胞(BMSCs)の気管内投与によって治療する方法を評価した。高濃度酸素に曝露されたラット新生仔の血中および肺のBMSCsは減少している。BMSCsを気管内投与すると、肺胞の隔壁化が進み肺血管異常が改善され、生存率と運動耐容能が上昇する。高濃度酸素曝露肺に生着したBMSCsはⅡ型肺胞上皮細胞の表現型を有していた。しかし、気管内に投与しても生着するのはごくわずかであった。BMSCsの馴化培養液(BMSCs自身に改良させた培養液)を用いたin vitro実験では、パラクリン機構を介して酸素傷害が緩和されることが明らかにされている。Aslamらは同様の新生仔マウスのBPDモデルを用い、BMSCsを血管内投与すると新生児肺のオキシダント傷害を防ぐことができる可能性があることを示したが、やはりこの実験でもBMSCsの生着はごくわずかであった。そこで彼らは、BMSCsの馴化培養液を濃縮したものを一回だけ静注し、細胞そのものを注入するより肺傷害防御効果が高いことを示した。これらの研究に対する論評の中でAbmanとMatthayは、BMSCsから分泌される物質(secretome)を用いる治療法の可能性について言及した。つまり、前駆細胞を用いた治療法で効果を得るには、前駆細胞が分泌する可溶性タンパクを投与するとよいかもしれないという見込みがあるということである。この方法は、生きた細胞を使う治療法よりずっと好ましい。しかし、注意点を一つ述べておこう。BPDや肺低形成のある小児における肺の異常は、齧歯類の高濃度酸素肺傷害よりも遙かに複雑であるということだ。様々なタイプの前駆細胞の分泌タンパクの特徴が、完全に解明される日がいずれ到来するのが待ち望まれる。

教訓 骨髄由来幹細胞を気管内または血管内投与すると、新生児肺の酸素傷害を緩和することができる可能性があります。
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