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ALI&集中治療2009年の話題⑤ [critical care]

Update on Acute Lung Injury and Critical Care Medicine 2009

Am J Respir Crit Care Med 2010年5月15日号より

急性肺傷害の治療:基礎研究

ALI/ARDS患者に対して行われるopen lung strategyの目標は、含気のない部分を再膨脹(リクルートメント)させ、かつ、残された正常含気部分の肺胞が過膨脹しないようにすることである。こうした目標がopen lung strategyにより達成され、無含気部分が再膨脹すれば、その無含気部分は周囲の虚脱や浸潤を呈する肺胞と同じような機械的特性を持つことになると考えられている。しかし、一編の基礎研究で、この仮説に異議を唱える結果が示されている。人工呼吸ブタモデルを用いた研究では、肺胞のリクルートメントを行っても過膨脹を防ぐことはできないことが明らかにされた。その理由は、再膨脹した肺組織の機械的特性は、周囲の虚脱または浸潤肺組織とは異なるからであるとされている。解説論文において、この研究の重要性が詳しく述べられている。

ALIにおいて人工呼吸が肺以外の臓器に及ぼす影響に着目した研究が行われた。マウスを用いた研究では、急性腎傷害があるマウスに人工呼吸を行うと、好中球の関与する機序を通じて肺機能に変化が生ずることが明らかにされた。この論文についての論評は秀逸である。

肺の急性炎症において重大な役割を果たすメディエイタを特異的に阻害すれば肺傷害を軽減することができるのではないかと考えられており、以前からこの件については関心が集まっている。酸による肺傷害を惹起させたマウスモデルを用いた研究では、12-HETE産生を阻害すると生存率が向上するという結果が得られた。この研究ではCDCという12/15-リポキシゲナーゼ阻害剤が用いられ、傷害発生前に投与すると有効であることが分かった。しかし、CDCは大量に投与しなければ12/15-リポキシゲナーゼを阻害する効果が得られないので、ヒトのALIにおける有効性を検証するには、より特異的で有効な製剤を開発する必要がある。

前述の研究に基づき、ALIの治療において血小板機能を標的とした方法が有効である可能性が指摘されている。アスピリンをはじめとする抗血小板療法を行うと、肺傷害の重症度が低下することが動物実験で示されている。

前臨床試験の結果を受け、ALIの治療における細胞療法に対する注目が高まっている。骨髄間葉系幹細胞(MSC)は、骨髄、胎盤、臍帯血および脂肪組織などの様々な組織から分離することができる。MSCは免疫抑制性サイトカインなどを分泌することによって、臓器傷害を抑制したり臓器修復を促進したりする作用を発揮する。ヒトの摘出肺灌流モデルを用いた研究では、同種骨髄から得たヒトMSCを投与するとエンドトキシンによる肺浮腫および重症肺傷害が改善することが示されている。この効果の80%は、MSCが分泌するケラチノサイト増殖因子によってもたらされる。周産期低酸素による肺傷害のあるネズミ新生仔にMSCまたはその培養液を投与すると、肺傷害が改善することが二編の研究で明らかにされている。MSCから分離された微小胞が、動物モデルの急性腎不全の改善に有効であることが報告された。腹膜炎敗血症マウスモデルにMSCを静脈内投与すると死亡率が低下することが明らかになった。MSCを投与すると、肺胞マクロファージがPGE-2を介して再プログラミングされ抗炎症性サイトカインであるIL-10が増えることが、死亡率低下の主な理由である。

教訓 抗血小板療法を行うと、肺傷害の重症度が低下する可能性があります。
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