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小児肺疾患最前線2009③ [critical care]

Update in Pediatric Lung Disease 2009

American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2010年4月1日号より

環境曝露と肺の発達

胎児および乳児の肺に対する環境の影響は、たいへん重要な研究分野である。なぜなら、長じてからの肺機能障害に環境要因が関与ししている可能性があるからである。宿主と環境曝露の相互関係についての新たな見解が示されており、動物実験もヒトに関する研究も機序を明らかにする方向へと進んでいる。最近では、タバコ煙やディーゼル排ガス中に含まれる粒子状物質への曝露の影響、ディーゼル煤煙とその他の物質とに同時に曝露された場合の相乗作用、そして肺に悪影響をおよぼす物質の一つであるアルコールについての研究が進んでいる。ディーゼル排ガス中の粒子状物質は肺の炎症/傷害を引き起こす物質としてよく知られており、成体マウスをディーゼル粒子とLPSに同時曝露すると炎症が重篤化することも明らかになっている。Ryanらが2009年に行った報告では、排気ガス粒子に曝露されている乳児とそうでない乳児を比べると、生後36ヶ月時点において難治性の喘鳴を呈する割合は前者の方が高いとされている。さらに、マウスの研究と同様に、排気ガス曝露とともに家庭内でエンドトキシンに曝されている乳児では、喘鳴の相乗的悪化が認められることが分かった。以上のような憂慮すべき知見に加え、Autenらは妊娠中マウスの気道を排気ガス粒子に曝露したところ、生後4週の仔マウスの肺において炎症マーカーが中等度上昇することを明らかにした。そして、妊娠中に排気ガス粒子に曝露されたマウスから生まれた仔マウスにオゾンを吸わせると、肺の炎症が大幅に増強した。以上の研究結果から、母体または生後間もない時期の排気ガス粒子への曝露は発達中の肺に有害であり、排気ガスに加え他の物質(エンドトキシンやオゾンなど)にも曝露されるとさらにその傾向が強まるものと考えられる。

母体の喫煙や新生児のタバコ煙への曝露が肺の発達と機能に悪影響を及ぼすことは広く知られている。この件については、先頃HylkemaとBlacquiereがレビューを著した。タバコ煙による肺傷害には、タバコ煙の複数の成分が介するものと、ニコチンのみが介するものがある。新生仔マウスをタバコ煙に曝露すると、自然免疫能に関与する遺伝子の発現が減少し、出生後の肺の発達が遅滞することが最近の報告で明らかにされている。妊娠中マウスをタバコ煙に曝露すると、子宮内マウス胎仔に気道のリモデリングが生じ、アレルゲンへの反応が増強する。別の最近の研究では、妊娠中の喫煙は早期産児の低酸素刺激からの回復能を低下させ、乳児突然死症候群の危険性を増大させる可能性があることが示されている。妊娠中の喫煙と幼小児期のタバコ煙曝露による有害作用を示す文献が、この回避可能な環境曝露を減らす取り組みの徹底につながるはずである。

妊娠中の喫煙が、小児期から場合によっては成人期以降にもわたる長期的影響をもたらす機序が解明されつつある。少し前にGillilandらが行った研究では、異物の解毒や抗酸化作用の発揮に寄与するグルタチオンS転移酵素が、ヒトでは共通する無効対立遺伝子を有する場合があることが明らかにされている。母親が妊娠中に喫煙していると、この無効対立遺伝子がある子供では喘息発症例が多い。この関連性についてはBretonらがグルタチオンS転移酵素の配列変異モデルを用いて、詳しく説明している。ある種の遺伝子変異がある小児では、母親が喫煙者であると8歳時点における1秒率の低下が認められる。さらにBretonらは、妊娠中の喫煙が、胎児の特定の遺伝子および遺伝子全般のDNAメチル化を変化させることを明らかにした。このことから、エピジェネティックな(epigenetic; DNAメチル化修飾などによる発生上での遺伝子機能変化)機序によって、妊娠中の喫煙が一生にわたる悪影響を児に与えているものと考えられる。

タバコ煙やディーゼル煤煙と同様に、胎児期のアルコール曝露によって肺の発達が妨げられることがある。妊娠後期にヒツジ胎仔をアルコールに毎日曝露すると、サーファクタントタンパクmRNAの発現と炎症促進性サイトカインの反応が抑制される。Kervernらは、これとは異なる動物モデルを用いた実験を行い、新生仔ラットでは周産期にアルコールに曝露されると低酸素状態に陥ったときの呼吸促進が妨げられることを明らかにし、胎児のアルコール曝露が新生児突然死症候群の危険性を増す可能性があることを示した。母体、胎児および新生児が煤煙、タバコ煙、アルコール、エンドトキシンに曝されるような環境では、同時にどんな事態が起こっていてそれがどのような継続的な影響をもたらすのか、想像を巡らせるしかない。これらの物質への曝露は、いずれもが肺の発達を遅滞させ、それが後年の肺機能障害につながる。以上のような研究は、子供たちの肺の発達を妨げる要因を減らす社会全体の取り組みを後押しするに違いない。

教訓 排気ガス、タバコの副流煙、エンドトキシンおよびアルコールは、いずれも胎児や乳児の肺の発達に悪影響を及ぼします。

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