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CVCとA lineの細菌定着率は同等~考察 [critical care]

Infectious risk associated with arterial catheters compared with central venous catheters

CCM 2010年4月号より

考察

今回行った大規模多施設研究で得られた、細菌定着率とその危険因子についての主な知見は以下の二つである:1) AC(動脈カテーテル)群とCVC(中心静脈カテーテル)群の細菌定着率およびCRI発生率は同等。2) AC群とCVC群の細菌定着のハザード率は異なる。

先頃行われた二編の単一施設研究でもACsとCVCsに起因する感染発生率が同等であることが示されており、我々が得た結果はこの先行研究を裏付ける形となった。CVCsと比べACsはCRI(カテーテル関連感染)のリスクが低いとされてきたが、前述の単一施設研究の一編によると、カテーテル留置のべ日数1000日あたりの細菌定着罹患密度は、ACsでは9.4件、CVCsでは12.0件であったと報告されている。もう一編の研究でも同様に、カテーテル留置のべ日数1000日あたりの細菌定着罹患密度は、ACsでは15.7件、CVCsでは16.8件であった。さらに、以上二編の研究でも我々の研究と同様に、ACsとCVCs のCRI発生率は同等であった。体系的総説では、AC-BSI(血流感染)の罹患密度はカテーテル留置のべ日数1000日あたり1.7件、CVC-BSIでもACとほぼ同等の2.1件と見積もられている。さらに、ACsとCVCsの定着細菌の種類は似通っていた。前述の単一施設研究の一編では、ACとCVCの細菌定着リスクが同等であったのは、カテーテル挿入時の感染予防策実施態様に違いがあったことが原因であると推測されている。なぜなら、AC挿入時には高度無菌遮断予防策が必ずしも全例で行われていたわけではないからである。しかし、もう一編の単一施設研究および本研究ではAC、CVCのいずれのカテーテルでも、挿入時および挿入後の管理は全例で統一されていた。そして、以上三編の研究では同一患者にACsおよびCVCsの双方が留置されている場合が大半であったので、交絡因子の影響は少ないはずである。ただし、Cox比例ハザードモデルを用いて交絡因子の調整を行い多重比較を行ったのは三編のうち我々の研究を含めた二編であり、一編では行われていない。

従来考えられてきたよりもACの細菌定着リスクが高いという結果が得られたのは、重症患者では採血や固定直しなどでACを操作する頻度が高いことが原因であろう。さらに、2002年にCDCが発表したCRI予防ガイドラインでは、ACsは定期的交換をすべきではないとされている。この推奨事項は、CVCsに関する研究で得られたデータの外挿によって導かれたものである。しかし、本研究および他の研究グループの報告では、ACsの細菌定着ハザード率は留置期間が長引くほど上昇するがCVCsではこのような傾向は認められない。感染予防の観点から我々の得た結果を吟味すると、ACsは定期的に交換すべきである。ACの定期的交換が感染予防に寄与するか否かをはっきりさせるには、前向き比較試験を行わなければならない。付け加えると、定期的なAC入れ替えは、挿入部位が限られていることや機械的合併症のリスクが増えることなどの感染以外の問題を孕んでいる。

CVCの細菌定着ハザード率は、留置後の期間によらず一定であり、過去のデータを裏付ける結果となった。一編の単一施設研究では、CVCsの留置期間が16日未満の場合と比べると16~30日におよぶ場合は感染発生率が高いことが示されているが、複数の無作為化比較対照試験において3~7日ごとの定期的なカテーテル交換を行ってもCVCによるCRIは減少しないことが明らかにされていることから、やはりCVCによる感染リスクは留置期間によらず一定であると考えられる。細菌定着が感染につながるとすれば、本研究で得られた結果から、CVC-BSIの罹患密度は医療の質を反映する指標や評価基準となり得ると言えよう。

本研究には優れた点がある一方で問題点もある。優れた点は、多施設研究であること、対象患者数とカテーテル数が多いこと、そして全ての施設においてカテーテル挿入およびその後の管理方法が統一されていたことである。内科系・外科系混合ICUにおいて患者およびカテーテルについてのデータを収集した研究としては、これが現時点で最大規模の多施設研究である。さらに、登録候補患者の大部分が実際に研究対象として登録され、追跡調査から脱落した患者数はごく少なかった。したがって、本研究の結果は、血管内カテーテルを短期間留置する必要があると見込まれるICU患者一般に敷衍することが可能であると考えられる。問題点の第一に、CRI発生率が低かったため、CRIではなく細菌定着を評価項目としたことが挙げられる。しかし、カテーテルの細菌定着は、CRIの代替指標と見なされている。その上、細菌定着とCRIの発生率の比は、ACsでもCVCsでも同等であることからも、細菌定着を評価項目としたことは妥当であったと考えられる。第二の問題点は、ACとCVCの双方が留置された患者では、どちらか一方のみのカテーテルの先端培養で細菌定着が確認された場合を除き、CRIの原因がどちらのカテーテルであるのかを判断するのが難しいことである。CVCsはACsよりも感染を起こすリスクが高いという信憑が広まっているため、判断が誤りAC-BSIsが間違ってCVC-BSIsと診断された可能性がある。しかし、CRIsが疑われた症例全例が独立した研究参加者によって評価されたので、このような誤りは最小限に止まったと考えられる。第三の問題点は、7か所のICUにおいてクロルヘキシジン浸漬刺入部保護材(CHGIS)使用の有無と被覆材交換頻度という二要因の影響を調査する目的で設計された大規模データベースを用いたことである。このため、設定された4群のあいだに相互作用が生じた可能性がある。我々は、このような問題が起こる可能性を想定して統計処理を行った。クラスタ化データについてはCox比例ハザードモデルを用いて解析して群間に相互作用がないことを確認し、ICUごとに層別化した無作為化割り当てを実施した。だが、本研究の最も大きな問題点は、観測研究であるという点である。AC関連感染のリスクが留置期間の延長に伴い増大するか否かをはっきりされるには、十分な検出力をそなえた無作為化比較対照試験を行い、動脈カテーテルの定期交換が、動脈カテーテルによるCRIsおよび動脈カテーテル挿入に伴う機械的合併症の発生にいかなる影響を及ぼすのかを評価する必要がある。ともあれ、今回の研究で得られた結果は、7日ごとに動脈カテーテルを定期的に交換すると感染予防に資する効果が得られることが強く示唆するものであると言えよう。

まとめ

重症患者では、動脈カテーテルと中心静脈カテーテルの、カテーテル細菌定着およびカテーテル関連感染発生率は同等である。つまり、ICUでは動脈カテーテルによる血流感染および中心静脈カテーテルによる血流感染のいずれもが、監視および予防の対象とされるべきであるということである。中心静脈カテーテルと異なり、動脈カテーテルにはカテーテル細菌定着のリスクが挿入期間が長くなるほど上昇するという特徴が見いだされた。

教訓 現行のガイドラインではCVCの定期交換は不要であるとされています。この研究でも、CVCの細菌定着リスクは留置期間によらず一定という結果が得られました。一方、A lineは留置期間が長引くと細菌定着リスクが上昇することが明らかになりました。したがって、A lineは7日ごとに入れ替えるのがよさそうです。
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