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敗血症:治療の進歩と免疫異常のポイント① [critical care]

Advances in the Management of Sepsis and the Understanding of Key Immunologic Defects

Anesthesiology 2011年12月号より

敗血症とは、重症感染によって引き起こされた全身性炎症反応である。敗血症によって臓器不全が発生した場合を、重症敗血症と言う。敗血症患者の全体像は往々にして非常に派手で、高熱、ショックおよび呼吸不全などを呈する。敗血症を炎症反応が亢進し制御不能になった状態と捉える説が長年にわたって大勢を占めてきたのは、このように仰々しい臨床像が見られることが一因である。Lewis Thomasは、敗血症による死亡や合併症の要因として最も重視すべきなのは微生物というよりも宿主反応であるという仮説を考え、敗血症が制御不能な炎症反応の結果として起こる病態であるという説を巷間に流布した。そして、以下のような推測を述べている。「微生物はあたかも我々に恨みを抱いているかのような振る舞いをしているごとくに見えるが、むしろ、そこに居合わせているだけなのだと言えよう。(中略)微生物に対する我々の反応こそが、敗血症を引き起こすのである。細菌を殲滅するために人間の体に備えられている兵器工場はとてつもない威力を持ち、外部からの侵入者よりも我々自身の方がこの兵器による攻撃という危険に曝されているのである。」TNFやIL-1をはじめとする数多の強力なサイトカインが発見され、こういったサイトカインが敗血症患者で増えていることや、動物に投与すると敗血症で見られるのと同様の臨床症候や検査値の異常を再現できることから、上記の説の信憑性が裏付けられ敗血症を「サイトカインの嵐」と捉える考え方が生まれた。敗血症の一部では(例えば髄膜炎菌血症)、循環血液中のTNF-α濃度が著しく上昇し、上昇幅が大きいほど死亡率が高いことが示されている。宿主体内で起こる「サイトカインの嵐」による反応が制御を失った炎症亢進状態と臓器不全を招くという理路を信じる製薬会社は、敗血症に関するいくつもの臨床試験(例; TNFやIL-1のアンタゴニストについての試験)に着手した。様々な抗炎症薬剤に関する25編を超える試験の結果は、いずれも有効性を裏付けるどころか、中にはかえって生存率が低下することを示したものもある。このような惨憺たる顛末を受けて、一部の研究者は敗血症の病態生理についての理解を根本的に見直す必要性を指摘するようになった。

研究者たちが、敗血症における宿主反応についての先行研究についてそれまでとは違った見方をするようになり、また、新しい研究が行われるにつれ、敗血症患者では炎症促進反応とともにそれとは反対の抗炎症反応も同時に起こっていることを示すデータが蓄積されてきた。敗血症患者の循環血液中サイトカインについての研究では、炎症促進サイトカインだけでなく、強力な抗炎症作用を持つIL-10も血中に多量に存在することが明らかにされている。van Disselらは感染が疑われ入院した患者464名についてサイトカインと死亡率について検討した。その結果、市中感染症患者ではIL-10/TNF-α比が高いほど転帰が不良であることが分かった。別の研究グループは、敗血症によって炎症促進サイトカインと抗炎症サイトカインの産生がいずれも障害されることを明らかにしている(つまり、あらゆる細胞のサイトカイン産生が全般的に低下するということ)。Ertelらは、敗血症の重症患者と敗血症ではない重症患者から採取した全血をリポ多糖(LPS)で刺激し、非敗血症患者と比べ多くの敗血症患者ではTNF-α、IL-1βおよびIL-6の産生が10-20%程度低下していることを示した。同様にSinistroらは敗血症患者と非敗血症患者から採取した末梢血単球を刺激し、炎症促進サイトカインを産生する細胞が占める割合を定量評価した。敗血症患者ではサイトカインを産生するのは採取した単球の5%未満に過ぎなかったが、対照群では15%以上の単球がサイトカインを産生することが分かった。Weighardtらは、腹部手術後の敗血症患者におけるリポ多糖刺激による単球のサイトカイン産生について検討した。術後敗血症が発症すると、単球による炎症促進および抗炎症サイトカインの産生能がいずれも直ちに低下することが明らかにされた。抗炎症反応ではなく炎症反応の回復が良好であると生存する可能性が高いという相関が認められた。敗血症患者の血液を用いた以上の諸研究から、敗血症が発症すると炎症促進サイトカインおよび抗炎症サイトカインの両方が速やかに産生され、敗血症が必ずしも無秩序な炎症亢進状態を引き起こすわけではないことが分かる。

教訓 敗血症患者では炎症促進反応だけでなく抗炎症反応も起こっています。TNFやIL-1のアンタゴニストによって敗血症を治療しようとする試みはことごとく失敗に終わっています。
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