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敗血症:治療の進歩と免疫異常のポイント② [critical care]

Advances in the Management of Sepsis and the Understanding of Key Immunologic Defects

Anesthesiology 2011年12月号より

病原体の認識をはじめとする細胞の受容体シグナル伝達経路の発見という画期的な出来事によって敗血症の理解が一層深化しただけでなく、驚くべき事実が明らかになった。自然免疫系を構成する細胞はToll様受容体(TLR)というパターン認識受容体を介して病原体を認識し、病原体に対する反応を引き起こす。TLRはグラム陽性菌、グラム陰性菌、真菌およびウイルスといった幅広い種類の病原体が共通して持つ分子の認識を担う、細胞パターン認識受容体ファミリーである。病原性のある抗原によってTLRが活性化されると、アダプタータンパクが集まり、次いで間髪入れず数多のプロテインキナーゼが活性化される。最終的に細胞のシグナル伝達によって炎症の制御に関わる遺伝子が発現し、炎症促進サイトカインおよび抗炎症サイトカインの産生が増える。当初は、こういった一連の動きに関わる受容体を阻害すれば、敗血症の症状を緩和できるのではないかと推測されていた。実際、TLRが遺伝的に欠損したマウスは、エンドトキシンを投与してもその致死的作用に対して目覚ましい抵抗性を発揮することが実験で明らかにされた。しかし、TLRノックアウトマウスやTLRが関与する経路の薬理学的阻害についての研究では、臨床で遭遇する症例により近い本物の細菌による敗血症モデルを用いると、対照マウスと比べTLR欠損または機能不全マウスの方が死亡率が高いことが明らかにされた。敗血症においてTLRを阻害すると悪い事態を招きうることを示したこのような研究は、TNF(マクロファージのTLRが活性化されると放出される重要な炎症促進サイトカイン)を阻害すると敗血症モデル動物の生存率が低下するという結果を得た研究と軌を一にするものである。例えば、MooreらはKlebsiella pneumoniaeを接種して作成した敗血症マウスを用い、TNF-αを阻害すると細菌除去能が低下し生存率が低下することを明らかにした。Rijneveldらは肺炎球菌肺炎による敗血症マウスモデルのTNFを阻害すると細菌の増殖が活発になり死亡率が上昇することを示した。これらと関連し、自己免疫疾患患者の治療に用いられるTNF阻害薬やIL-1阻害薬(例;関節リウマチ患者に投与されるエタネルセプト)が敗血症発症リスクを増大させることも分かっている。TLR4アンタゴニスト「エリトラン」(エーザイ)の敗血症治療薬としての第三相臨床試験が失敗に終わったことからも、細胞が病原体を認識・反応する作用を阻害することによって敗血症を治療するのは困難であることが強く印象づけられる。以上のようなTLR阻害についての各種研究から我々が学ぶべき重要事項は、体内に侵入した病原体を宿主が察知し反応するという一連の作用を阻害するという発想を展開するには慎重さが必要であるということである。TLRという受容体は、感染の発生を早期に警告し、速やかな対処を促すという目的のために存在している。場合によってはこの経路の機能を低下させることが好ましい結果を生むこともあるかもしれないが、そうであってもTLRの阻害は段階的に行うべきであり、おそらく免疫反応の初期段階が活性化されるのを待ってからでなければならないのであろう。

教訓 Toll様受容体(TLR)は病原体を認識し、病原体に対する反応を引き起こします。TLRはグラム陽性菌、グラム陰性菌、真菌およびウイルスといった幅広い種類の病原体が共通して持つ分子の認識を担う、細胞パターン認識受容体ファミリーです。TLRを阻害しても敗血症は治りません。
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