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TAAAの麻酔~術中管理① [anesthesiology]

Case Scenario: Anesthetic Considerations for Thoracoabdominal Aortic Aneurysm Repair

Anesthesiology 2011年11月号より

モニタと左心バイパス

胸腹部大動脈瘤手術を受ける患者の管理において成功を収めるための鍵は、血行動態の変化および血管内容量の変化に間髪を入れず対応する能力である。術前の不安感や、侵襲的モニタリングに使用する各種カテーテルを術前に留置することに伴う疼痛は、血圧や心拍数の上昇につながり動脈瘤破裂のリスクを増大させる可能性がある。したがって、麻酔導入前にカテーテルを留置する際には、患者の状態が許すのであれば適切な鎮静を行う。動脈圧ラインの挿入部位としては右橈骨動脈が主流である。左橈骨動脈だと、左鎖骨下動脈より近位で大動脈を遮断すると動脈圧のモニタリングができなくなってしまうからである。稀ではあるが、右鎖骨下動脈に異常があり修復されていない場合は、右橈骨動脈を用いた血圧のモニタリングは困難である。このような場合は、麻酔科医と外科医で話し合って動脈圧モニタリングに最も適した部位を決定しなければならない。左心バイパスを用いる場合は、右橈骨動脈に加え大腿動脈にもカテーテルを留置し下半身の灌流圧を監視する。

中心静脈ラインを確保するのに際し、「二本刺し」が行われることが多い。同じ中心静脈に二本のイントロデューサを留置し、一本は中心静脈カテーテル、一本はシースの挿入に用いて、シースからは肺動脈カテーテルを挿入する方法である。胸腹部大動脈瘤の術中には、血管内容量の変化に対応したり、急速輸血をしたりするため急速輸液装置が必要である。経食道心エコーは、前負荷の変化や心室機能の補助的モニタリングとして有用である。

Ⅰ型およびⅡ型胸腹部大動脈瘤の手術では、左心バイパスが有効である(fig.4)。Ⅲ型やⅣ型の胸腹部大動脈瘤の手術でも左心バイパスが行われることがあるが、その有用性は証明されていない。左心バイパスは、左房から脱血し、酸素化した血液を大動脈遠位または大腿動脈へ送り込む方法で、近位大動脈遮断中も脊髄、腎、腸間膜および下肢の血流が維持される。大動脈遮断前から左心バイパスは開始される。そうすれば左室の前負荷を減少させることができて、大動脈遮断による急激な血圧上昇が抑えられ、血管拡張薬の使用を最小限にとどめられるからである。

抗線溶療法

腹腔動脈より上で大動脈を遮断すると一次線溶が起こり凝固能低下につながる。したがって、胸腹部大動脈瘤手術の際は抗線溶療法が推奨される。しかし、抗線溶療法の有効性を裏付けるデータは乏しい(胸腹部大動脈瘤患者を対象とした無作為化比較対照試験の実施が困難であることがデータが少ないことの主な原因)。抗線溶療法を行うにあたっては、εアミノカプロン酸とトラネキサム酸のいずれを選択してもよいと考えられている。

教訓 Aラインは右橈骨動脈に留置するのが基本です。左心バイパスを行う場合は大腿動脈や足背動脈にもAラインを留置します。


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