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麻酔文献レビュー 2010年11月① [anesthesiology]

Anesthesia Literature Review

Anesthesiology 2010年11月号より

Adherence to Surgical Care Improvement Project Measures and the Association With Postoperative Infections. JAMA. 2010 Jun 23;303(24):2479-85

Surgical Care Improvement: Should Performance Measures Have Performance Measures. JAMA. 2010 Jun 23;303(24):2527-8

周術期管理向上プロジェクト(Surgical Care Improvement Project; SCIP)で策定された周術期感染および合併症発生率低減を目的とする様々な手法が、多くの施設で活用されている。しかし、この手法の有効性を検討した各施設からの報告によれば、結果にはばらつきがある。

本研究では2006年7月1日から2008年3月31日までにPremier社(患者の安全性の向上と医療コストの削減を両立させることを目的とし、2006年時点で1,700の病院および43,000の医療関連組織にサービス提供を実施する医療関連団体。提携を活かした団体購入およびサプライ・チェイン・マネジメント、保険およびリスクマネジメント、情報および業務改善ツールという3つのサービスを提供している。)のPerspectiveデータベースに収集された398ヶ所の病院のデータを用い、SCIPが策定した6つの感染予防策と術後感染発生率との関連を評価した。対象となった感染予防策は以下の通りである:執刀前一時間以内に抗菌薬の予防投与を行う、抗菌薬投与を手術終了24時間後までに終了する、心臓外科手術患者では術後毎朝6時に血糖値を測定する、適切な除毛、結腸直腸手術後は直後から体温保持を心がける。

405,720名のデータが得られた。このうち、62.4%が女性、68.7%が白人、45.7%がメディケイド患者であった。予定手術が過半(67.8%)を占めた。大半の手術が、都市部(81.0%)の非教育病院(68.3%)で行われた。術後感染が発生したとして申告されたのは3996例であった。術後感染発生例は、非発生例と比較し高齢で、少なくとも一つの基礎疾患を有する者が多く、緊急入院例が多かった。さらに、感染申告例の多寡は病院特性と有意な相関があり、北東部の都市に所在する大規模教育病院で多かった。全体的には、感染予防策の遵守率は2年のあいだに上昇した。だが、SCIPの感染予防策一つ一つの申告遵守率や抗菌薬の使用法の申告遵守率が上昇しても、感染リスクは低下しないという結果が得られた。実際、本研究の対象データが収集された2年のあいだに術後感染発生率はかえって上昇したのである。

解説
術中に抗菌薬を投与し記録に残すのは、今や麻酔科医の常識になっている。SCIP感染予防策のいずれについても、遵守率と感染発生率の相関は認められなかった。SCIPの提唱する方法を徹底しようとする努力が払われているが、遵守率は向上したものの、術後感染に関わる転帰は改善していない。

Postoperative handover: problems, pitfalls, and prevention of error. Ann Surg. 2010 Jul;252(1):171-6.

患者の引き継ぎを効率的に行うことは、医療の質や患者の転帰を向上させる重要なステップである。米国の医療過誤による損害請求事例の20%が患者引き継ぎに関わる過失であり、手術患者を対象とした最近の研究では、麻酔担当者の67%において重要情報の伝達に遺漏があることが報告されている。

術後の患者引き継ぎにおける情報伝達と意思疎通の問題を明らかにし、患者引き継ぎにおけるコミュニケーションの標準化につながる新しい手順を開発・評価するため、半構成的面接調査による2段階の質的研究を行った。データ収集段階では、経験年数の異なる外科医(7名)、麻酔科医・麻酔看護師(5名)および看護師(6名)を対象に、外科および患者安全を専門とする研究者が面接を行った。コード分類過程における単体分割と信頼性を保証するため、研究内容を関知しない複数の担当者がコード分類に携わった。評価段階では、デルファイ法を採用し50名の外科系専門医の意見を集約した。

面接調査によって、患者引き継ぎには不備があることが明らかになった。その理由は、引き継ぎという行為のプロセスが正式に決められておらず、統一もされず、人によってばらばらなやり方で行われているから、というものであった。面接対象者のほぼ全員が、患者引き継ぎの場面には外科医と麻酔科医(または麻酔看護師)が立ち会うべきであると答えた。手術室看護師が立ち会うべきと言う意見も過半を占めた。次に、28項目から成るチェックリストを構築し有効性を評価した。重要度スコアの平均が4.0を超えた21項目を術後引き継ぎ手順(案)に収載し以下のような見出しを付けた:患者情報、手術情報および麻酔情報。

解説
医療従事者間の情報伝達と意思疎通を適切に行うことは、患者ケアの向上に欠かせない。術後患者の引き継ぎは、多くの場合、標準的な方法が決められておらず統一されていない。引き継ぎの標準手順を導入しコミュニケーションを改善することは、医療過誤の防止に他の何よりも有効である可能性がある。本研究で開発された方法によって、ある麻酔科医から別の麻酔科医へと麻酔を引き継ぐ際の過誤が減るかどうかはさらに研究を重ねて検証する必要がある。

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