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外傷と第Ⅶ因子~考察 [critical care]

Results of the CONTROL Trial: Efficacy and Safety of Recombinant Activated Factor VII in the Management of Refractory Traumatic Hemorrhage

J Trauma 2010年9月号より

考察

CONTROL試験は予定より早期に中止された。したがって、主要エンドポイントについては検出力が不足しているため、得られた結果の解釈について本項で論ずることにする。それはともかく、外傷に関連する大規模無作為化試験は極めて少数しか存在しない。したがって、この研究から学ぶべきことはたくさんある。他の新しい治療法と同じく、rFⅦaの評価における重要な論点は以下の三つに集約される:一、期待通りの効果があるのか?二、安全か?三、結局、患者に有用なのか?

出血量と血液製剤の使用量を減らす方策を考えると、凝固促進作用のある物質が真っ先に思い浮かぶ。本研究では出血を呈する外傷患者にrFⅦaを投与すると血液製剤の使用量が減少することが明らかになった。治験実施計画に適合した患者のみを対象とした外傷患者対象のrFⅦaに関する前向き研究が、過去に行われている。その研究でも同じような結果が得られた。しかし本研究では実施計画から逸脱した患者も対象に含めるITT解析を行い、外傷患者においてrFⅦaが止血作用を発揮することを明快に示したと言える。血液製剤使用量の低減幅は取るに足らないほど少ないと論難する意見もあろうが、重症疾患においては血液製剤の使用量をわずかであっても減らすことが重要であるという報告もある。

本研究の二つ目の重要な目的は安全性の評価である。血液製剤使用量低下効果はrFⅦa投与量が増えるほど大きくなると考えられるため、起こりうるリスクを明らかにすることは大変重要である。重症外傷後は血栓性合併症の発生頻度が高く、凝固能を亢進させる治療は血栓性合併症のリスクを増大させるおそれがある。さらに、比較対照試験ではない研究ではrFⅦaを投与すると血栓性合併症の発生数が増加する可能性が示されている。したがって、外傷患者を対象とした二編の大規模無作為化比較対照試験で(本研究とBoffardらが行った試験;二つ合わせて対象患者数は837名)、安全性評価については検出力が不足していたとはいえ、偽薬群と比べrFⅦa群において血栓性合併症の増加が認められなかったのは非常に重要な点である。本研究ではrFⅦaを使用すると血液製剤使用量が減少し、しかも合併症は増加しないことが確認されたので、外傷患者の中でもrFⅦaの治療効果が最大限得られる特異的な集団を明らかにすべく研究をさらに重ねることが望まれよう。

本研究の三つ目の重要な目的は、rFⅦaの効果と副作用をすべて考え合わせて解析してみて転帰が改善するかどうかを評価することである。本研究の標本数では、死亡抑止効果は認められず、多臓器不全の発生頻度が低下する傾向があることが分かるにとどまった(p=0.06)。外傷症例はばらつきがおおきいため、生存率の向上を検証するのは元来困難である。しかし本研究の場合、当初予測したよりも対象患者全体の死亡率が低かったため検出力不足になってしまったという問題がある。とはいえ、このCONTROL試験は今までに行われた外傷患者対象の前向き試験としては最も大がかりなものの一つであり、予測よりも死亡率が低かったという事実自体に重みがある。先行する前向き研究のデータおよびレジストリデータを基に、偽薬投与群の死亡率をおよそ30%と見積もった。だから、死亡率がこの半分以下であったことは極めて意外であった(Table 2)。理由は二つ考えられる。第一に、登録基準もしくは除外基準が不適切であり予測よりもリスクの低い患者集団を登録してしまった可能性がある。本研究では4単位から8単位の赤血球製剤を登録したにもかかわらず、その後大量輸血が行われたのは、rFⅦa投与症例に限ると貫通外傷ではわずか30%、鈍的外傷では50%にとどまった(Table 2)。大量輸血が行われる症例こそ、止血を図る治療法からより多くの恩恵を受けると考えられるため、本研究の対象患者において大量輸血が実際に行われた患者が多くなかったのは遺憾なことである。

二つ目の理由として考えられるのは、「最新最良の診療」プロトコルを適用しその遵守状況を監視したことによって治療の質が向上し死亡率が低下した可能性があることである。我々が診療プロトコルを作成し適用したのは、各参加施設内および参加施設間の診療内容のばらつきによる臨床転帰のばらつきを最小限に抑えることが最大の目的であった。しかし、このプロトコルでは複数科の専門家による積極的な「ダメージコントロール」止血治療、エビデンスに準拠した人工呼吸管理およびエビデンスに準拠した血液製剤の使用法が義務づけられている(補遺参照)。このいずれもが、本研究で評価対象となった転帰を相加的に改善すると考えられる。さらに、各参加施設のプロトコル遵守状況は絶えず監視され直ちにフィードバックされた。したがって、CONTROL試験は早期に中止され検出力が不足してしまったとはいうものの、我々が作成したエビデンス準拠プロトコルによって出血患者の生存率が大きく改善することが示されたのではないかと考えられる。

以上から、我々は現行の最新最良の方法を組み合わせた診療が外傷患者の生存率向上に寄与することを確信し、一方で、何か一つの薬の投与によって外傷患者の生存率が上昇するとは考え難いという結論に達した。進歩は弛まず続き、それほど決定的ではない転帰のすこしずつの改善がいくつも集合することによって、死亡率や生存率などの決定的な転帰の改善が得られるのである。rFⅦaに止血作用があることは明らかなので、rFⅦaの投与によって顕著な効果が得られる患者群を明らかにする努力は今後も続けるべきである。ただしその場合には、血栓形成を促進する治療法のリスクを常に注意深く警戒し、大血管の損傷が疑われる場合には出血源の直接的制御が出血制御の骨法であることを絶対に忘れてはならない。

教訓 この研究は、治療プロトコルを厳格に適用したため、予測したより死亡率が大幅に低下してしまい、そのせいで早期に中止されました。外傷患者の出血は、何かミラクルな薬でなんとかなるものではありません。CONTROL試験ではrFⅦaの決定的効果は示すことができませんでしたが、エビデンスに基づいた適切な治療法を組み合わせて行うことによって外傷患者の転帰が改善するということが確認されました。
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