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敗血症性ショックの治療におけるドパミンとノルエピネフリンの比較~はじめに [critical care]

Dopamine versus norepinephrine in the treatment of septic shock: A meta-analysis

Critical Care Medicine 2012年3月号より

敗血症性ショックは致死的な病態であり、その死亡率は50%に迫らんとする勢いである。大量の輸液を投与しても昇圧薬を投与しなければ低血圧を是正することはできないことが多い。現在使用されている昇圧薬のうち最も頻用されているのは、ドパミンとノルエピネフリンである。いずれもアドレナリン作動薬であるが、薬理学的特徴は異なる。両剤ともαアドレナリン受容体を刺激し血圧を上昇させるが、ノルエピネフリンよりドパミンの方がこの作用は弱い。だがβアドレナリン受容体刺激作用はノルエピネフリンよりドパミンの方が強いので、心拍出量を増大させる作用はドパミンに分があるかもしれない。とは言え、βアドレナリン受容体を刺激すると頻脈や不整脈を誘発したり、細胞代謝を亢進させたり、免疫を抑制したりする可能性がある。また、ドパミンはドパミン受容体を刺激するので、内臓および腎血流を増やすと考えられているが、重症患者においてはこの作用は臓器不全の予防にはつながらないことが明らかにされている。ドパミン受容体が刺激されると、視床下部-下垂体機能が変化しプロラクチンと成長ホルモンの血中濃度が大幅に低下する。

現行のガイドラインでは、敗血症性ショック患者に使用する昇圧薬の第一選択はドパミンもしくはノルエピネフリンのいずれかとされている。複数の観測研究において、ノルエピネフリンと比べドパミンを使用した場合の方が死亡率が高いという結果が報告されている。ただし逆の結果を示した研究も一編だけ存在する。Cochraneグループが2004年に行ったメタ分析では、敗血症性患者を対象としてドパミンとノルエピネフリンの比較を行い、転帰についての情報を記した無作為化比較対照研究は、わずか三編しか報告されていないことが分かった。対象患者の総計は62名に止まった。そして、この三編はいずれも検出力が不足しており、その時点までに蓄積されたエビデンスからはドパミンとノルエピネフリンのいずれか一方が他方より優れているかを明らかにすることはできないという結論に至った。以降、ドパミンとノルエピネフリンを比較する臨床試験が次々に行われ、この件に関する知見は格段に増えた。そのうち、ドパミンが転帰に及ぼす影響について照準を合わせた試験が二編発表されている。敗血症性ショック患者1044名を含む1679名のショック患者を対象とした大規模多施設無作為化比較対照試験では、ノルエピネフリン群とドパミン群のあいだに転帰の差はないが、ドパミン群の方が不整脈の発生率が高いという結果が得られた。もう一つの単独施設試験でも同様の結果が報告されている。VasuらおよびHavelらが著した最近の体系的レビュー二編において、ドパミンとノルエピネフリンがショック患者の転帰におよぼす影響が取り上げられている。しかしこの二つのレビューでは敗血症性ショック以外のタイプのショック患者も含んだデータを検討して、結果を導いている可能性がある。こういった新しいエビデンスが発表されたことが動機付けとなり、ドパミンとノルエピネフリンが敗血症性ショック患者の転帰に及ぼす影響を比較した観測研究および介入試験についてのメタ分析を行うことにした。

教訓 ドパミンはドパミン受容体を刺激するので、内臓および腎血流を増やすと言われてきましたが、重症患者においてはこの作用は臓器不全の予防にはつながりません。ドパミン受容体が刺激されると、視床下部-下垂体機能が変化しプロラクチンと成長ホルモンの血中濃度が低下します。
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術後疼痛管理ガイドライン② [anesthesiology]

Practice Guidelines for Acute Pain Management in the Perioperative Setting: An Updated Report by the American Society of Anesthesiologists Task Force on Acute Pain Management

Anesthesiology 2012年2月号より

Ⅳ. 周術期における疼痛管理法

・周術期の疼痛管理に従事する麻酔科医は、硬膜外腔またはクモ膜下腔オピオイド投与、オピオイド静脈内投与によるPCA、区域麻酔法といった治療手段の中から、各症例について危険性と便益を十分検討した上でいずれかを選択する。
 ○「必要に応じ」オピオイド筋注というような疼痛時指示ではなく上に挙げたような鎮痛法が望ましい。
・麻酔科医は自らの技能習熟度を踏まえ、個別の状況において安全に実施することができる鎮痛法を選択する。
 ○安全に実施できるということは、選択した鎮痛法の開始後に発生した有害事象を見つけて対応することができるという意味である。
・持続投与法を選択した場合は、薬剤が蓄積することにより有害事象が発生するおそれがあるため特に注意を払わなければならない。

Ⅴ. 疼痛管理における多角的手法

・麻酔科医は可能な限り多角的(multimodal)な疼痛管理を実施すべきである。
 ○禁忌でなければNSAIDs、COX1阻害薬またはアセトアミノフェンを定時投与する。
 ○局所麻酔薬による区域麻酔を考慮する。
・有害事象の発生リスクを極力抑えつつ、最大限の効果が得られる量を投与する。
・使用する薬剤、投与量、投与経路および投与期間は、症例ごとに決める。

Ⅵ. 患者群ごとの注意

・小児患者
 ○子供の痛みに対しては昔からおざなりな対処しか行われてきていない。この慣習を克服するため、強力かつ積極的な疼痛管理を行わなければならない。
 ○痛みを伴う手技や手術を受ける子供の周術期管理の一貫として、発達程度に応じた適切な疼痛の評価と治療を実施する。
 ○鎮痛法は、年齢、体重、基礎疾患に応じて決定し、禁忌でなければ多角的鎮痛法を行う。
 ○疼痛が情動に及ぼす影響を踏まえ、可能であれば行動療法を導入する。
 ○多くの鎮痛薬は鎮静薬と併用すると相乗効果を発揮するため、術中および回復期には適切な監視が必須である。
・高齢患者
 ○周術期管理の一環として疼痛の評価及び治療を行う。
 ○患者の認知能力に適した疼痛評価法を用いる。除痛が達成できていないことを患者自身が伝えることができないことがあるため、積極的に詳細な評価と問いかけを行う。
 ○高齢者は疼痛や鎮痛薬に対して若年患者とは異なる反応を示す場合があり、多くは基礎疾患に起因することを認識していなければならない。
 ○高齢患者は往々にして普段から何らかの薬剤(サプリメントや健康食品などを含む)を服用していることもあり、疼痛管理による傾眠などの副作用が重大な事態に発展することがある。有害事象を避けつつ適切な疼痛管理を行うには投与量を慎重に調節する必要がある。
・その他の患者群
 ○重症患者および認知能力や意思疎通に問題のある患者に対しては、最適な周術期疼痛管理を確実なものとするため、特別な対処が必要となることがあることを認識しておかなくてはならない。
 ○血圧や心拍数が上昇したり興奮が見られたりする場合は、疼痛以外の原因が除外されているならば鎮痛薬を診断的に投与することを考慮すべきである。

教訓 安全に疼痛管理を行うには、選択した疼痛管理に起因する有害事象を遅滞なく発見し、迅速かつ適切に対処することができなければなりません。
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術後疼痛管理ガイドライン① [anesthesiology]

Practice Guidelines for Acute Pain Management in the Perioperative Setting: An Updated Report by the American Society of Anesthesiologists Task Force on Acute Pain Management

Anesthesiology 2012年2月号より

Ⅰ. 術後疼痛管理に関する方針と手順

・周術期の疼痛管理に関わる麻酔科医は他の職種と適切に協力し、病院職員に対する継続的な教育と訓練に取り組み、自施設内で実施可能な疼痛治療の手段を有効かつ安全に活用できるよう知識と技量を身につけさせるように努めなければならない。
 ○教育内容はベッドサイドで行う疼痛評価をはじめとする基本事項から、高度な疼痛管理法(例, 硬膜外鎮痛法、PCA、各種区域麻酔法)や薬を使わない鎮痛法(例, リラックス法、イメージ法、催眠法)などを網羅する。
 ○最適な疼痛管理を実現するには、新規入職者を自施設の技能水準に適合させたり、全職員の技能水準を維持したり、疼痛管理の手順に何らかの変更を加えた場合にそれを周知するには、教育と訓練の継続的な実施が必須である。
・麻酔科医とその他の医療従事者は統一化された実効的な方法に従い、疼痛強度、疼痛管理法の効果の程度および副作用を定期的に評価し記録するという手順を徹底する。
・麻酔科医には、病棟看護師、外科医またはその他関係する医師からの周術期疼痛管理に関する問い合わせにいついかなるときも応ずる責務がある。
 ○周術期鎮痛法によって何らかの問題が生じた場合には、病棟看護師、外科医またはその他関係する医師は患者評価について麻酔科医に協力する。
・周術期疼痛管理に従事する麻酔科医は、急性痛管理の手法にならって周術期疼痛の治療に当たる。
 ○こうした疼痛管理に関わる麻酔科医は、各施設における統一した方針や手順の策定に関わるべきである。

Ⅱ. 術前評価

・術前評価の段階で、疼痛管理について想定し疼痛に関する既往歴を聴取し理学的所見をとり、疼痛管理の計画を立てる。

Ⅲ. 術前準備

・周術期疼痛管理の術前準備としては、常用薬の適切な調節または継続による禁断症候群の防止、以前からある疼痛の治療、術後疼痛管理に備えた治療の術前からの開始などが挙げられる。
・周術期疼痛管理に従事する麻酔科医は他職種と適切に協働し、患者及びその家族の教育に取り組み、快適な疼痛管理の実現、疼痛の程度や様態の報告、および推奨される鎮痛法の適正実施に関して、患者とその家族には重要な役目があることを伝えなければならない。
 ○有害作用や薬物依存についてのリスクを過大視しがちな巷間に流布する誤解を払拭する。
 ○PCAやPCEAなどの高度な鎮痛手段を患者が使いこなせるように教育するには、術前評価時に鎮痛法について説明したり、鎮痛に関する選択肢について解説したパンフレットやビデオを提供したり、術後回診時にベッドサイドで話したりするとよい。
 ○鎮痛法について患者を教育する際には、疼痛や不安感を自分で軽減するための行動療法についての指導を行ってもよい。

教訓 術後疼痛管理を適切に行うには、職員、患者およびその家族に対する教育が重要です。
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敗血症:治療の進歩と免疫異常のポイント⑮ [critical care]

Advances in the Management of Sepsis and the Understanding of Key Immunologic Defects

Anesthesiology 2011年12月号より

まとめ

将来的には、免疫を標的にした敗血症治療が検査and/or臨床所見によって各患者に適した形で行われるようになるであろう(例, 単球のHLA-DR発現が低下している患者に対するGM-CSFの投与)。同様に、フローサイトメトリによるT細胞上のPD-1/PD-1リガンド発現の定量評価や全血刺激後サイトカイン産生量の迅速分析などが、免疫修飾療法の指標として行われるようになる可能性がある。日和見病原菌(StenotrophomonasやAcinetobacterなど)感染症例やサイトメガロウイルスまたは単純ヘルペスウイルスの再活性化を来した症例は、免疫増強療法の一番良い候補である。敗血症で炎症反応が亢進している場合に免疫刺激療法を行えば悪化するかもしれないし、自己免疫反応を引き起こしたりするのではないかという懸念が生ずるが、全身性炎症反応の様々な段階にある患者(敗血症もしくは外傷)を対象として強力な免疫刺激作用のあるインターフェロンγ、G-CSFおよびGM-CSFを用いた臨床試験では、炎症反応の増悪や自己免疫反応などの有害事象は認められなかった。これには、治療に対する反応が鈍い敗血症患者の大半は免疫能が極度に低下していて炎症亢進状態にはなり難いという事情も関係している。

敗血症とは、体内に侵入した病原体と宿主免疫反応とのあいだに繰り広げられる死闘であると言えよう。病原体は宿主の防御能のうち特定の部分を無効にするという策を弄して優位に立とうとする。免疫細胞のアポトーシスを誘導したり、単球におけるMHCクラス2分子の発現を抑制したり、negative pathwayに関与する共刺激分子の発言を誘導したり、サプレッサー細胞を増やしたりするのが病原体による宿主防御能攻撃策の具体例である。免疫学が進歩を遂げ、敗血症の病態生理についての知見が蓄積されるのにしたがい、新しい治療法の方向性が見えてきた。免疫能が低下していることが確かな患者を対象として免疫刺激剤の有効性を検証する緻密な試験を行う必要がある。治療効果が期待される多くの免疫修飾剤について、敗血症以外の疾患を対象として臨床試験が行われているところである。これらの免疫修飾剤の安全性は高く、実用化に耐えうる。免疫療法には多岐にわたる効果があり、感染症領域における目覚ましい進歩を今後担うであろう。

教訓 敗血症治療の分野でこれからの発展が期待されるのは、免疫能を正確に評価する検査法とその結果に基づいた免疫修飾療法です。
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敗血症:治療の進歩と免疫異常のポイント⑭ [critical care]

Advances in the Management of Sepsis and the Understanding of Key Immunologic Defects

Anesthesiology 2011年12月号より

敗血症患者の麻酔管理

敗血症患者の治療に関連して前項までに紹介した原則の大半は、敗血症患者の周術期管理にもそのまま適用することができる。したがって、敗血症患者の麻酔管理についてはいくつかの点についてのみ手短に述べることにする。敗血症患者の管理においていかなる時も何よりも優先しなければならないのは、蘇生のABCである。まず、手術室へ安全に搬送できる程度に患者の状態が落ち着いているかどうかを確認する。まだ気管挿管が行われていない症例では、安全な搬送に少しでも不安があれば気道を確保しなければならない。中心静脈路が留置されていれば、輸液療法の指標となり得る中心静脈圧の測定、中心静脈血酸素飽和度の測定(Surviving Sepsis Campaign推奨)、ノルアドレナリンをはじめとする血管作動薬の投与などが可能である。多くの場合、中心静脈路が必要である。急速輸液に必要な大口径の末梢静脈路および一拍ごとの動脈圧測定に必要な動脈圧ラインも大半の症例では留置すべきである。ICUまたは救急部で抗菌薬が投与されていなければ、速やかに投与する。

麻酔薬の投与に先立ち、適切な輸液療法が行われ血管内容量が補正されていることを確認する。多くの麻酔薬は前負荷を減らし(静脈が拡張するため)、心筋収縮力を低下させand/or交感神経の緊張を低下させるので、麻酔導入中に動脈圧が急激に下がることがある。局所麻酔薬による脊髄クモ膜下麻酔または硬膜外麻酔も交感神経の緊張を激減するので、敗血症患者に実施すると高度低血圧を来すことになる。したがって、敗血症患者の腹部または胸部手術に対する麻酔法として選択されるのは、通常は全身麻酔である。敗血症患者では凝固系に異常があることが多いので、その場合には脊髄クモ膜下麻酔や硬膜外麻酔が禁忌であることも全身麻酔が選択される理由である。しかし、症例によっては区域麻酔が適応となることもある。数多くの基礎的研究で、麻酔薬が免疫反応を修飾させることが明らかにされているが、そうした研究の大半が、in vitro実験や動物モデル実験によるもので、臨床的にも当てはまるかどうかは分からない。現時点では、敗血症に対する宿主免疫反応の修飾作用という面からとりたてて推奨される薬剤はない。

敗血症になると胃内容が空虚になるのに時間がかかるようになり、誤嚥の危険性が増すため、敗血症患者はフルストマックであると考えなければならない。稀ではあるが術中に高血圧を呈する敗血症患者もいるが、この場合は短時間作用性の降圧薬を投与する。急激に低血圧に陥ることがあるからである。敗血症患者ではARDSなどの肺合併症が発生することが珍しくない。肺容量を維持し酸素化を改善するのにPEEPが有用である。

教訓 敗血症患者の麻酔では、安全な搬送、輸液とノルアドレナリン投与による血行動態の維持および抗菌薬投与が重要です。
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