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福島原発は津波ではなく地震で壊れた [misc]

武田邦彦氏(内閣府原子力委員会専門委員、同安全委員会専門委員)の記事を転載します。

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生活と原子力 06 なぜ「東通原発」は非常電源が入ったか?

4月7日深夜、東北地方は再び最大震度6を記録する余震に見舞われた。被災者の人はとても心配だろう。なんと言ったら良いか判らないぐらいの過酷な仕打ちだ。

でも、ここではそのような状態でも、「原発」のことを冷静に考えておきたい。

この余震で青森の東通原発と六ヶ所村の再処理施設の電源が切れ、ディーゼル発電の非常用電源を使った。震度は5と推定される。

ディーゼル発電機が動くということは「耐震設計を越えた地震に見舞われた」ということだ。

また、停止中の女川原発も震度6で通常電源がとまり、予備電源に切り替わった。ここも「耐震設計を越えた地震」ということになる。


・・・・・・・・・


5年前から私は「原発は地震で壊れる」として、安全委員会部会、講演、書籍などで原発の耐震性を考え直さなければならないと訴えてきた。

自分が「予言」したからということではない。実は予言などという大げさなものではなく、「科学的な合理性を持って原発は地震で倒れる」のであり、実に簡単な原理なのである。

それを「原発は地震で大丈夫」と口で言ってきただけなのだ。

もし、それを日本社会が理解してくれれば、原発は少しは安全になる可能性がある。

原理は簡単だ.

1) 耐震設計自体が低い(柏崎、福島は震度5、今回の地震の結果から見ると、女川は震度5、東通は震度4で設計したと考えられる)

2) 原子炉だけを守るようになっていて「原子力発電所」や「付近住民」を守ろうとはしていない。

これが現実なのに、政府、原子力委員会、原子力安全委員会、保安院、電力会社、県、市町村の首長は、いずれも、

「原発は地震で壊れない。安全だ」

と言い続けてきた。


・・・・・・


国民の安全を守るのがもっとも大切な指導者なのに、「耐震設計は4で震度5なら損傷する。そして、付近住民や電気設備ではなく原子炉だけを守る」ということを知っていながら、よくそんな発言ができると思う。

昨日、 文化系の見識のある方とディスカッションをした。なぜ、「震度4、原子炉だけ」という設計を「地震で大丈夫」と言うのか、科学者の私には理解ができないからだ。

・・・・・・実績・・・・・・

柏崎刈葉  震度6で「放射線漏れ」と「変電所火災」

福島    震度6で電源喪失、水素爆発

女川    震度5で通常電源喪失

東通    震度5で通常、予備電源ともに喪失

・・・・・・それでも全国の原発は大丈夫??・・・・・・

100%の確率で損傷、倒壊している。だから、電力会社が自主的に他の原発を止めて欲しい.

今回の東通原発は震度5で通常電源、予備電源が喪失し、ディーゼル発電機を動かした。普通の人なら「最後の砦が役に立った」と思うかも知れないが、筆者の専門の工学から見ると、「設計が4だったら、設計通り、設計が5だったら、設計ミスか施工の手抜き」という事になる。

工学というのは「まあまあ、なあなあ」ではない。震度5で設計したら、震度5で「非常事態」になってはいけない。震度5では「ビクともしない」というのが震度5の設計である.

その意味で、東通原発が震度5でディーゼル発電が動いたということは、設計か施工の欠陥である.東北電力は直ちにどちらに問題があったかを公表すべきだ。

さらに、福島原発にもトリックがある。

福島原発が「地震で倒れない」と言った政府、福島県の発言がウソではないことを印象つけるために「津波の損傷」と言ってきた。

しかし、作業員は「地震直後に上からザーッと水が降ってきた」という証言や、1号炉の圧力容器の亀裂などを見ると、震度6の最初のアタックでかなり損傷していたと考えられる.

また、たとえ津波であっても、日本には38メートルの津波を経験しているのだから、10数メートルの津波が「想定外」というなら「地震や津波で壊れる怖れがある」ということだろう。

・・・・・・・・・

いや、そんな細かいことを議論していては、大筋を見失う.

原発は、

1) 原子炉だけ守ればよい.だから、電力の供給がなくなるのは「原発の安全性」の問題では無いとしている、

2) 設計震度は「電力会社が地震学者を呼んで勝手に決めれば良い」としている、

という事実をもう一度、認識することだ。

東通原発では、震度5で最後の砦になるディーゼル発電以外の電源を失った。まるで、個人病院のようだ。

個人病院でも停電に備えて予備の小型発電機ぐらいは備えている.予備の電源があるからと言って「地震で大丈夫です」などと言うのはまったく非常識で、原発は多重防御ではなく、ほぼ1重だ。

そして、問題なのは「原子炉だけを守る」という思想だから、柏崎で変電所(場内)が燃えても「関係ありません」と言い、今度も「停電だから仕方ありません」と言うだろう.

でも、ディーゼル発電機が故障したら、東通原発は、冷却系を失い、福島原発と同じようになるのだ。電力会社の方は、「原発は地震で倒れます」と地元に行って欲しいし、自治体は「原発は地震で倒れるから、止めろ」と言うべきだろう.

再び、被曝する人を出さないために。

(平成23年4月8日 午後1時 執筆)

武田邦彦



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noctee

2011年4月30日(土)「しんぶん赤旗」
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik11/2011-04-30/2011043004_04_0.html

外部電源喪失 地震が原因
吉井議員追及に保安院認める

 日本共産党の吉井英勝議員は27日の衆院経済産業委員会で、地震による受電鉄塔の倒壊で福島第1原発の外部電源が失われ、炉心溶融が引き起こされたと追及しました。経済産業省原子力安全・保安院の寺坂信昭院長は、倒壊した受電鉄塔が「津波の及ばない地域にあった」ことを認めました。

 東京電力の清水正孝社長は「事故原因は未曽有の大津波だ」(13日の記者会見)とのべています。吉井氏は、東電が示した資料から、夜の森線の受電鉄塔1基が倒壊して全電源喪失・炉心溶融に至ったことを暴露。「この鉄塔は津波の及んでいない場所にある。この鉄塔が倒壊しなければ、電源を融通しあい全電源喪失に至らなかったはずだ」と指摘しました。

 これに対し原子力安全・保安院の寺坂院長は、倒壊した受電鉄塔が「津波の及ばない地域にあった」ことを認め、全電源喪失の原因が津波にないことを明らかにしました。海江田万里経産相は「外部電力の重要性は改めて指摘するまでもない」と表明しました。

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"La catastrophe actuelle a été provoquée par l'imprudence des hommes", Le Monde, 29/03/2011
(仏語記事からの和訳抜粋)
http://www.francemedianews.com/article-70468260.html

 仏ル・モンド紙は29日付紙面で、1988年から2006年まで福島県知事(当選5回)を務めた佐藤栄佐久氏のインタビューを掲載している。元外交官で衆議院議員でもあった佐藤氏は任期中に小泉純一郎元首相の改革政策に反対し、東京電力福島原発に闘いを挑んだことでも有名である。

 インタビューの中で佐藤前知事は、「2002年、福島第一原発の原子炉2機で炉心を包む部分に損害があるとした検査報告を東京電力が改ざんしたことを認める原子力安全・保安院の書類を受け取った。東電と原子炉の機能を監視することが目的の保安院が、その事実を2年間も秘密にしていたことは受け入れがたいことだった」と語る。この不祥事により福島原発では第1号機が運転停止され、その翌年には東電管内16の原子炉が検査のため停止された。前知事は、「今回の危機が発生するまで改ざん問題が頭から離れなかっだが、恐れていたことが現実となった。」と語る。さらに前知事は任期中の2000年以降、東京電力の下請け会社社員から「原発の安全基準が守られていない」という内容の内部告発を20通以上も受け取っていた。下請け会社の社員達は労働条件の悪さを理由に自らの安全に不安を感じてお り、原発内の検査作業も指針が決める2倍のスピードでこなさなければならなかったという。前知事は「(告発した人の)氏名を伏せて保安院に手紙の内容を伝えたが、2006年に知事の任期を終えるまで返答はなかった」と証言する。
 また佐藤前知事は、同紙の「今回の原子力危機は東電の責任か?」という質問に対し、「今回の大災害は人間の不注意過信によって引き起こされたもの。経済産業省から独立した監視機関を設置することが数年前から叫ばれているが、現時点では監督官庁は原発建設を推進するための行政機関でしかなく、(原発に対して)監視の目を光らせることができない。日本は民主主義国家と言われているが、それはある程度までで、多くの決定が不明瞭な利益算段のために行われ、また多くの分野が汚職によって生まれている」と語った。

by noctee (2011-05-05 13:16) 

vril

有用な情報をご紹介いただき、ありがとうございます。
by vril (2011-05-10 09:59) 

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