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無作為化比較対照試験との決別~その他の問題 [critical care]

We should abandon randomized controlled trials in the intensive care unit

Critical Care Medicine 2010年10月号増刊より

RCTにまつわるその他の問題

非盲検RCTにおけるリスク認知を歪めるバイアス
新薬の開発過程において二重盲検RCTの実施は必須である。通常、偽薬対照比較試験として行われる。だが、既に確立された治療法があり、どちらが優れているか分からない場合は、二つの方法を比較する試験が行われることもある。非盲検RCTでは、患者がいずれの群に割り当てられているのかを治療に携わる医師が関知することになる。そのため、担当医の考えによっては、割り当てられたのとは異なる治療が行われてしまうかもしれないというリスクを孕んでいる。したがって、深い鎮静と浅い鎮静を比較した研究では、担当医が浅い鎮静の方が良いに決まっているという強い信念を持っていたとすれば、おそらく無意識的であるにせよ、深い鎮静群の患者の治療全体を浅い鎮静群とは異なる方法で行ったかもしれない。こういう事情がこの研究の結果に影響を及ぼした可能性がある。治療法によっては、研究に関係する全員が割り当て群を知り得ないようにすることが不可能なものもある。しかし、そのような治療法について本当にRCTを実施する必要があるのであろうか? 例として、ICU退室後の経過観察の有効性を評価するという架空の研究を考えてみよう。一方の群に割り当てられた患者は非常に質の高い回復期病棟に収容され、理学療法士、心理療法士等々によって経過観察が行われる。もう一方の群に割り当てられた患者はICU退室後自宅に戻され、経過観察は行われない。患者がどちらの群に割り当てられたいと思うか、その答えは尋ねなくても自明である。この例を参考に、「満足して楽しい気分の」スタッフが関与する事がもたらす効果を評価するRCTでもやってみてはいかがであろう。一方の群の患者に対しては、笑みをたたえて楽しげに働くICUスタッフがケアを行い、もう一方の群の患者は、景気が悪そうな雰囲気を漂わせた不機嫌なスタッフにケアを行われる、という研究である。研究に取りかかるまでもなく結果は明白である。RCTはこれまで金科玉条として行われてきたが、本当にそうする必要があったのであろうか?

除外症例が占める割合が高いと臨床現場に適用しづらい
多くのRCTでは、はじめに登録候補となる症例数のうち実際にいずれかの群に割り当てられる症例数が占める割合は極めて小さい。例えば、Hebertらが行った集中治療領域における輸血量についての研究(TRICC研究)では、研究対象の候補となった6451名のうち実際に無作為化割り当ての対象となったのは、わずか13%に過ぎない。同様に、敗血症性ショックにおけるバソプレシンとノルエピネフリンの比較を行った研究(VASST研究)でも、6229名の登録候補のうち無作為化割り当ての対象となったのは802名に止まった。ARDSnetが行った肺動脈カテーテルもしくは中心静脈カテーテルから得られるデータを用いた治療の比較研究では、11000名以上の患者が登録候補となったのに、無作為化割り当ての対象になったのはたったの1000名だけであった。また、厳格血糖管理の有効性を評価したNICE-SUGAR研究が先頃発表されたが、この研究でも対象基準を満たした41000名のうち無作為化割り当てまで進むことができたのは6000名強に過ぎなかった。以上のように厳しい除外基準が設けられていると、実際に登録される患者数は少なくなってしまう。だとすれば、実際に無作為化割り当ての対象となった患者群は、はじめに研究対象となり得ると想定された患者集団全体をちゃんと反映していると言えるのであろうか? それに、このような研究で得られた結果を、ICU患者一般に当てはめることができるのであろうか? どんな研究にもこの手の問題はつきまとうものだ、と反駁する意見もあるかもしれない。しかし、この問題は必ずしも全ての研究において懸念されるわけではない。例えば、ショック患者に対する昇圧薬の第一選択としてドパミンとノルエピネフリンのいずれを採用すべきかを検討したDe Beckerらの研究では、それほど厳しくない除外基準が設けられ、対象候補となった2011名のうち、無作為化割り当ての対象となったのは1679名(84%)にのぼった。

教訓 厳格な除外基準が設定された研究の結果は、実際の症例に適用するのが困難です。

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