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無作為化比較対照試験との決別~観測研究の復権 [critical care]

We should abandon randomized controlled trials in the intensive care unit

Critical Care Medicine 2010年10月号増刊より

輸血を例に挙げると

これまでに指摘してきたRCTの諸問題を具体的にあらわす典型例が、ICU患者を対象とした輸血に関する研究である。輸血開始のヘモグロビン濃度閾値が高い場合と低い場合の転帰を比較する研究が、今までに何編も行われてきた。その中で最も質が高く人口に膾炙しているのが、カナダのHebertらが行ったTRICC研究という多施設試験である。この研究については前項でも触れたが、制限輸血(ヘモグロビン濃度が7g/dLを下回らないと輸血を行わない)は非制限輸血(ヘモグロビン濃度が10g/dLを下回ったら輸血する)と比べ、少なくとも同等の転帰をもたらすという結果が示された。この研究で得られたデータには大いに関心が寄せられ、実際に我々の輸血方針もこの結果を受けて変化した。だが、いくつかの点について、議論を深める必要があるのも事実である。第一に、既に述べたように、研究対象の候補となった患者のうち実際に無作為化割り当てされたのはわずか13%にすぎなかった(6451名中838名)。したがって、貧血が悪影響を及ぼす可能性が高い疾患の代表格である冠動脈疾患を、その重症度はともかく合併する患者の多くが対象から除外されたのではないかと考えられる。第二に、この研究の発表以降、輸血をめぐる事情が変化した可能性がある。重症患者における貧血と輸血についての研究(Anemia and Blood Transfusion in Critical Care study; ABC研究)では、TRICC研究と同様に輸血が転帰の悪化と相関しているという結果が示された。しかし、TRICC研究やABC研究の数年後に行われた急性疾患患者における敗血症についての研究(Sepsis Occurrence in Acutely Ill Patients study; SOAP研究)では、同じような手法で研究が行われたにもかかわらず、輸血を行っても転帰は悪化しないという結果が得られた。このように画然とした違いが生じた原因の一つとして、先行する二つの研究からSOAP研究までの間に輸血製剤の質が向上したことが挙げられる。とりわけ、白血球除去が広く行われるようになって輸血による有害事象が減り、輸血が以前より安全になったものと考えられる。

無作為化比較対照試験 vs. 観測研究

さて、RCTに見切りをつけるとすれば、それに取って代わる選択肢は何であろう? 観測研究には、仮説を立てるのにしか役に立たない、などといった難癖がつけられることが多い。しかし、利点もたくさんあり、患者集団を漏れなく対象として登録することができるという大きな長所がある。つまり、観測研究には除外基準はないので、臨床実態をよく反映する結果が得られることになる。一般的には患者の同意を得る必要がないため、RCTよりも多数の患者を対象にすることが可能であることも、観測研究の大きな魅力の一つである。また、同意取得を待つことなく、迅速に患者を登録することが可能である。そして、観測研究はRCTよりも安く、早く実施することができる。

RCTで得られた結果は、最高レベルのエビデンスとされている。一方、観測研究は、危険因子や予後予測要因の同定を目的とする場合や、RCTの実施が不可能または非倫理的である場合に行うものと考えられている。こうしたRCT偏重の風潮が蔓延している背景には、観測研究にはバイアスがつきものなのではないかという懸念や、治療の有益性を過大評価する危険性についての憂慮、交絡因子の影響を減らすには無作為化が必須であるという強固な観念などが横たわっている。しかし、2種類以上の治療法を比較した観測研究で得られた結果と、同じ治療法についての比較を行ったRCTで得られた結果とを比較検討した複数の研究において、治療効果に関する結論は両者一致することが明らかにされている。

まとめ

この10年ほどのあいだ、EBMが持て囃されてきた。無作為化比較対照試験が強力に推し進められ、他のあらゆる研究手法が蹴散らされてきたかのようである。だが、観測研究にはRCTにはないたくさんの利点があり、重症患者管理に役立つ興味深い知見を得るのにはうってつけである。質の高い大規模臨床データベースを構築することができるようになり、統計処理も進歩を遂げていることが、データ収集およびその解析の強い味方となっている。無作為化試験であれ観測研究であれ、どんな研究にも設計や解析に弱点がある可能性があることを忘れてはならない。成果を最大限引き出すには、計画の段階で熟考を重ね、実施に当たっては慎重の上にも慎重を期すことである。有効な治療を適切に実施し患者の利益が実現されるようにするには、ICUという場で行われるRCTには限界があることを認識し、RCTを金科玉条とするのを止め、他の手法やタイプの研究にも広く目を向けるべきである。

教訓 ICU領域のRCTにはいろいろ問題があるので、観測研究を見直すべき時が来ているようです。ただし、安易な観測研究はだめです。

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