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無作為化比較対照試験との決別~失敗の理由② [critical care]

We should abandon randomized controlled trials in the intensive care unit

Critical Care Medicine 2010年10月号増刊より

なぜこれほど多くのRCTが「失敗」に終わるのか?

5) エンドポイントの設定が間違っているのではないか?
ICU患者の死亡率は比較的高いので、一般的に死亡が妥当なエンドポイントであると思われている。さらに、生死の別というのは、おそらく最高に客観的なエビデンスである。しかし、昨今のICUにおいては、患者の死に際には終末期の自己決定がものを言うようになってきている。明示的であるにせよそうでないにせよ、患者の選好によって、死ぬか生きるかもしくは少なくとも死に至るまでの時間が左右され得るのである。非盲検化試験では、特にこのようなことが起こりやすい。Cruzらの研究がその一例である。この研究では、治療群において積極的な救命治療の決定あるいは実行に至るまでに、遅れが生じた可能性がある。エンドポイントとして死亡率以外の指標を用いることも提案されているが、これとて実際に使用するには一筋縄ではいかないであろう。例えば、合併症であれば定義が難しく、何をもって改善とするのかを示すのは容易ではないし、ICU滞在期間にも外的要因によって左右されるという問題がある(ICUが満床であれば早めに退室させられ、一般病棟に空床がなければICU滞在が長引く)。複合エンドポイント(例, 第14日における死亡または人工呼吸器使用または血液浄化の実施)がよいという意見もあるが、これはこれで問題を孕んでいる。

6) 対象患者を正しく設定していないのではないか?
ICU患者を対象としたRCTの多くが失敗に終わるのは、対象患者が適切でないということが最も重大な理由であると広く受け止められている。ICUで遭遇する病態は、多くがきっちりと定義されていない。明快な疾患分類(急性心筋梗塞、脳血管障害、尿路感染症など)に基づいて定義されるものよりも、症候群(敗血症、ARDS、SIRSなど)として扱われる病態が少なくない。その上、こうした病態を呈するICU患者の年齢、もともとの健康状態、登録時点における疾患の段階および重症度などの特性は、ばらつきが非常に大きい。無作為化割り当てを行っても、試験対象の治療法に反応して改善を示す患者もいれば、何ら効果が見られなかったり、むしろ有害事象が発生したりする患者もいるという事態が発生するかもしれないのである。つまり、このような研究を全体として見れば、良くて有効でも有害でもないという結果、悪くすれば有害であるという結果が得られることになる(Fig. 1)。輸血開始の閾値についての研究がその代表例である。ある輸血開始ヘモグロビン閾値によって患者を二群に無作為に割り当てる場合、患者の年齢が若いほど、そして軽症であるほど輸血開始ヘモグロビン閾値が低い群に割り当てられる方が有益(輸血量が少ない)であると考えられる。一方、高齢患者では、特に冠動脈疾患を合併している場合には、輸血開始ヘモグロビン閾値が高い方が有益であろう。だが、患者は無作為にどちらかの群に割り当てられるのだから、閾値が高い群の中には、適切な治療が行われ効果が期待できる患者(冠動脈疾患のある高齢者など)と、不適切な治療が行われ有益性が期待できなかったり、むしろ有害であることが懸念されたりする患者(軽症の若年者など)とが混在することになる。同様に、閾値が低い群の中には、ヘモグロビン濃度がかなり低くなってから輸血を開始するのが適切な患者(軽症の若年者など)と、不適切な患者(冠動脈疾患のある重症高齢者など)とが混在することになる。このような研究で観察される全体としての結果が、どっちつかず(どちらか一方が他方と比べて有益であるとか有害であるというはっきりした結果が出ない)のは、当然のことであろう。敗血症の治療法についての諸研究の中にもこれと類似する例が散見される。抗TNF抗体は、最重症の敗血症に有効であるかもしれないが、中等症の敗血症では有害となる可能性がある。同様に、ARDS患者において低PEEPと高PEEPを比較した研究でも、PEEPを高くすると有効である患者と、高くすべきではない患者とが混在していたと考えられる。

教訓 死亡は必ずしも妥当なエンドポイントとは言えません。
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