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グラム陰性菌による院内感染~はじめに [critical care]

Hospital-Acquired Infections Due to Gram-Negative Bacteria

NEJM 2010年5月13日号より

院内感染は患者の安全を守る上で大きな障壁となる。米国における2002年の推計によると、170万件の院内感染が発生し(入院100件あたり4.5件)、院内感染を原因とするか院内感染が関与する死亡者数は約99000名にのぼり、死因の第六位を院内感染が占めていると報告されている。欧州からも同様のデータが発表されている。米国の医療費は年間50億~100億米ドルである。院内感染症例のうちおよそ三分の一は回避可能である。

グラム陰性桿菌による感染には特に憂慮すべき際だった特徴がある。グラム陰性菌は抗菌薬耐性の発生機序に関与する遺伝子のアップレギュレーションや獲得に極めて長けている。特に、抗菌薬使用による耐性菌選択圧が存在するとこの傾向が助長される。さらに、グラム陰性菌には幾多の耐性化機序が備わっていて、一つの抗菌薬に対する耐性が複数の機序によって生ずることがあったり、単一の機序によって複数の抗菌薬に対する耐性が獲得されたりする(Fig. 1)。抗菌薬耐性は厄介な問題であり、このせいで新しい抗菌薬の発見や開発が停滞している。新薬開発が低調なのにはいくつかの要因が関与している。例えば、新しい化合物に対する審査が以前より厳格になっていること、薬剤開発に要する資本金および時間の増大、しっかりした臨床試験の立案および実施が複雑になっていること、そして、せっかく新薬を開発しても耐性菌が出現すればその時点でその薬の命脈が尽きるので寿命が短いかもしれないと懸念されていることなどである。以上の結果、グラム陰性菌感染を取り巻く状況は史上最悪の暴風雨とでも形容すべき事態に陥っている。つまり、耐性菌が増加しているのに、新しい抗菌薬の開発が停滞しているのである。

院内感染は多くの場合、侵襲的に使用される医療機器や外科的手技に伴って発生する。なかでも下気道感染および血流感染が重篤である。しかし、頻度が最も高いのは尿路感染である。

全米医療安全ネットワーク(NHSN)によると、グラム陰性菌は院内感染起因菌の30%以上を占め、人工呼吸器関連肺炎(VAP)および尿路感染の原因菌の第一位に君臨している(それぞれ47%、45%)。米国のICUでは、あらゆるタイプの感染のおよそ70%がグラム陰性菌によるものであり、世界中の他の国々からも同様のデータが報告されている。グラム陰性菌に分類される色々な細菌が、院内感染を引き起こす。原因菌として最もよく見られるのが、腸内細菌科の細菌である。緑膿菌、Acinetobacter baumanniiおよび、基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生またはカルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌などの多剤耐性菌は、残念ながら世界中で増えている。

教訓 VAPおよびUTIの原因菌として最も頻度が高いのはグラム陰性菌です。院内感染起因菌の30%以上をグラム陰性菌が占めています。新しい抗菌薬の開発は停滞しています。
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