SSブログ

ALI&集中治療2009年の話題⑥ [critical care]

Update on Acute Lung Injury and Critical Care Medicine 2009

Am J Respir Crit Care Med 2010年5月15日号より

ALIおよびその他の重症疾患の治療:臨床研究

ALI/ARDSによって重症呼吸不全に陥った場合に体外式膜型人工肺(ECMO)を使用するのは、従来は主に緊急避難的な救命策としての意味合いが強かった。英国の研究グループは、重症肺傷害および重症呼吸不全に対する治療法としてのECMOの有効性を評価した(CESAR試験)。この研究は臨床の実態を反映するべく設計され、ECMOを含むARDS治療手順がプロトコル化されている大規模な専門施設と、ARDSの治療法がプロトコル化されておらずECMOを実施することもできない専門施設とを比較し、前者の方が治療成績が優れているか否かが評価された。6ヶ月後も生存し後遺症のなかった患者数は、ECMO実施施設に割り当てられた群では90名中57名、ECMO非実施施設に割り当てられた群では87名中47名であり(63% vs 47%; P=0.03)、ECMO実施施設の方がわずかながら優れていた。この研究の結果から、英国においては肺保護換気法をはじめとするALI患者の治療法に長けた地域基幹病院への患者転送が有効であることが示された。ALIに対するECMOの有効性や優越性は確認されなかった。

H1N1インフルエンザ肺炎から重症ARDSを発症した患者に対する救命策としてECMOが有効であると巷間伝えられている。最近の論文では、オーストラリアおよびニュージーランドでは救命治療としてECMOが用いられ、ECMO使用患者全体の死亡率は21%であったと報告されている。しかし、この研究では対照群が設定されていないため、インフルエンザによる重症ウイルス性肺炎に対してECMOが有効であると結論づけることはできない。有効性を検証するには、前向き無作為化比較対照試験を行う必要がある。

スタチンを投与すると敗血症およびALIの臨床転帰が改善する可能性があることを示唆する知見が示され、期待が高まっている。健常被験者にプラセボあるいはシンバスタチン40mgまたは80mgを4日間投与し、引き続いてエンドトキシン噴霧剤を吸入させたところ、シンバスタチン投与群ではエンドトキシンによる肺胞への好中球、ミエロペルオキシダーゼ、TNFα、マトリックスメタロプロテアーゼ7, 8および9の集積が少なかった。この臨床研究は、ALI患者におけるスタチンの有効性を検証する研究を進めるための道筋を作ったと言える。

小児ALI症例ではサーファクタント投与が有効である可能性を裏付ける知見が示されているが、成人ALI症例ではサーファクタントが有効であることを示す結果は得られていない。そこで、成人ALI患者に対するサーファクタントの効果を検証する臨床試験が行われた。この研究では、418名の患者を通常治療群または通常治療に加えブタ由来の天然サーファクタントHL10を肺内へ直接注入する群のいずれかに無作為に割り当てた。対照群とサーファクタント投与群のあいだに死亡率の有意差はなかった。むしろ、サーファクタント投与群の方が有害事象が多い傾向が認められた。

敗血症および肺傷害患者に対する早期目標指向治療(early goal directed therapy)、副腎皮質ステロイド、遺伝子組み換えヒト活性化プロテインC、強化血糖値管理および肺保護換気法の有効性に関しては、議論が繰り広げられている。ICU 77施設に収容された成人重症敗血症患者を対象とした大規模コホート研究が行われ、治療目標(十分量の輸液を投与しても低血圧が続くand/or乳酸値が36mg/dLの場合にはCVP を8mmHg以上にする、低血圧が続く場合は中心静脈血酸素飽和度を70%にする、血糖値は150mg/dL未満かつ正常範囲内に維持する、人工呼吸器を使用している場合は吸気プラトー圧を30cmH2O未満にする)の遵守度、広域スペクトラム抗菌薬の早期投与、輸液負荷試験、少量ステロイドおよび活性化プロテインC (APC)の有効性が評価された。傾向スコア法を用いて解析が行われ、最重症患者では広域スペクトラム抗菌薬の早期投与およびAPC投与が死亡率低下に寄与することが分かった。敗血症に対するAPCの有効性を検証する前向き無作為化二重盲検が現在進行中である(PROWESS-SHOCK試験;2008年3月にはじまった大規模試験。2年間で1500名の患者を対象にする予定で、主要エンドポイントは28日後死亡率。)。この新たな研究の結果が発表されるのが待ち望まれる。それまでは、重症敗血症におけるAPCの臨床使用にまつわる諸問題について上手にまとめられた最近の文献を、研究や臨床の参考にするとよい。

早期ALIおよび晩期ALIのどちらにおいても、コルチコステロイドが有効ではないことを示した研究が複数発表されている。しかし、それでもやはりALIの治療にコルチコステロイドは有効だと考えている臨床医も依然として存在する。2009年にはこの分野における目立った新しい知見は発表されていないが、近いうちに新たなデータが公表される見込みである。

重症患者1508名を対象とした多施設研究において、急性腎不全に対する持続的腎代替療法の強度を強化して(浄化量を増やして)行った場合と通常の強度で行った場合の治療効果が比較された。90日後死亡率は両群同等の45%であり、差はなかった。

重症患者における強化血糖値管理の有用性については、まだまだ未解明の部分が多い。重症患者6104名を対象とした大規模多施設無作為化試験が行われ、強化血糖値管理と従来の血糖値管理とが比較された。強化血糖値管理群(81-108mg/dL)は従来法群(180mg/dL以下)と比べ、死亡率が高かった。ただし、試験開始後第20日以降にならないと、死亡率の差は認められなかった。したがって、血糖値管理の閾値と転帰を結びつける機序はよく分からない。強化管理群における重篤な低血糖(血糖値40mg/dL以下)の発生頻度は6.8%、従来法群では0.5%であった(P<0.0001)。

教訓 スタチンは敗血症およびALIの転帰を改善する可能性があります。成人ALIにはサーファクタントは無効で、かえって有害事象が増えるようです。重症患者ではXigrisの使用と広域スペクトラムの抗菌薬の早めの投与が死亡率低下につながります。急性腎不全症例に強化腎代替療法を行っても、通常の腎代替療法を上回る効果は得られません。
コメント(0) 

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。