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敗血症と高二酸化炭素血症とアシドーシス③ [critical care]

Hypercapnia and Acidosis in Sepsis: A Double-edged Sword?

Anesthesiology 2010年2月号より


サイトカインおよびケモカインの産生

HCAは、サイトカインと免疫エフェクター細胞との信号伝達を妨げて、免疫反応の協調を攪乱する。HCAは好中球とマクロファージによる、TNF-α、IL-1β、IL-8、IL-6などの炎症促進性サイトカインの産生を抑制する。また、エンドトキシン刺激によるマクロファージのTNF-αおよびIL-1β放出量がHCAによって減少することがin vitro実験で確認されている。高二酸化炭素分圧環境で培養された腹膜マクロファージが、エンドトキシン刺激によるTNF-αおよびIL-1β放出を抑制することも明らかにされている。30分以上の二酸化炭素曝露によって、TNF放出に関わるシグナル伝達が正常であってもTNF-α阻害は認められ、二酸化炭素曝露を中止してもこの作用はなくならないという報告がある。HCAがサイトカイン産生に及ぼすこのような作用は残存するようである。腹腔内マクロファージは高二酸化炭素環境に曝露されると、その後最長3日間はTNF-α産生能が低下したままであることが分かっている。サイトカインおよびケモカイン産生阻害の機序は、少なくとも部分的にはNF-κB(炎症、細胞傷害およびその修復における重要な転写制御因子)の阻害を介したものだと考えられている。

補体の活性化

補体系は自然免疫応答において必須の作用をもたらす。活性化された補体は病原体を標的にして、貪食または溶菌作用を発揮する。高二酸化炭素血症性であれ代謝性であれ、アシドーシスは補体系を活性化させると考えられている。EmeisらはHCAと、乳酸または塩酸投与により惹起したアシドーシスのいずれもがC3およびC5を活性化することを示した。この現象は、アシドーシス事態の直接的作用であるとされている。HCAを介する補体の活性化が、殺菌能が向上して利点をもたらすのか、補体の減少または活性化した補体成分の非特異的作用による欠点をもたらすのかは解明されていない。

細胞性免疫応答

好中球とマクロファージは、細菌感染における自然免疫応答の重要なエフェクターである。好中球は、体中のどこであっても感染部位があれば、血液中からすぐさまその場所へ遊走する。細菌と接触した好中球は、ただちに貪食作用を発揮する。好中球細胞質内の顆粒には、エラスターゼ、プロテアーゼ、NADPH酸化酵素(スーパーオキサイドと過酸化水素を生成する)、MPO (次亜塩素酸を生成する)などのいろいろな分解酵素が含まれている。この顆粒は、細菌の貪食でできた食胞と素早く融合し、食胞を溶かして崩壊に導く。好中球の感染部位への遊走能が低下すると、転帰が悪化する。

組織マクロファージとその元となる血中の単球は感染発生時に、外来抗原の提示とケモカインの分泌という、リンパ球系が協調的に活性化するのに必要な非常に重要な役割を果たす。マクロファージは、エンドトキシンまたは補体成分などの分子や細菌によって活性化される。単球もマクロファージも、同じような機序で病原体を貪食し死滅させるが、そのスピードは好中球よりは緩慢である。

HCAは複数の機序を介して自然免疫における細胞性応答に影響を及ぼすと考えられている。HCAは免疫エフェクター細胞間のサイトカイン信号伝達を妨げることを通じて、細胞性免疫応答を間接的に弱体化する。病原体に対して協調した反応を起こすには、サイトカインの信号伝達が必要である。細胞性免疫応答に対するHCAの直接的な作用は以下の通りである。(1) 食細胞の遊走能、走化性および接着能の低下。(2) 食細胞の貪食作用の低下。(3) 酸化性物質を介した殺菌能の低下。(4) 好中球細胞死の機序の変化。 以上の作用は、少なくとも部分的には食細胞の細胞内pH調節機能がHCAによって毀損されるためであると考えられている。

教訓 HCAによって、好中球やマクロファージの貪食能が低下します。
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