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敗血症と高二酸化炭素血症とアシドーシス④ [critical care]

Hypercapnia and Acidosis in Sepsis: A Double-edged Sword?

Anesthesiology 2010年2月号より

食細胞の細胞内pH調節

免疫機能のみならずその他の細胞機能(増殖、分化、アポトーシス、遊走、細胞骨格形成および細胞容量の保持)が正常に発揮されるには、細胞内pHが生理的正常範囲内(6.8-7.3)に維持されていなければならない。免疫細胞の細胞内pH調節には二つの主な輸送系が関与している。すなわち、Na/H交換系と細胞膜空胞型H+-ATPaseである。好中球の細胞内pHは好中球が活性化に伴い低下する。まわりのpHが正常であれば、好中球の細胞内pHは速やかに正常値に戻る。ときには、正常値以上に達することもある。HCAのときのように、周囲環境のpHが低下し二酸化炭素分圧が上昇すると、好中球の細胞質pHはただちに低下する。代謝性アシドーシスの影響についての研究では、細胞内に酸が増えると好中球の運動能、遊走能および走化性が低下するという結果が得られている。したがって、HCAは以上のような機序で、敗血症の原因となる感染部位への好中球およびマクロファージの集簇を妨げると考えられている。さらに、二酸化炭素による好中球細胞内pHの低下をアセタゾラミドで阻害しpHの変化を緩衝すると、好中球機能の低下は起こらないことが明らかにされている。

食細胞の遊走、走化および接着

好中球の血管内における遊走、毛細血管への接着および傷害部位への遊走と集簇は、免疫反応における重要な段階である。すでに詳しく解明されているいくつかの過程(細胞骨格の再構築、エンドサイトーシス[細胞外の物質を細胞内へ取り込む]およびエキソサイトーシス[細胞内の物質を細胞外へ排出する]による細胞膜修復、巣状接着のインテグリンによる剥脱と再接着および細胞容量の調節)によって細胞の遊走能の良否が左右される。好中球が内皮と結合し血管外へ遊走するときに必要なケモカイン、セレクチンおよび細胞間接着分子の発現を、HCAが阻害することが明らかにされている。好中球の傷害部位への走化性および遊走をHCAが阻害する作用はin vivoでも確認されている。肺内へエンドトキシンを注入したときに、HCAがあると肺への好中球浸潤が抑制されることが分かっている。

食細胞の活性

マクロファージと好中球は細菌を貪食し、ファゴソーム(食胞)内に取り込む。次にファゴソームはエンドソームおよびリソソームと融合する。エンドソームとリソソームの中には細菌を消化するのに役立つ酵素が含まれている。高二酸化炭素血症性であれ代謝性であれ、アシドーシスがあると好中球とマクロファージの貪食能が低下する。HCAはマクロファージのサイトカイン産生量を減少させることが知られている。代謝性アシドーシスがあるとマクロファージの貪食能は弱くなり、細菌の取り込み速度が遅くなり、細胞内殺菌能が低下することが示されている。HCAもin vitroで好中球の貪食能を直接的に妨げることが明らかにされている。この作用はアシドーシスによる影響であり、アシドーシスを是正すれば、好中球の貪食能は回復する。

フリーラジカルによる殺菌

免疫反応が活発になると好中球とマクロファージは、スーパーオキサイド、過酸化水素および次亜塩素酸などのフリーラジカルを大量に産生する。この現象は「呼吸バースト」と呼ばれる。呼吸バーストによる爆発的なフリーラジカルの増加が、食細胞の殺菌作用の中心的な機序である。食細胞の中に含まれているNADPH酸化酵素(細菌が侵入するとスーパーオキサイドを産生する)は、pHの変化に非常に敏感で、最適pHは7.0-7.5である。細胞質pHが低下すると細胞内酵素の働きは妨げられ、フリーラジカルの産生量が減る。マクロファージのスーパーオキサイド放出量は、細胞内pHが6.8未満になるとpHの低下と比例するように減少する。活性化されていない好中球および大腸菌またはホルボールエステルで活性化された好中球による、スーパーオキサイドをはじめとする活性酸素の生成はHCAによって妨げられる。一方、低二酸化炭素性アルカローシスは、好中球の活性酸素生成を促進する。好中球による活性酸素生成が二酸化炭素によって変化するのは、pHの変化によるものと考えられている。なぜなら、アセタゾラミドを投与して二酸化炭素によるpHの変化を抑えると、好中球の活性酸素生成量にも変化が見られないからである。マクロファージのスーパーオキサイド産生量も、HCAによって低下することが明らかにされている。

好中球の細胞死の機序

好中球の一生は短い。循環血液中へ出てから48時間以内に死滅する。その死は予めプログラムされた細胞死、つまりアポトーシスである。貪食機能を発揮した好中球にとって、アポトーシスは正常かつ斯くあるべき運命である。しかし、その死が壊死であれば、組織を傷害する有害な酵素を含めた細胞内物質を流出させてしまうことになる。好中球は、貪食中に細胞内が酸性に傾くと、壊死しやすくなる。したがって、HCAは好中球がアポトーシスによる細胞死を遂げるよりも壊死する可能性を高くすると考えられる。

獲得免疫応答

アシドーシスが獲得免疫応答に及ぼす影響については、主にガンに関しての研究が進んでいる。その理由は、腫瘍微小環境の特徴が、血管に乏しいこと、組織低酸素そしてアシドーシスだからである。敗血症と同じようなこの状況では、アシドーシスによって腫瘍細胞に対する宿主免疫応答が妨害され、腫瘍の成長と進展が促進される可能性がある。ヒトのリンフォカイン活性化キラー細胞(LAK細胞)およびナチュラルキラー細胞(NK細胞)の細胞毒性活性は、アシドーシス環境では低下する。代謝性アシドーシスがあると、様々な系統の腫瘍細胞に対する細胞傷害性T細胞の破壊能が減弱し、IL-2活性化リンパ球の増殖も阻害される。反対に、細胞外マトリックスが酸性だとIL-2活性化リンパ球の運動性が増す。また、細胞外が高度のアシドーシス(pH 6.5)のときには、樹状細胞の抗原提示能が増強する。代謝性アシドーシスによる以上の相反する作用が、総体として獲得免疫応答にどのような影響を及ぼすのかは不明である。しかし、マウスを用いた実験ではHCAによって腫瘍が全身に進展することが示されていることから、HCAによる細胞免疫抑制の可能性に強い懸念が抱かれる。

教訓 HCAは好中球がアポトーシスによる細胞死を遂げるよりも壊死する可能性を高くするようです。LAK細胞およびNK細胞の細胞毒性活性は、アシドーシス環境では低下します。HCAによって細胞免疫が抑制される可能性があります。
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