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敗血症と高二酸化炭素血症とアシドーシス② [critical care]

Hypercapnia and Acidosis in Sepsis: A Double-edged Sword?

Anesthesiology 2010年2月号より

高二酸化炭素血症性アシドーシスが細菌増殖に及ぼす影響

高二酸化炭素血症性アシドーシスが及ぼす影響は、高二酸化炭素血症とアシドーシスのそれぞれによる影響が組み合わさったものとしてあらわれる。大腸菌(通性嫌気性菌)は二酸化炭素分圧0.005atmの環境で最も活発に増殖する。大腸菌が通常存在する腸内の二酸化炭素分圧も大体0.05atmである。二酸化炭素分圧0.2atm程度では、大腸菌の好気性増殖は妨げられないが、0.6atmを超えると好気性増殖が抑制される。二酸化炭素分圧350atmの環境に20分間曝露されると、大腸菌のコロニー数は半減する。高濃度二酸化炭素による好気性増殖抑制作用は二酸化炭素による直接的な影響で発揮されるものであるが、詳しい機序は不明である。二酸化炭素は他の多くの科の細菌の好気性増殖に対しても、同じような作用を及ぼすようであるが、細菌の種類によって二酸化炭素に対する感受性は異なる。酵母は二酸化炭素による好気性増殖抑制作用に強い耐性を示すが、グラム陽性菌はそれほどでもなく、グラム陰性菌では抑制作用が最も強くあらわれる。しかし、二酸化炭素による細菌増殖抑制作用を示した諸研究では、ヒトの生理的範囲内を大幅に逸脱した非常に高い二酸化炭素分圧で実験が行われていることに留意すべきである。

Puginらは、臨床で見受けられる程度の代謝性アシドーシスが細菌増殖を直接的に促進することをin vitro研究で明らかにした。肺上皮細胞を培養し、人工呼吸を模した周期的な伸展刺激を加えたところ、乳酸アシドーシスが発生し、大腸菌の増殖が著しく活発になることが分かった。これは水素イオンの直接的な影響による現象である。というのも、培地に塩酸を直接添加しpH7.2程度の酸性環境をつくると、大腸菌の増殖が促進されることが知られているからである。人工呼吸器関連肺炎(VAP)の患者から検出されるグラム陽性菌およびグラム陰性菌の中には、酸性培地の方が活発に増殖するものがある(E. coli, Proteus mirabilis, Serratia rubidaea, Klebsiella pneumonia, Enterococcus faecalis, Pseudomonas aeruginosaなど)(fig. 1)。一方、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌ではこの現象は見られず、アルカリ性環境で最も活発に増殖するという興味深い結果が得られている(fig. 1)。

臨床で高二酸化炭素血症を許容する場合に出来する程度のHCAが、細菌増殖に及ぼす影響は解明されていないが、アシドーシスと高二酸化炭素血症のそれぞれの作用が組み合わさった影響があらわれるものと考えられる。ただし、二酸化炭素による細菌増殖抑制作用は、臨床的にはあり得ないほどの高い二酸化炭素分圧での実験で示されているに過ぎない。さらに、アシドーシスの成因(呼吸性か、代謝性か)によっても細菌増殖に及ぶ影響が異なる可能性がある。とは言え、臨床で遭遇する程度の代謝性アシドーシスで細菌増殖が促進されるという知見は、懸念すべき事柄である。

高二酸化炭素血症性アシドーシスが免疫反応に及ぼす影響

サイトカインおよびケモカインの信号伝達、好中球およびマクロファージの機能、補体活性化そして獲得免疫応答など、宿主の多様な免疫反応をHCAは修飾する。HCAが免疫反応に及ぼす影響は、高二酸化炭素血症そのものというよりはアシドーシスによる作用が主として現れたものであると考えられている。しかし、アシドーシスの種類、つまり、代謝性ではなく呼吸性のアシドーシスであるということに重要な意味があるとされている。それを裏付ける例として、HCAは好中球機能を抑制することがin vitro研究で示されているが、代謝性アシドーシスは好中球機能を抑制するという報告がある一方で、活性化するというデータも発表されている。このように相反する知見が示されているのは、研究手法の相違のせいであろう。たとえば、強酸培地で細胞を培養した研究では、細胞に傷害が生じた可能性がある。また、in vivoで血中に塩酸を投与すると、直接的な傷害が生ずるとともに、炎症性反応が惹起されることが明らかにされている。以上の理由から本レビューでは、HCAの影響について調べた研究と、代謝性アシドーシスに関する研究でも他に類を見ない重要な洞察が示されていて、高張の強酸でアシドーシスが生起されていない研究を対象に論ずることとする。

教訓 臨床で遭遇する程度の代謝性アシドーシスで、細菌増殖が促進される可能性があります。

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