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集中治療2008年の話題~世界の集中治療事情 [critical care]

Update in Critical Care 2008

American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2009年5月1日号より

現下の世界的な金融危機の影響は、確実に重症患者にも及ぶであろう。米国の医療費は世界一の規模である。GDPに占める割合は16%と第一位、総額は実に2兆米ドルを超えている。集中治療にかかる費用は莫大で、北米GDPの1%以上を占めている。アメリカ大統領選挙では、膨大な医療費とともに、人々が受ける医療に格差があることが取り沙汰された。西欧諸国では、医療分配の不均衡には社会経済的不平等が強い関わりを持っていることが明らかにされている。北米でも同じ状況であることには、疑いを差し挟む余地がない。オバマ・バイデン両氏による医療改革計画では、全ての米国民が妥当な保険料負担で医療保険を得られるようにすることが目標に掲げられている。具体策の一つとしては、現在無保険の人々が医療保険でカバーされるようにする仕組みである、National Health Insurance Exchangeの設立が提案されている。しかし、現在の米国および世界の金融危機が、このような政策の実現に与える影響は計り知れない。今後数年間にわたり米連邦政府および州政府による財政援助が減少し、寄付や寄贈は縮小し、病院や各部門の予算も削減されると見込まれる。しかし、米国のGDPは世界全体の総生産量の約三分の一を占めているため、世界でもっとも潤沢な富を保有していると言えるわけであり、それをもってすればこの危難を凌ぐことができよう。

発展途上国は米国とは比べものにならないような脅威にさらされている。世界中の富める国々は、国内経済の立て直しに力を入れているため、海外援助の縮小や債務取り消しの撤回などの事態が懸念される。財政状況が現在より良好であったときでも、医療支援を目的とした米国からの援助資金の最善の分配対象として、集中治療領域は適当ではないのではないかという議論がある。先進国では「集中治療(critical care)」が明確に標準化されておらず、集中治療の適切な提供に関する基準も示されていない。例えば、ICU病床の数は、人口10万に対し3床(UK)から24床(ドイツ)と広い範囲に分布している。発展途上国では、集中治療の存在価値について激しい議論が繰り広げられている。そこでは、重症患者や手術を必要とする患者に対する医療を整備するよりも、貧困の解決や基本的な保健サービスの充実などを優先させるべきであるという意見が主張されている。65歳未満の米国民のうち三分の一が、任意の年のいずれかの期間において無保険の状態におかれている。この問題は永久に解決されない国家的問題であろう。しかし、大半の後発発展途上国では、任意の年のいずれの期間においても、国民の誰一人として健康保険を提供されている者はいない。現在の金融危機は、先進国の集中治療に何らかの影響を及ぼすであろうが、発展途上国では、より甚大な波及効果が迫るものと考えられ、重症疾患の蔓延(特にHIV、結核、マラリア、下痢症、麻疹および低栄養による感染性疾患および敗血症の重症例)および重症患者に対する集中治療の提供不能といった問題が起こる可能性がある。

以上のように克服しがたい問題が山積している状況ではあるが、発展途上地域でも急性期医療は提供されている。ここでの問題は、実情に即した医学知識の応用である。ザンビア(人口1170万人)の病院を対象とした調査では、68病院中、ICUが設置されているのは5病院で、ICU病床総数はわずか29床であることが分かった。タンザニアで外傷患者管理の訓練プログラムを実施し、その効果を検証した研究では、プログラム実施による知識の向上が認められた。(つづく)

教訓 米国のGDPは世界全体の総生産量の約三分の一を占めている→世界でもっとも潤沢な富を保有している→だから現在進行中の経済危機を凌ぐことができる のだそうです。少し理路に無理がある気がします。エマニュエル・トッドによると、米国の欠点は「無知」だそうです。
コメント(2) 

コメント 2

ぶりぶり

エマニュエル・トッドによると日本人は大人じゃないそうですね。これはGHQにも言われましたね。
乳児死亡率が世界最低で、世界最高長寿国なので日本は世界一医療が発達した国だとも言ってましたね。おまけに医療費も安く、皆保険ですから天国です。
しかし少子化で未来は暗いといってましたね。日本人はロボットに介護してもらうのを目指しているとも言ってましたね。
とにかく、今の日本は人類史上、最高の保健医療情勢にあることは間違いないでしょう。
アメリカもフランスも日本を羨ましく思っているのでしょうね。
by ぶりぶり (2009-05-07 17:11) 

vril

ぶりぶり先生こんにちわ。NHKで放映した「未来への提言」をご覧になったのですね。私もみました。

エマニュエル・トッドは、日本人は心理的にアメリカに過度に依存している、と言っていました。私もそう思います。確かに私の実体験に照らしてみても、アメリカには日本にはない良いところがありますし、日本がアメリカに学ぶべき点もあるとは思いますが、理性的なふりをしながらアメリカを絶対的に礼賛している人たちを見ると、そのobedientぶりに情けない!と思ってしまいます。

こんなブログを開設している私のことを、アメリカ大好きおポンチ娘と思う方もいらっしゃるでしょうが、全然違います。日本語は残念ながらローカル言語、英語はリンガ・フランカ。知識の刷新に手っ取り早いのは英語で書かれた論文なので、こうやって訳しているわけなのです。
by vril (2009-05-07 20:58) 

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