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集中治療2008年の話題~注目すべき研究 [critical care]

Update in Critical Care 2008

American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2009年5月1日号より

2008年には、今まで信憑されてきた考え方を覆すような研究が数多く発表された。過去の報告と異なる以下のような研究結果が示された:内頸静脈は他の中心静脈カテーテル留置部位と比べ感染リスクが低いわけではない、敗血症患者にインスリン強化療法を実施しても死亡率は低下しない、膠質液(10%ペンタスターチ)を敗血症患者に投与すると転帰が悪化する、少量バソプレシン投与により敗血症性ショック患者のノルエピネフリン投与量を減らすことができるが転帰は改善しない、発熱が続く重症患者にフルコナゾールを予防投与しても転帰は改善しない、敗血症性ショック患者にハイドロコルチゾンを投与すると血行動態は改善するが死亡率は低下しない、外傷患者の初期輸液に高張食塩水を投与しても無ARDS(ARDS-free)生存率は向上しない、小児脳損傷症例に低体温療法を行っても神経学的転帰の改善は認められない、強化腎代替療法を実施しても急性腎障害(AKI)を呈する重症患者の転帰は改善しない、ICUで栄養管理ガイドラインを導入すると経腸栄養の実施がおよそ一日早まるが転帰は改善しない。肺保護人工呼吸を実施されている患者を対象に高いPEEPをかけた場合の転帰を検証した研究が二編発表された。この二つの研究では死亡率の低下を見いだすことはできなかったが、高いPEEPの安全性が確認され、高PEEP支持者を鼓舞するような効果も示された。

新しい発想をテーマにした研究がいくつか行われ、有望な結果が得られている。銀被覆気管チューブを用いると人工呼吸関連肺炎(VAP)発生率がおよそ三分の一に減ることが1500名の患者を対象とした試験で明らかにされたが、人工呼吸期間、ICU滞在期間および死亡率の改善は認められなかった。米軍によるイラク侵攻後、膨大な数のイラク市民が死傷した。この戦闘における数多くの重症外傷患者に対し、血漿製剤と赤血球製剤を1:1の比率で投与する大量輸血による蘇生が盛んに行われた。この大量輸血法は一般にも広がりはじめている。しかし1:1輸血の効果に関する観測研究の結果は一定せず、血漿製剤および血小板製剤による輸血関連急性肺傷害(TRALI)も懸念されるため、適切なデザインの臨床試験を実施しその効果を検証する必要がある。大量輸血を要する一般の外傷患者466名に対し、赤血球輸血量に対する血漿製剤および血小板製剤輸血量の比率を高くした輸血療法を行ったところ、転帰が改善したという結果が得られている。重症患者でサイトメガロウイルス感染が再燃すると、転帰が不良であることが分かった。食道内圧を指標にしてPEEPを設定すると酸素化が改善することが示された。以上の観測研究で対象となった治療法の有効性はまだ確立されているわけではないが、いずれは検証されるであろう。大規模コホート研究で、集中治療専門医が関わると死亡率が上昇するという結果が示されたが、この研究で集中治療専門医が治療にあたった患者の大部分は、集中治療専門医によって管理されているのではないICUに収容されていた。観測結果が得られた機序については不明である。

古くからあるアイデアを組み合わせた研究で、目覚ましい成果が得られている。鎮静薬の一日一回中断と、自発呼吸試験(SBT)を組み合わせたプロトコルを実施したところ、人工呼吸期間が短縮するだけでなく、長期死亡率が低下するという結果が得られた。ただし、死亡率が低下する機序は今のところ不明である。重症敗血症患者にSurviving Sepsis Campaignで提唱されている管理を実施し、その効果を評価する多施設研究がスペインで行われた。その結果、23名に本法を行うと、行わない場合よりも救命できる患者が1名増えることが分かった。(つづく)

教訓 大量出血にはRCC:FFPを1:1で投与するといいようです。

コメント(3) 

コメント 3

hoshi

> 大量出血にはRCC:FFPを1:1で投与

医療経済的にはなかなか難しそうですね(^^;)
by hoshi (2009-05-17 12:49) 

hoshi

連投スミマセン

・少量バソプレシン投与により敗血症性ショック患者のノルエピネフリン投与量を減らすことができるが転帰は改善しない→減らせてることはいいことじゃないか
・敗血症性ショック患者にハイドロコルチゾンを投与すると血行動態は改善するが死亡率は低下しない→血行動態は改善してるからいいじゃないか
・ICUで栄養管理ガイドラインを導入すると経腸栄養の実施がおよそ一日早まるが転帰は改善しない→早めることができているからいいじゃないか

ICU生存退室率、死亡率の改善がないと全て意味がない的な言い方にはちょっと違和感があるのですが、本当に意味がないことなのでしょうか?どう解釈すべきなのでしょう?
by hoshi (2009-05-17 12:54) 

vril

血塗られた麻酔科医の私の経験では、RCC:FFP 1:1作戦は、大量出血症例では結構いけますよ。

危機的出血のガイドラインにはFFPとPCは「原則的に外科的に出血が制御されてから投与する」と書いてありますが、「危機的」出血の実際の場面では、このような原則をまともに適応すると術中・術後を含めて患者をひどい目に遭わせてしまうのではないかと危惧しています。

外科的に出血が制御できないからといって、晶質液、膠質液、RCCばかり投与していたら、ひどい希釈性凝固障害に陥って、外科的には出血制御不能な状態になるはずです。この状態が続けば、その方が医療費増大につながったり、死亡リスクが上昇したりする可能性があるのではないかと思います。

海外の大量輸血プロトコルでは、希釈性凝固障害の予防と治療が強調されています。RBC:FFP:PCを1:1:1の比率で投与する方法は、簡便でありかつ転帰も改善することが明らかにされています。(Malone DL, et al. Massive transfusion practices around the globe and a suggestion for a common massive transfusion protocol. J Trauma. 2006; 60: S91-6)

有効な治療法に適切に資源が配分されないことは、大変嘆かわしいことだと思います。


この論文(Update in Critical Care 2008)は、先日私の勤務先の麻酔科journal clubで取り上げ、hoshi先生のご指摘と同じ意見が出されました。いずれの研究も「臨床的に意味のある」転帰(死亡率など)の改善があるかどうかを評価することを第一義的な目的としてデザインされたものなので、最終的な結論を一文であらわすと、どれもこれも「やっても(臨床的には)意味なし」という表現になってしまいます。

それぞれの研究で設定されたprimary endpointが血行動態の改善や、カテコラミン使用量減少や、EN開始時期の早期化、であったとすれば「~をすると有効」という表現になります。ただし、そういう研究は「臨床的に意味のある重要な転帰項目についての大規模無作為化比較対照試験を今後行い、さらに検証する必要がある」と締めくくられます。

それはともかく、hoshi先生の仰る通り、「有害」という結果でなければ、当該研究のprimary endpointの改善はなくとも、secondary endpointの改善だけでもよしとして、いずれの治療法も実施する価値はあると思います。一方、臨床的に「意味のある」項目が改善していないのだから、「臨床的には意味のない治療法だからやらない」という立場もありです。どちらの立場をとるかは、判断主体の自由です。

たくさんの実のあるコメントを寄せていただき感謝しています。これからもよろしくお願いします。


by vril (2009-05-17 18:30) 

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