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重症患者における抗菌薬の薬物動態④ [critical care]

Pharmacokinetic issues for antibiotics in the critically ill patient

Critical Care Medicine 2009年3月号より

リネゾリド
リネゾリドはオキサゾリジノン系という新しい系統に属する抗菌薬である。リネゾリドは水溶性が高いのだが、組織移行性は良好であり、腎排泄されるのに先立ち肝臓で大部分が代謝される。今のところ、リネゾリドは肝機能もしくは腎機能障害があっても投与量を調節する必要はないとされている。薬力学的には、T>MICを40%から80%に維持すると十分な効果が得られる。MICが2-4mg/L未満の細菌をターゲットにする場合、一回600mgを12時間ごとに投与すると、T>MICを40%から80%に維持することができる。重症患者ではリネゾリドの排泄半減期が短縮し、分布容積は増加することが示されているが、いずれの変化も有意なものではない。

集中治療にとって、リネゾリドの副作用とMAO阻害作用のある他の薬剤とリネゾリドとの相互作用は興味を引かれるところである。一回600mgを一日二回28日間投与しても、リネゾリドの安全性と耐容性には問題がないと報告されているが、14日間以上にわたる投与では可逆性の骨髄抑制が発生するというデータも発表されている。したがって、リネゾリドを使用するときは、血算を実施し血液副作用の発生を監視しなければならない。

チゲサイクリン
チゲサイクリンはグリシルサイクリン系抗菌薬である。グリシルサイクリン系抗菌薬は新しい系統の抗菌薬であり、グラム陽性菌に対してもグラム陰性菌に対しても有効である。チゲサイクリンは脂溶性で、迅速に組織に移行する。主に胆汁排泄され、15%のみがそのままの形で尿から排泄される。重症患者において薬物動態が変化することを示すデータはほとんどない。薬力学的には、チゲサイクリンは細菌によっては時間依存性の殺菌能を発揮するが、通常はAUC : MICが効果を決定する。チゲサイクリンは排泄半減期が長いため、PAE (postantibiotic effect)が長時間得られる。

リンコサマイド系抗菌薬
クリンダマイシンおよびリンコマイシンがリンコサマイド系抗菌薬にあたる。脂溶性薬剤で組織移行性が良好で、大部分の体内コンパートメントにおいて濃度が治療域に達する。薬力学的にはT>MICによって効果が決定される。殺菌能を得るには、投与間隔の少なくとも40%~50%の時間において、遊離リンコサマイド濃度が起因菌MICを超えている必要がある。敗血症患者においてはクリンダマイシンの肝クリアランスが低下するという報告がある。リンコサマイド系抗菌薬の重篤な副作用として、抗菌薬関連下痢症がある。

コリスチン
ポリミキシン系抗菌薬(例;コリスチン)が初めて使用されたのは1960年代のことである。以後、腎毒性および神経毒性のため使われなくなった。細菌の多剤耐性化が進む現在、新たな選択肢としてポリミキシン系抗菌薬が使用される機会が増えている。コリスチンは通常は、メタンスルホン酸コリスチンとして投与される。この分子は加水分解されスルホメチル基とコリスチンになる。コリスチンは水溶性であるが、その薬物動態についてはほとんど情報がない。薬力学的には、濃度依存性に殺菌能を発揮する。コリスチンの製剤にはColomycin Injection(1バイアルあたりメタンスルホン酸コリスチン40, 80および160mg, Forest Laboratories, Bexley, UK)とColyMycin Parenteral(1バイアルあたりメタンスルホン酸コリスチン400mg,ERFA, Montreal, Canada)の二種類が市販されている。投与量は体重と腎機能を考慮して決める。重症患者とそれ以外の患者における本剤の比較に関するデータはなく、適切な投与法についての見解も一致していないためコリスチンの投与量を決定するのは容易ではない。

投与量に関する一般的注意点
ICUでは効果的な抗菌薬療法を実施することが肝要であり、重症患者に適した投与法を選択しなければならない。各抗菌薬の投与法についての一般的な推奨事項をTable 4にまとめた。しかし、ICUに入室する原因は様々であり、臓器機能の状態や病態生理学的変化も多様であるため、個別の患者についての適切な投与法を示すことはできない。抗菌薬を処方する際および患者観察・診察の際には、重症患者以外でも一般的に行われている通り、予測されうる副作用や他の薬剤との相互作用などに注意しなければならない。

適切な投与量を守ることによって耐性菌の発生を抑制することができる
世界中で耐性菌の発生が増えている。ICUは耐性菌の温床である。抗菌薬の投与量が少ないと耐性菌が発生しやすくなることが数多くの研究で明らかにされている。薬力学的原則に則り抗菌薬の効果をできる限り引き出すような投与法を選択することが、細菌の耐性獲得を防ぐのに不可欠である。推奨されている投与量の最大量を投与すれば、その目的が最大限かなえられるであろう。

まとめ
投与量調節が必要かどうかを判断する際に参考になるのは、その薬剤が水溶性か脂溶性かということである。水溶性で濃度依存性に殺菌能を発揮する抗菌薬は、重症患者では分布容積が通常より大きくなりCmaxが低下する可能性がある。水溶性で時間依存性に殺菌能を発揮する抗菌薬は、Cminが低下し抗菌薬の効果が弱くなるおそれがある。重症患者では分布容積の増大は珍しくないが、同時にクリアランスが増加したり減少したりすることもあるため、注意が必要である。適切な投与量調節が行われず抗菌薬の投与量が不足すると、耐性菌発生、効果不十分などの問題が起こる可能性がある。腎排泄性の抗菌薬を重症患者に投与する場合は、クレアチニンクリアランスを測定し投与量を調節するのが望ましい。可能であれば薬物治療モニタリング(TDM)を行い、目標血中濃度が得られているかどうかを確認しなければならない。

大部分の抗菌薬の投与量は、重症患者ではない患者を対象とした試験で決定されているため、重症患者に対してはその病態生理学的変化の可能性を考慮し投与量を決めなければならない。抗菌薬の薬力学的特性とともに、重症患者における薬物動態の変化を念頭に置き、投与量を最適化すべきである。そうすれば、各患者によりふさわしい方法で抗菌薬を投与することができる。

教訓
適切な投与量調節が行われず抗菌薬の投与量が不足すると、耐性菌発生、効果不十分などの問題が起こる可能性があります。腎排泄性の抗菌薬を使用する際は、クレアチニンクリアランスを測定し投与量を調節するのが望ましく、TDMを行い目標血中濃度が得られているかどうかを確認しなければなりません。



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