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重症患者における抗菌薬の薬物動態③ [critical care]

Pharmacokinetic issues for antibiotics in the critically ill patient

Critical Care Medicine 2009年3月号より

いろいろな抗菌薬の種類
アミノグリコシド、βラクタム、グリコペプチド、フルオロキノロン、リンコサマイド、チゲサイクリン、リネゾリドおよびコリスチンの一般的な薬物動態および薬力学的特徴、臨床適応および重症患者における投与量について以下に述べる。Table 2に、以上の薬剤の重症患者において起こりうる薬物動態の変化を記した。

アミノグリコシド
アミノグリコシドは治療域が狭いため、その投与法については様々な議論が熱心に繰り広げられてきた。アミノグリコシドは濃度依存性に殺菌能を発揮し、最小発育阻止濃度(MIC)以下に薬物濃度が低下しても長時間にわたって細菌増殖が抑制される効果(PAE : postantibiotic effect)を有する。このような薬力学的特徴があるため、一日一回投与と分割投与のどちらが適しているのかという点について多くの研究が行われてきた。最小濃度(Cmin)が高い、もっと正確に言うとAUCが大きいと、アミノグリコシドのような水溶性薬剤の腎毒性や耳毒性が発現しやすいとされている。ただし、最近の報告によれば耳毒性には遺伝素因が関与しているとのことである。

重症患者ではアミノグリコシドの分布容積は増大していることが多い。そのため最大濃度(Cmax)が低下する可能性がある。重症になるほど分布容積は増える。体重をもとに投与量を決める方法では最高用量(例:トブラマイシンやゲンタマイシンでは7mg/kg)を投与すると、適切なCmax : MIC比が得られる。熱傷患者や人工呼吸が行われている患者でも、分布容積が増大し排泄半減期が延長することが明らかにされている。しかし、アミノグリコシドのクリアランスを知るにはクレアチニンクリアランスの方が有用である。薬物動態の変化や副作用の可能性を考慮し、血中濃度モニタリングを行うことが重要である。得られた血中濃度をBayesian法によって解析し投与量を調節するのはよいが、ノモグラムを用いて投与量を決定してはならない。なぜなら、ノモグラムが重症患者において適切であるかどうかは検証されていないからである。アミノグリコシドの作用を重症患者において最高に引き出すには、Cmaxをモニタリングしながら投与間隔を長くとって、MICを参考にして投与するという従来通りの方法が望ましい。体重をもとにした投与量決定は有効性が高いことが分かっているが、Cminをなるべく低くし(できれば検出不能な程度の濃度)アミノグリコシドの毒性発現を避けるよう努めなければならない。一日複数回投与は、心内膜炎の治療および好中球減少患者においてのみ行ってもよい。

βラクタム系抗菌薬
βラクタム系抗菌薬に属する抗菌薬は、ペニシリン系、セファロスポリン系、モノバクタム系薬剤である。一般的には水溶性薬剤で腎から排泄され、タンパク結合率は中等度以下であるが、薬剤によって大きな差がある。[例;セフトリアキソンの排泄半減期は長く(成人で5.8~8.7時間)タンパク結合率は高い(>95%)]。通常のボーラス投与法では、βラクタム系抗菌薬の血中濃度は次回投与までのあいだに治療効果域以下に低下する可能性がある。

動物実験(in vivo)ではβラクタム剤の殺菌能はT>MICに依存し、緩徐かつ持続的に発揮されることが明らかにされている。McKinnonらの最近の報告によれば、重症感染症患者においてT>MICを100%維持すると(常に血中濃度がMICを超えていると)そうでない場合と比べ、臨床的治癒率(82% vs 33% ; p=0.002)および細菌学的効果(97% vs 44% ; p<0.001)が有意に優れているようである。他の研究では、MICの4~5倍にβラクタム剤の血中濃度が達すると殺菌能が最大になると報告されている。以上から、βラクタム系抗菌薬の血中濃度は投与間隔中できるだけ長時間MICの4~5倍の濃度に維持すべきであることが分かる。重症患者のように免疫能が低下している患者ではこの点に特に留意しなければならない。βラクタム剤は短い投与間隔で投与するか、持続投与にすると薬力学的に望ましいことが明らかにされている。重症患者では糸球体濾過率や分泌容積が増大していることがままあるが、このような場合は上記のような方法でβラクタム剤を投与するのが適しているであろう。βラクタム剤の中でもピペラシリンやチカルシリンについては、腎クリアランスが低下すると胆汁クリアランスが上昇することを示すデータがいくつか得られている。したがって、中等度の腎機能低下と肝機能低下の両者が存在する場合、βラクタム剤のクリアランスが大幅に低下するかもしれないので注意が必要である。βラクタム剤は血中濃度が高いとてんかんを起こすことがあるが、実際にてんかんが起こることは比較的まれである。

Lodiseらは緑膿菌感染のある重症患者194名のコホートを対象とし、ピペラシリン-タゾバクタムの長時間緩徐投与(8時間おきに4時間かけて投与する方法)の効果を検証した。この研究ではAPACHEⅡスコア17点以上の患者に長時間緩徐投与を行ったところ、ボーラス投与法と比べ14日後死亡率が有意に低いという結果が得られた(12.2% 31.6% ; p=0.04)。βラクタム剤は持続投与した方が臨床的治癒率が高いことが明らかにされている。Lorenteらによる人工呼吸器関連肺炎の患者を対象とした遡及的コホート研究では、持続投与法(90.5%)の方が長時間緩徐投与法(30分以上かけて投与;59.6%)よりも臨床的罹湯率が高いことが示されている。Robertsらはセフトリアキソンを使用する場合は、4日間以上の投与が必要であるならば持続投与する方が臨床効果が高いと報告している。ただし、この研究のITT分析では有意差は認められていない。βラクタム剤持続投与の臨床的有用性を明らかにするにはさらに研究を重ねる必要がある。

カルバペネム系抗菌薬
カルバペネム系抗菌薬の薬物動態はβラクタム剤と酷似している(Table 2)。薬力学的には時間依存性の抗菌薬であり、投与間隔の少なくとも40%の時間においてMICを上回る血中濃度が維持されているときに殺菌能が最大になる。重症患者ではカルバペネム系抗菌薬の分布容積とクリアランスは増大していることが多い。持続投与や長時間緩徐投与についての研究が行われ、効果を高めるには適していると報告されている。持続投与法は薬力学的に利点があることが指摘されており、重症患者には非常に適していると考えられる。

グリコペプチド系抗菌薬
グリコペプチド系抗菌薬は水溶性の抗菌薬で、代表的なものにバンコマイシンとテイコプラニンがある。グリコペプチドの薬力学的特徴はまだ十分には解明されていない。動物実験(in vitro)の結果からは、バンコマイシンの殺菌能は時間依存性であることが伺われている。しかし、好中球数正常マウスを使った実験では、Cmax : MICが殺菌能の大きさに関与するという結果が得られている。

したがって、Cmax : MICとT>MICのどちらに焦点を合わせて投与法を決定すればよいのか、という点について一般的な合意は得られていない。バンコマイシン持続投与の有効性について検証する研究が行われたが、決定的な結論には至らなかった。Wysockiらは160名の患者を対象に持続投与と間欠投与を比較し、持続投与に特段の優越性を認めなかった。しかしRelloらの最近の報告によれば、MRSAによるVAPの症例では、バンコマイシンを持続投与すると間欠投与を上回る臨床的効果が得られるとのことである。

大部分のβラクタム剤と同様にグリコペプチドのクリアランスはクレアチニンクリアランスとよく相関する。急性腎不全患者では腎以外経路によるグリコペプチドのクリアランスが増大することが多くの研究で示されているが、その個人差は大きい。肥満患者では実測体重をもとにして得られた投与量(~30mg/kg)が適切である。ただし、投与回数を増す必要性が指摘されている。したがって、クレアチニンクリアランスを基にして投与量を決め、Cmin(15-20mg/L)を測定して薬物治療モニタリング(TDM)を実施することが推奨されている。バンコマイシンのCminが高い(≧15mg/dL)ほど腎毒性発生率が高いことが分かっている。アミノグリコシドやアンフォテリシンなどの腎毒性薬剤が併用されていると、バンコマイシンの腎毒性がより強く発現する。

フルオロキノロン系抗菌薬
フルオロキノロン系抗菌薬は脂溶性薬剤で、代表的なものにシプロフロキサシン、モキシフロキサシン、レボフロキサシン、ガチフロキサシンがある。フルオロキノロン系抗菌薬はすべて良好な組織移行性を示し、十分な細胞内および細胞外濃度が得られ、好中球やリンパ球内への移行率も高い。重症患者では大部分のフルオロキノロン系抗菌薬の分布容積はほとんど変化しないが、レボフロキサシンは重症患者において排泄半減期が短縮し、AUCが30~40%減少するため投与量を増やす必要がある。フルオロキノロン系抗菌薬の薬物動態をTable 3に示した。

フルオロキノロン系抗菌薬は濃度依存性の殺菌能を発揮するだけでなく、時間依存性の効果もある。シプロフロキサシンの場合、Cmax : MICを10にすることが殺菌能が得られるか得られないかの境界である。Forrestらは重症患者におけるシプロフロキサシンの薬物動態を調べ、AUC : MICを>125まで持って行くと臨床的転帰が改善すると結論づけている。この結果はグラム陰性菌に当てはまるものであり、グラム陽性菌の場合はAUC : MICを>30にすればよい。シプロフロキサシンの投与量が不足すると、耐性菌(特に、腸球菌、緑膿菌およびMRSA)が発生しやすくなる。グラム陰性菌の場合、AUC : MIC<100のとき耐性菌の発生が懸念される。したがって、薬力学的見地からはAUC : MICおよびCmax : MICを十分に配慮しながら、フルオロキノロン系抗菌薬の適切な投与量を決めなければならない。Cmax : MICを最大化するような投与量を選択すると、適切なAUC : MICを達成することができる。フルオロキノロン系抗菌薬の主な副作用は、QT延長、錯乱およびめまいである。(つづく)

教訓
重症患者の多くではアミノグリコシドの分布容積は増大しています。体重をもとに投与量を決める方法では最高用量(例:トブラマイシンやゲンタマイシンでは7mg/kg)を投与すると、適切なCmax : MIC比が得られます。、アミノグリコシドのクリアランスを知るにはクレアチニンクリアランスが有用です。βラクタムはMICの4~5倍に血中濃度が達すると殺菌能が最大になります。βラクタムは短い投与間隔で投与するか、持続投与にすると薬力学的に望ましいことが明らかにされています。カルバペネム系抗菌薬の薬物動態はβラクタムとほぼ同じです。


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