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21世紀の耐性菌 後編 [critical care]

Antibiotic-Resistant Bugs in the 21st Century — A Clinical Super-Challenge

NEJM 2009年1月29日号より

近年、製薬会社による抗菌薬研究がすっかり勢いを失っているとはいうものの、グラム陽性菌感染症治療薬としていくつかの化合物が開発されたり、昔からある薬剤が再び脚光を浴びたりしている。しかし、現在市販されている抗菌薬には大きな問題がつきまとっている。すなわち、MRSAに対してバンコマイシンよりも強力な薬剤は皆無であること、quinupristin/dalfopristin(Synercid)およびリネゾリド(ザイボックス)には強い毒性があること、どの薬剤についてもすでに耐性菌が出現していること(リネゾリド投与歴のない患者からリネゾリド耐性VREが分離された例が報告されている)、腸球菌感染症に対するチゲサイクリン(チガシル)の有効性についてはデータがほとんどないこと、チゲサイクリンは血中濃度が上がりにくいため菌血症の治療には適していない可能性があること、などいくつもの問題点が指摘されている。近年開発された抗菌薬にもあまり期待はできない。新しいセフェム系薬(ceftobiproleおよびceftaroline)はアンピシリン耐性E. faeciumには臨床的には無効と考えられる。dalbavancin、telavancin、およびoritavancinはバンコマイシン耐性菌にはほとんど使えないであろう。また、iclaprimはMRSA感染症に有効である可能性があるが、腸球菌に対する効果についてはまだ臨床的には示されていない。

院内グラム陰性感染症はさらに恐るべき問題になっている。多剤耐性グラム陰性菌の治療薬に関しては、臨床的に有効性を確認するような段階まで開発が進んでいる薬剤すら存在しないのが現況である。グラム陰性菌のうち治療が困難なものとしてよく知られている細菌に多剤耐性緑膿菌およびアシネトバクターがある(多剤耐性アシネトバクターは、イラクおよびアフガニスタンからの帰還兵から分離され、大きな問題となっている)。しかし今では、多剤耐性グラム陰性菌はこの二つにとどまらず、強力な抗菌薬の多くに耐性を持つ腸内細菌(クレブシエラ、大腸菌およびエンテロバクター)さえも院内感染症例で検出されている。さらには、多剤耐性グラム陰性菌の市中感染例まで出てきている。ST合剤やフルオロキノロンに耐性の大腸菌や基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生大腸菌による尿路感染症、多剤耐性サルモネラ菌による食中毒の大規模発生などがその実例である。

つい最近まで、イミペネムをはじめとするカルバペネム系抗菌薬はほぼすべてのグラム陰性耐性菌に対して有効であったが、耐性を獲得した株も出現し始めている。耐性化の機序は、βラクタマーゼ産生によるカルバペネム分解、細胞外膜のポリン変異による薬剤透過性低下、複雑な機構を持つ「排出ポンプ」による抗菌薬の菌体外への排出などである。抗菌薬透過性の低下や抗菌薬排出ポンプの形成は、他の系統の抗菌薬(キノロン系、アミノグリコシド系およびチゲサイクリンなど)に対する感受性にも影響を及ぼすため、とてもやっかいな問題である。また、グラム陰性菌のβラクタマーゼ遺伝子は、可動性遺伝因子の働きによって他のグラム陰性菌に転移することが可能であるため、将来的に大きな脅威となると考えられている。グラム陰性菌によるカルバペネマーゼ(カルバペネム加水分解酵素)の出現には特に細心の注意を要する。万一、カルバペネマーゼ産生菌が検出された場合は、カルバペネマーゼ遺伝子が他のグラム陰性菌に伝播しないように厳格な感染予防策を実施し、院内での蔓延を回避しなければならない。

以上述べた暗澹たる現況に直面する21世紀の医師にできることは、数十年前に開発された薬剤や毒性のため実用化が断念された薬剤をもう一度見直すとか、考えつくありとあらゆる物質を試してみて効果がありそうならとにかく使ってみるとかいったことであろう。ポリミキシン(例colistin+/-rifampicin)は再評価された薬の一例であり、多剤耐性グラム陰性菌(特にアシネトバクター)には本剤のみが唯一有効な薬剤であることが多い。とは言え、毒性(主として腎毒性)はやはり問題であるし、ポリミキシン耐性菌も報告され始めている。

ありとあらゆる抗菌薬が効かない「超耐性菌(superbugs)」による感染症の治療は、今までに例のない困難な問題として立ちはだかっている。そして、グラム陰性菌および腸球菌に対する殺菌作用のある新しい抗菌薬の開発はまったく滞っているという惨憺たる状況であり、将来の展望が拓かれる兆しもない。人類が細菌との覇権争いの勝者となるには、研究者、研究機関、企業および政府が一致協力し努力を傾注することが不可欠である。

教訓 LZD投与歴のない患者からLZD耐性VREが分離された例が報告されています。抗菌薬の開発は手詰まりなので、多剤耐性菌が発生したら感染予防策をしっかり講じて伝播の防止に努めなければなりません。



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