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鎌状赤血球症の肺合併症~溶血 [critical care]

NEJM 2008年11月20日号より

Pulmonary Complications of Sickle Cell Disease

溶血、血管内皮障害、血管障害
ヘモグロビンの分解
酸化ストレスまたは機械的ストレスによって赤血球内から血漿中へ放出されたヘモグロビンは、複雑な機序によって除去され解毒される。二量体となったヘモグロビンはハプトグロビンと結合する。ヘモグロビンとハプトグロビンの複合体はヘモグロビンスカベンジャープロテインCD163によって認識される抗原決定基(ネオエピトープ)を提示する。CD163が作用するとマクロファージや単球はヘモグロビンを取り込む。するとIL10が活性化され、ヘムオキシゲナーゼ1とビリベルジン還元酵素の発現が誘導される。この二つの酵素はヘムを分解し、強力な抗増殖・抗酸化・抗炎症作用のシグナルを伝達する。また、遊離ヘム、鉄、酸素による酸化および炎症反応によってもヘムオキシゲナーゼ1とビリベルジン還元酵素が活性化され、ハプトグロビンがヘモグロビンに結合しヘムを介した脂質の過酸化が抑制され、ビリベルジン還元酵素はその還元作用によりNADPHを産生し、グルタチオンを還元する。また、ヘムオキシゲナーゼ1の作用によって産生された一酸化炭素とビリベルジンは血管傷害を抑制する。鎌状赤血球症における血管傷害の新しい治療法として、ハプトグロビン投与、一酸化炭素および一酸化炭素放出化合物の吸入、ヘムオキシゲナーゼの遺伝子または薬物を利用した誘導などが動物実験で研究されている。

溶血
一酸化窒素に対する影響
鎌状赤血球症では、非発作時でもヘモグロビンおよびヘム除去能が最大限に発揮されているが、それでも除去能が追いつかない状態にある。血漿中の遊離ヘモグロビンや、水酸化ラジカルおよび過酸化ラジカルなどの活性酸素は、強力な一酸化窒素スカベンジャーである。一酸化窒素は通常は血管内皮が産生しており、血管を拡張させ、血小板機能および凝固系活性化を抑制し、NF-κB依存性接着分子(ICAM1、VCAM1、セレクチン)の発現を抑制し、ラジカル-ラジカルスカベンジングにより過酸化物質を減少させる。一酸化窒素は血中ではヘモグロビンと反応しメトヘモグロビンと硝酸塩を生成する。この反応は迅速に起こるため、一酸化窒素の血中での半減期は非常に短い。一酸化窒素の血管拡張作用が発揮されるのは、正常ではヘモグロビンの大部分が赤血球内に存在しているからである。血液が血管内を流れることによって血管内皮に沿って細胞の存在しない帯域が形成される。赤血球周囲にあるこの無細胞ゾーンおよび赤血球周囲の非撹拌血液層(血流に乗らない血液)が存在することによって、一酸化窒素の赤血球内への拡散が制御されている。しかし、溶血しヘモグロビンが血漿中に放出されると、このバリアが突破され、遊離ヘモグロビンが一酸化窒素の作用を強力に阻害する。その結果、内皮細胞障害および一酸化炭素抵抗性が臨床的に顕在化する。
アルギニンに対する影響
溶血によってヘモグロビンの他に赤血球アルギナーゼ1が血漿中に放出される。アルギナーゼは血漿中のアルギニンを代謝しオルニチンに変えるため、一酸化窒素合成に必要な基質が減少する。これが鎌状赤血球症で一酸化窒素の作用が低下する一因である。鎌状赤血球症患者ではアルギナーゼ1の血中濃度および活性が、健常対照群と比較し有意に上昇しているという報告がある。一酸化窒素の作用低下は、重症肺高血圧症や死亡につながる。
凝固能亢進
溶血性疾患では一酸化窒素およびアルギニンが慢性的に不足する。その結果、凝固能が亢進する。一酸化窒素には血小板活性化を阻害する強力な働きがある。鎌状赤血球症では一酸化窒素と、その基質であるアルギニンが減少するため、血小板が活性化されやすい状態が形成されている。血小板が活性化されると、血小板内でアルギナーゼ発現が亢進するため、アルギニンが一層減少する。溶血は遊離ヘモグロビンを放出するだけでなく、組織因子を活性化する作用のあるフォスファチジルセリンを含んだ小胞が赤血球内で形成されるという影響を及ぼす。機能的無脾症のある鎌状赤血球症患者や、脾摘を受けたサラセミア患者では、血漿中のヘモグロビン濃度が上昇し、赤血球内のフォスファチジルセリンを含んだ小胞が増加する。これが鎌状赤血球症やサラセミアにおいて凝固能が亢進し、無脾症に陥るとさらに病態が悪化する原因であると考えられている。鎌状赤血球症マウスモデルやマラリアマウスモデルでは、一酸化窒素や内皮依存性血管拡張薬による血管拡張作用が減弱し、肺高血圧症および右心不全が発生することが確認されている。(つづく)

教訓 溶血はNOを減少させます。その結果内皮傷害、肺高血圧、凝固能亢進などが起こります。


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