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鎌状赤血球症の肺合併症~肺高血圧症 [critical care]

NEJM 2008年11月20日号より

Pulmonary Complications of Sickle Cell Disease

鎌状赤血球症における肺高血圧症
鎌状赤血球症における肺高血圧症の最大の危険因子は溶血性貧血の重症度である。溶血性貧血の重症度は、非発作時のヘモグロビン濃度、LDH値、間接ビリルビン値および網赤血球数から判断する。鎌状赤血球症以外の溶血性貧血疾患(サラセミア、発作性夜間ヘモグロビン尿症、遺伝性球状赤血球症、遺伝性有口赤血球症、ピルビン酸キナーゼ欠損症、自己免疫性溶血性貧血、G6PD欠損症、不安定ヘモグロビン症、顕微鏡的溶血性貧血など)でも肺高血圧症が合併することがある。
心エコー
成人鎌状赤血球症患者の20%に境界域~軽度の肺高血圧症(肺動脈収縮期圧>35mmHg)、10%に中等度~重度の肺高血圧症(肺動脈収縮期圧>45mmHg)が認められる。特発性または遺伝性肺高血圧症と違い、鎌状赤血球症では境界域~軽度の肺高血圧症でも死亡リスクが著しく高い。肺動脈圧上昇の度合いを、血管傷害の程度を反映する死亡の危険因子の一つと捉えればよいのか、それとも右心不全の進行または急性右心不全を引き起こす直接的な死因の本態と捉えればよいのかはまだ分かっていない。小児患者における境界域肺高血圧症の病態的意義は解明されていない。成人鎌状赤血球症患者では、ドップラー心エコー検査による肺高血圧症のスクリーニングを行うべきである。鎌状赤血球症患者は痩せているので心エコーによる三尖弁逆流の描出は容易である。三尖弁逆流のジェット流速が2.5m/secであると肺動脈収縮期圧は約35mmHgである。通常は三尖弁逆流のジェット流速が3.0m/sec以上である場合を肺高血圧症とするが、鎌状赤血球症では2.5-2.9m/secでも死亡リスクが上昇する。国立衛生研究所(NIH)の追跡調査では、三尖弁逆流のジェット流速が2.5-2.9m/secであると、それ未満である場合と比べ死亡率比が4.4(95%CI, 1.6-12.2; P<0.001)であり、3.0m/sec以上であると死亡率比が10.6(95%CI, 3.3-33.6; P<0.001)であるという結果が得られている。
脳性ナトリウム利尿ペプチド
肺高血圧症のスクリーニング検査には、脳性ナトリウム利尿ペプチドのN末端断片の血中濃度を測定する方法もある。脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)は、心臓が圧または容量によって伸展されると心筋細胞から放出される物質である。特発性であれ鎌状赤血球症に合併するものであれ肺高血圧症では、BNP値は肺血管抵抗の程度および死亡危険性とよく相関する。鎌状赤血球症患者の約30%においてBNP値上昇(>160ng/mL)が認められ、BNPが上昇していない患者群と比較し死亡リスクが有意に高い(2.87倍)という結果がNIH肺高血圧症スクリーニング研究で報告されている。血管閉塞性発作や急性胸部症候群が起こると、肺動脈圧は急激に上昇する。急性胸部症候群で入院した84名を対象とした研究では、5名(13%)で右心不全が認められたことが明らかにされている。右心不全の5例すべてで人工呼吸管理が行われ、4名は死亡した。以上から、急性胸部症候群では急性肺高血圧症と右心不全が合併することが分かる。
心臓カテーテル検査
血行動態に影響を及ぼすほどの肺高血圧(心エコーで三尖弁逆流のジェット流速が3.0m/sec以上)があれば、確定診断のため右心カテーテル検査を行わなければならない。鎌状赤血球症の肺高血圧症例の右心カテーテル検査では門脈肺高血圧症に類似したhyperdynamic な血行動態が認められる。肺高血圧症を合併した鎌状赤血球症患者の平均肺動脈圧は約40mmHg、肺血管抵抗は約250dyn・sec・cm-5である。肺血管抵抗が比較的低いのは、貧血のため心拍出量が増えているからである。心エコーで三尖弁逆流のジェット流速が3.0m/sec以上であり右心カテーテル検査を行った患者のうち約60%が肺高血圧症の確定診断に至り、残り40%では左室拡張能低下(左室拡張終期圧>15mmHg)と診断される。肺高血圧に拡張能低下を伴うと死亡リスクが極めて高くなる。
肺高血圧のその他の機序
鎌状赤血球症における肺高血圧症の成因には、血管内溶血以外の様々な機序が関与している。鉄過剰症、C型肝炎、肝結節性再生性過形成などがあると肝機能障害のため門脈肺高血圧症が発生する可能性がある。鎌状赤血球症に合併することの多い慢性腎不全も肺高血圧症発症の危険因子の一つである。肺血管内の血栓および肺塞栓が臨床的に、または剖検で認められることも多い。慢性血栓塞栓性肺高血圧症は、鎌状赤血球症患者の5%に発生する。急性胸部症候群を繰り返す症例で肺高血圧症が多いことを示すデータはない。

まとめ
成人鎌状赤血球症患者の死因として多いのは肺合併症(急性胸部症候群と肺高血圧症)である。急性胸部症候群で死亡する症例では、急激な肺動脈圧上昇と右心不全が認められることが多い。急性胸部症候群と肺高血圧症に対し現在行われている治療法は、根拠に乏しかったり、専門家の意見に基づいているだけのものであったりするので、無作為化臨床試験によるエビデンスの確立が望まれる。

教訓 溶血がひどいとNOが減って肺高血圧症になります。鎌状赤血球症患者が肺高血圧症になると死亡リスクが上昇します。
コメント(2) 

コメント 2

indoler

はじめまして。創薬研究をしている者ですが、ちょっと質問したく記載させていただきました。
肺高血圧症を適応症とする臨床試験/フェーズ1において
低酸素ランニングを実施した健常被験者に対して、心エコー/ドップラー法で肺動脈圧等を測定することで、薬効の確認をすることは可能なのでしょうか?
by indoler (2009-03-15 13:49) 

vril

心エコーによる肺動脈圧評価が、対象薬の薬効の確認をするに十分な信頼度があるかどうかは、私にはよく分かりません。心エコーは実施する人の技量に左右される部分が大きいので、検出しようとする肺動脈圧変化の幅が相当小さければ心エコーは適切とは言い難いかもしれません。
by vril (2009-03-16 07:42) 

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