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クロストリジウム・ディフィシル~発生率&毒性 [critical care]

NEJM 2008年10月30日号より

Clostridium difficile — More Difficult Than Ever

発生頻度と重症度
米国の急性期病院では、1990年代中盤から終わり頃にかけてのクロストリジウム・ディフィシル感染の発生率は10万人あたり30-40件であった。2001年には50件まで増加した。その後も増え続け、2005年には10万人あたり84件と、1996年(10万人あたり31件)の3倍近くにまで跳ね上がった。イングランドでは、クロストリジウム・ディフィシル感染を主因とする死亡数が1999年には499名であったものが、2005年には1998名、2006年には3393名に急増している。ケベック州(カナダ)Estire地区でもクロストリジウム・ディフィシル感染発生率は1991年から2002年までは10万人当たり20件強であったが、2003年にはその約4倍(92.2件/10万人)に増加し、特に高齢者において発生増加が顕著に認められた(64歳以上では10万人あたり867件)。また、このときのクロストリジウム・ディフィシル感染症例では重症度と死亡率が高く、1703名のクロストリジウム・ディフィシル感染患者を対象とした調査では、クロストリジウム・ディフィシル感染を主因とする死亡例が117名(6.9%)存在した。

強毒株の発生
McDonaldらは米国の医療施設八ヶ所で2000年から2003年のあいだに起こったクロストリジウム・ディフィシル感染集団発生において検出されたクロストリジウム・ディフィシルを調査した。五ヶ所で検出された株のうち半数が同じ株であり、これはケベック州における集団発生のときの株と同じものであった。この株は1980年代にはじめて同定され、BI/NAP-1/027株と名付けられた。強毒性の変異株であるBI/NAP-1/027株によるクロストリジウム・ディフィシル感染集団発生には以下の三つの要素が関与していることが指摘されている:トキシンAとトキシンBの産生量増加、フルオロキノロン系抗菌薬に対する耐性およびバイナリートキシン(活性を担うAサブユニットと結合を担うBサブユニットの二つのコンポーネントからなるトキシン)の産生。トキシンA(エンテロトキシン)とトキシンB(サイトトキシン)はクロストリジウム・ディフィシルの毒性を決定する二大トキシンである。この二つの毒素を産生しないクロストリジウム・ディフィシルには病原性はない。毒素の産生にはtcdA, tcdBと三つの制御遺伝子のあわせて五つの遺伝子が関わっている。制御遺伝子の一つであるtcdCはトキシン産生を抑制する働きがあると推測されている。クロストリジウム・ディフィシル感染集団発生時に検出されたBI/NAP-1/027株ではtcdC遺伝子内の塩基配列に欠失があり、毒素産生量が通常の10倍程度に増加していた。クロストリジウム・ディフィシル毒素は、腸管上皮細胞表面に結合すると細胞内に取り込まれ、細胞間結合を崩壊させたり、細胞骨格を破壊したりして、細胞を死に至らしめる。80年代、90年代に分離されたBI/NAP-1/027株はすべてtcdC遺伝子に変異が認められた。当時のBI/NAP-1/027株と違い、最近の株ではガチフロキサシンおよびモキシフロキサシンに対する高度耐性が認められている。これは、病院でフルオロキノロン系抗菌薬が広く用いられるようになり耐性株が選択されてきた結果であると考えられる。このため、過去にクリンダマイシン耐性株による集団発生を受けクリンダマイシン使用制限の必要性が指摘されたのと同じように、フルオロキノロン系抗菌薬の使用制限によりBI/NAP-1/027株集団発生を抑止できる可能性が示唆されている。BI/NAP-1/027株の毒性を担う三番目の毒素であるバイナリートキシンは、トキシンAおよびBの産生に関わる遺伝子とは関連がない。バイナリートキシンはin vitroでは腸管毒性があることを確認されているが、生体内のクロストリジウム・ディフィシル感染における病原性についてはまだよく分かっていない。トキシンAおよびBを産生せずバイナリートキシンのみを産生するクロストリジウム・ディフィシルには病原性がない。それでも、強毒性の変異株であるBI/NAP-1/027株がバイナリートキシンを産生することに注目し、重篤な大腸炎を引き起こすトキシンAおよびBとバイナリートキシンが相乗的に作用し強い毒性を発揮するのではないかと考えられている。

感染の拡大
クロストリジウム・ディフィシル感染は高齢で衰弱した入院患者もしくは老人保健施設入所者に発生することが多かった。しかし最近、米国疾病管理予防局は感染リスクがないと従来考えられていた集団でもクロストリジウム・ディフィシル感染が発生する可能性があるとして注意を呼びかけている。医療機関に収容されたことがなく、抗菌薬を投与されたこともないようなそれまで健康であったような若年者でもクロストリジウム・ディフィシル感染リスクがある。クロストリジウム・ディフィシル感染患者との接触による小児感染例も見つかっており、ヒトからヒトへ直接伝播することも分かってきた。妊娠中に重症クロストリジウム・ディフィシル感染のため大腸切除術が行われたものの死亡した例も報告されている。若年者でも劇症型クロストリジウム・ディフィシル感染が発生することを広く知らしめることによって早期発見および治療につながると考えられる。

メトロニダゾール vs バンコマイシン
クロストリジウム・ディフィシル感染がはじめて報告されたのは1970年代後半のことである。その後間もなく、メトロニダゾールまたは経口バンコマイシン投与が本感染症治療に有効であることが明らかにされた。最近10年のあいだにクロストリジウム・ディフィシル感染の発生頻度および重症度が劇的に悪化しているが、それでもこの二剤は今でもクロストリジウム・ディフィシル感染のほぼ全例に用いられている。2000年までの調査ではメトロニダゾール、バンコマイシンの無効率はほぼ同等(それぞれ2.5%、3.5%)であった。しかし2000年以降、メトロニダゾール無効例が増加している(18.2%)。例えば、ケベック州での集団発生では感染患者の26%においてメトロニダゾールが無効であった。また、下痢が改善するまでの日数はメトロニダゾールの方がバンコマイシンより有意に長い(4.6日 vs 3.0日, P<0.01)ことが遡及的調査で示された。このためバンコマイシンの方がメトロニダゾールよりもクロストリジウム・ディフィシル感染治療に有効である可能性についての議論が続いている。最近では、重症例にはバンコマイシンを第一選択とすべきであるという意見が専門家の間では優勢である。2007年に発表された前向き無作為化比較対照試験では、172名の患者をメトロニダゾール群(250mg×4/day)とバンコマイシン群(125mg×4/day)に割り当てて比較した。軽症例では二剤は同等であったが、バンコマイシン(98%)の方がメトロニダゾール(90%)より有効率が高い傾向が認められた(P=0.36)。重症例ではバンコマイシンの方が有意に有効率が高かった(97% vs 76%, P=0.02)。最近行われた他の前向き試験でもこれと同様の結果が得られている。中等症までのクロストリジウム・ディフィシル感染の治療においては、安価であることおよびバンコマイシン耐性菌発生のおそれがないことから、現在でもメトロニダゾールが第一選択である。一方、重症例ではバンコマイシンを第一選択とすべきであろう。クロストリジウム・ディフィシル感染が重症であることを示唆する徴候は、偽膜性腸炎、白血球著増、急性腎不全および低血圧である。バンコマイシンは有効性の高い薬剤ではあるが、重症例ではイレウスや中毒性巨大結腸症のため経口投与が困難なこともある。その場合はメトロニダゾール静注(500mg×4/day)と、可能であればNG tubeまたは浣腸でバンコマイシン(500mg×4/day)を併用する。免疫グロブリン静注(400mg/kg)施行例も報告されているが、有効性は確立されていない。難治例では大腸亜全摘が適応となる場合もある。(つづく)

教訓 C. difficileには強毒株が増えているようです。重症例ではバンコマイシンの方がメトロニダゾールより有効です。

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