SSブログ

クロストリジウム・ディフィシル~再発例の治療 [critical care]

NEJM 2008年10月30日号より

Clostridium difficile — More Difficult Than Ever

感染の再発
クロストリジウム・ディフィシル感染治療における大きな課題は、初回治療成功後の再発である。再発率はメトロニダゾールとバンコマイシンともに20%前後である(それぞれ20.2%、18.4%)。再発は典型的には、初回治療終了後約4週間で発生する。クロストリジウム・ディフィシルのバンコマイシン耐性は報告されていない。メトロニダゾール耐性は稀ではあるが存在する。初回感染とは異なる株のクロストリジウム・ディフィシルに感染して再発するものと考えられている。

宿主免疫の役割
一度再感染した患者では、また再発するリスクが高い。初回感染後の再発率は20%だが、一回再発すると二回目が起こる頻度は40%、二回以上の再発があるともう一度再燃する頻度は60%以上になる。回を重ねる毎に再度感染が起こる可能性が高まるのは、クロストリジウム・ディフィシルに対する免疫がない患者が選択されるためであると考えられている。抗菌薬を投与され、毒性のあるクロストリジウム・ディフィシルが定着しても、感染が成立するのは半数のみである。残りの半数は無症状のキャリアになる。定着後に無症状キャリアになる患者では、定着後早期にトキシンAに対するIgG抗体が増加する。感染が成立する患者ではこの現象は認められない。初回感染時に、抗トキシンA IgMが増加し引き続いてIgGが増加することがある。抗菌薬治療終了時に抗トキシンIgG量が多いと、少ない場合と比べ再発率が44分の1に低下する。

再発例の管理
・一般的注意
まず、抗菌薬の投与を中止し、腸内細菌叢の正常化を目指す。メトロニダゾールまたはバンコマイシン投与終了後に下痢が認められても、必ずしもクロストリジウム・ディフィシル再感染であるとは限らない。無症状もしくはごく軽い症状しかない患者からクロストリジウム・ディフィシル毒素が検出されたからと言って、ただちに治療を開始すべきではない。中等度以上の下痢が認められないのであれば、便の毒素検出検査を繰り返すことは推奨されない。メトロニダゾールまたはバンコマイシンを数週間以上投与しても下痢が改善しない場合は、クロストリジウム・ディフィシル以外の原因を考慮するべきである。
・抗菌薬とプロバイオティクス
クロストリジウム・ディフィシルの抗菌薬耐性は臨床的には問題視するほどのものではないため、1回目の再発時は初回治療と同一の抗菌薬を用いる。二回以上の再発例の標準的治療法は確立していない。単純な抗菌薬関連下痢症では乳酸菌やフルーツ酵母などのプロバイオティクス製剤が有効であるが、クロストリジウム・ディフィシル感染抑止効果についての研究では有効性は一定しない。抗菌薬併用療法が再発例治療に有効であったという報告がある。バンコマイシンに加えリファキシミン経口投与(400-800mg/day)を14日間実施しクロストリジウム・ディフィシル再感染治療に有効であったと報告されている。
・免疫療法
感染再発を繰り返す患者に対してはクロストリジウム・ディフィシル毒素に対する受動または能動免疫療法が行われている。半数以上の成人の血中には抗クロストリジウム・ディフィシル毒素抗体が存在するため、一般的な免疫グロブリン製剤を用いることによってトキシンAおよびBを中和することができると考えられる。したがって再発例には免疫グロブリン製剤が投与され、有効であるとの報告もあるが、無作為化比較対照試験は行われていない。標準的治療が無効であったり、大腸切除が考慮されたりするような重症例では免疫グロブリン投与に有効性が認められないという報告も多い。能動免疫療法についてはまだデータが非常に少ない。不活化クロストリジウム・ディフィシルワクチン(トキソイドAおよびB)を三名の再発患者に投与したところその後の再発は認められなかったと報告されている。免疫療法(受動および能動)は再発例の有望な治療法であることが期待されているが、前向き比較対照研究で有効性を確認する必要がある。
・Bacteriotherapy
クロストリジウム・ディフィシル感染は抗菌薬によって正常腸内細菌叢が破壊されて発生する。治療のために使用されるメトロニダゾールやバンコマイシンも腸内細菌叢を破壊する。クロストリジウム・ディフィシルのうち毒性のない株を投与することによって毒性のある株が定着、感染する余地をなくすという治療法が1987年にSealらによって提唱された。動物ではこの治療法の有効性が確認され、現在はヒトでの応用の準備が進んでいる。ヒト(通常は患者家族)の便の濾過液をNG tubeまたは大腸内視鏡から注入する方法(注便療法)も行われている。この方法が有効であったという報告もあるが、実用性の面、および気持ち悪さから一般的な治療にはなっていない。
・新しい抗菌薬
現在FDAがクロストリジウム・ディフィシルの治療薬として認可している抗菌薬はバンコマイシンのみである。他の感染症の適応として認可されている抗菌薬(ニタゾキサニド、リファキシミンなど)や、まったく認可されていない抗菌薬(ラモプラニン、difimicin)についても研究が行われている。Tolevamerは不活性ポリマーでトキシンAおよびBに結合する。第2相臨床試験では有効性があるという結果が得られたが、第3相試験ではバンコマイシンおよびメトロニダゾールより劣っているという結果であった。Tolevamerには直接的な抗菌活性はなく、定着を起こさないようにする作用があると考えられている。Tolevamerが有効であった症例では再発がバンコマイシン(23%)およびメトロニダゾール(27%)より非常に少なかった(3%, 二剤ともP<0.001)。抗菌薬関連下痢症に対する治療法としては、新しい抗菌薬にはあまり期待が持てそうにない。それよりも抗菌薬以外の有効な治療法や予防法の確立に力を傾注するほうがよい。

まとめ
クロストリジウム・ディフィシル感染は病院や老人保健施設だけでなく、外来でも珍しくなくなってきた。抗菌薬耐性、毒性の増強または芽胞形成の促進に関与する変異株の発生によって本感染症の発生率が上昇し、強毒株感染例が増えている。抗菌薬以外の治療法の開発が焦眉の急である。クロストリジウム・ディフィシル感染の大部分は医原性かつ院内感染によるものであるため、抗菌薬の注意深い選択と、できる限り抗菌薬を使用しないことが最も重要な予防法である。消毒、手洗い、およびバリアプリコーションも有効な予防法である。

治療法の提案
初回治療
 軽症~中等症 メトロニダゾール500mg×3/day(経口) 10-14日間
 重症またはメトロニダゾール無効/使用不可 バンコマイシン125mg×4/day(経口) 10-14日間
再発1回目
 軽症~中等症 メトロニダゾール500mg×3/day(経口) 10-14日間
 重症またはメトロニダゾール無効/使用不可 バンコマイシン125mg×4/day(経口) 10-14日間
再発2回目
 バンコマイシン 漸減パルス療法を行う。
  125mg×4/day(経口) 14日間
  125mg×2/day(経口) 7日間
  125mg×1/day(経口) 7日間
  125mg×1/day(経口)隔日 8日間(4回内服)
  125mg×1/day(経口)二日おき 15日間(5回内服)
再発3回目
  125mg×4/day(経口) 14日間 引き続き リファキシミン400mg×2/day 14日間
再発時のその他のオプション
  免疫グロブリン静注 400mg/kg 一日一回 二種おきに一回 2-3回投与
  注便療法


教訓 再発する例では何度も何度も再発を繰り返すことがあります。抗菌薬以外の治療法には、IVIG、ワクチン、プロバイオティクス、注便療法などがあります。

コメント(4) 

コメント 4

ぶりぶり

ヒト(通常は患者家族)の便の濾過液をNG tubeまたは大腸内視鏡から注入する方法(注便療法)は、恐ろしすぎます。((((;゜Д゜)))ガクブル
この前の、うんこコーヒーといい、うんこ濾過液飲料といい、最新医学はうんこ漬けですね('ひ')ヒヒヒヒッ

おっと、あっしのハンドルネームも「ぶりぶり」でしたね、
こりゃまた、失礼しました~~
by ぶりぶり (2008-12-09 20:01) 

vril

いつもコメントをくださりありがとうございます。文字ギチギチのまじめブログだからなのか、コメント欄はいつも閑古鳥でつまんないなぁと思っていると、ぶりぶりさんからおもしろコメントが届き、うれしくなります。

ところで、映画「アマデウス」によるとモーツァルトは汚言症だったそうです。本ブログ記事にあるその手の言葉にいつも反応してくださるぶりぶりさんも汚言症かもしれませんね。つまり、天才ってことです。おめでとうございます。

澄ました顔してエゲツない言葉を本ブログに書き記しているように思われるかもしれませんが、原典にそう書いてあるから仕方なく訳出しているだけです。嬉々として高らかに汚言症御用達ワードを打ち込んでいるとお考えでしたら、ご訂正願います。原文を読んで「キャッ」と頬を赤らめ、もじもじと恥じらいながらおそるおそる文字化しているのです。

天才のぶりぶりさんには凡人のくだらない躊躇は理解を絶するかと存じますが、是非ともお知りおきください。
by vril (2008-12-09 21:20) 

Shelley

初めまして。
I had c-diff and I was on vanvocin for 10 days. After I finished the dosage, it came back after 3-4 days. I tested my stool again and the doctors found that the c-diff bacteria was still there. My symptoms aren't very serious. I don't have diarrhea or stomach pains. The doctor say I should take another 10 day dosage of vancocin again but I am against taking any more antibiotics. I have been taking probiotics. Is there anything else I can do to help? If nothing changes should I take the vancocin later anyways? What do you think of my situation? Do you have any recommendations for me? Thank you
by Shelley (2012-02-24 12:39) 

vril

Thanks for your comment. I’m so sorry for your unpleasant situation. I’d like to be some help of you indeed, but I don’t think it’s appropriate to make a specific suggestion here. I’m not familiar enough with your history of the present illness, clinical data and your past medical history, which are crucial to make a valid clinical decision. I’m afraid that you’ll be confused if you seek a suggestion from someone without the complete recognition of your medical history and clinical data. I understand that you are reluctant to start another regimen of vancocin because you’re somewhat asymptomatic. I expect that you can get some benefits from probiotics, but they’re not likely to eradicate C.diff. I recommend you to discuss this issue with your doctor again. I’ll show you below some tips for the management of recurrent C.diff associated disease. I hope they help you when seeing the doctor. All of them are cited from the article “Clostridium difficile — More Difficult Than Ever”, which were published on Oct 30, 2008 in the New England Journal of Medicine.

Not all patients in whom recurrent diarrhea develops when they stop taking metronidazole or vancomycin have recurrent C. difficile infection. Other conditions, such as postinfectious irritable bowel syndrome, microscopic colitis, and inflammatory bowel disease, may be responsible.
A positive toxin assay in a patient with minimal or no symptoms should not prompt treatment. Repeated stool assays are not recommended after therapy, except in patients with moderate or severe diarrhea.
In patients with persistent diarrhea despite several weeks of treatment with metronidazole or vancomycin, another cause should be sought, since C. difficile is rarely if ever resistant to metronidazole or vancomycin.

Good luck!

by vril (2012-02-29 18:14) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。