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重症敗血症における栄養管理 [critical care]

Critical Care Medicine 2008年6月号より

Current practice in nutritional support and its association with mortality in septic patients-Results from a national, prospective, multicenter study .

敗血症または敗血症性ショック患者の消化管機能は低下していることが多く、腸管粘膜透過性の亢進や蠕動低下が認められる。経腸栄養によって消化管を刺激すると、腸管機能が維持されトランスロケーションが防がれる。その結果、感染性合併症発生の抑制および入院期間の短縮などの効果が得られるとされている。実際の臨床現場では、ICUの規模や国によって栄養管理の方法は大きく異なっていて、相当数の患者において適切な栄養管理が行われていないことが明らかにされている。重症患者の栄養管理に関するガイドラインでは経静脈栄養よりも経腸栄養が望ましいと推奨されている。経腸栄養の積極的な実施によって十分な栄養管理が可能となり、かつ患者の転帰が改善するという効果が得られている。しかし、重症患者の栄養管理については、栄養投与経路が死亡率に与える影響および重症患者のうち特定の疾患サブグループについての栄養管理法についての二点について議論が続いている。SimpsonとDoigらのメタ分析では、経腸栄養が早期に開始されると、開始時期が遅れる場合と比べ死亡率が低下する(OR, 0.29; 95%CI, 0.12-0.70; P=0.006)と報告されている。しかし経静脈栄養と早期経腸栄養の比較では経腸栄養による死亡率低下効果は認められなかった(OR, 1.07; 95%CI, 0.39-2.95; P=0.89)。またPeterらのメタ分析では経腸栄養では経静脈栄養よりも合併症が減少するが、死亡率には差がないという結果が得られている。以上二編の研究では、対象患者は特定のサブグループに特化したものではない。本研究では重症敗血症または敗血症性ショック患者を対象として栄養管理法による死亡率の変化を前向きに調査した。

本研究はGerman Competence Network Sepsis(SepNet)が実施した。参加施設のICUに午前6時に収容されている患者全員について感染、SIRS、敗血症性ショックの有無を調べた。重症敗血症または敗血症性ショックのある患者については人口統計学的データ、主診断名、基礎疾患、重症度(APACHEⅡスコア、SOFAスコア)、検査、治療および栄養管理法について記録した。ICU滞在期間および入院期間、院内死亡率について三ヶ月後に追跡調査を行った。大学病院以外の病院ではベッド数200床以下、201-400床、401-600床、601床以上に分け、これに大学病院を加えた計5層についてデータを解析した。

310の病院に設置された454ヶ所のICUにおいて3877名の患者がスクリーニングされた。このうち415名が重症敗血症または敗血症性ショック患者であった。栄養管理のデータが得られたのは415名中399名であった。栄養管理法は病院の規模による有意な差異が認められた(P=0.0006)。経腸栄養と経静脈栄養の併用による栄養管理が他の層より多かったのは大学病院(37.7%)とベッド数201-400床の病院(18.8%)であった。経静脈栄養が他の層より多く行われていたのはベッド数201-400床の病院(30.7%)とベッド数600床以上の病院(30.0%)であった。全体で20.1%の患者に経腸栄養が行われていた。経静脈栄養のみで栄養管理が行われていたのは35.1%であった。経腸栄養と経静脈栄養の併用による栄養管理が行われていたのは34.6%、栄養管理が一切行われていなかったのは10.3%であった。経腸経静脈併用による栄養管理が行われた患者群では入院期間が有意に長かった(P=0.0147)。免疫強化栄養法や経静脈的グルタミンまたはセレン補充が実施された患者は比較的少数であった(それぞれ3.9%、4.3%、9.9%)。経腸栄養主体の栄養管理が忌避される因子は、人工呼吸管理の実施(OR 0.48)、消化管または腹腔内疾患(OR 0.24)、敗血症性ショック(0.31)であった。全体の院内死亡率は55.2%であった。経静脈栄養主体の栄養管理が行われていた患者の死亡率(62.3%)は、経腸経静脈併用による栄養管理(57.1%)または経腸栄養主体の栄養管理(38.9%)が行われていた患者の死亡率より有意に高かった(P=0.005)。多変量解析では、経静脈栄養は死亡の有意な独立予測因子であった(OR, 2.09; 95%CI, 1.29-3.37)。また、APACHEⅡスコア(OR, 1.05; 95%CI, 1.02-1.09)および腎機能障害(OR, 2.07; 95%CI, 1.30-3.31)も死亡の有意な独立予測因子であった。

重症敗血症または敗血症性ショック患者における栄養管理法についてのはじめてのデータが今回の研究で示された。敗血症患者では経静脈栄養が主体または併用の栄養管理が行われることが多いが、病院の規模によってその頻度は大きく異なることが分かった。人工呼吸中、消化管または腹腔内感染、膵炎、消化管癌あるいは敗血症性ショックが存在する敗血症患者では経腸栄養が行われる頻度が低く、経静脈栄養が行われると死亡率が高いことが明らかになった。欧州35ヶ国を対象とした質問票調査では、経腸栄養を主に行うという回答が33%-92%で得られ、経静脈栄養主体が19%-71%、両者併用を主体とするのは4%-52%であった。カナダでは44.6%の患者において経腸栄養主体の管理が行われ、大規模ICUおよび大学病院ほど経腸栄養実施率が高い。一方、今回の調査が行われたドイツでは600床以上の病院および大学病院から得られた患者が半数を占めたが、経静脈栄養主体の管理が行われていた症例が全体の35.1%を占めた(経腸20.1%、併用34.6%、なし10.3%)。ICUの種別(外科系、内科系、混合)やICUの規模と栄養管理法のあいだに相関は認められなかった。今回の研究で経腸栄養実施率が低かったのは、対象患者を敗血症および敗血症性ショックに限定したことが一因であると考えられる。敗血症症例における経腸栄養の推奨度は低い(グレードC/E)。このため栄養管理法がばらついているのではないかと考えられる。De Jongheらは集中治療の治療強度が高いほど経静脈栄養の実施率が低く、血管作動薬が使用されていると経静脈栄養が実施されないことを明らかにした。つまり、重症度が高いほど、栄養管理には注意が払われない傾向があるということを意味する。今回の研究では敗血症性ショック症例では経腸栄養実施率が低かったが、APACHEⅡスコアおよびSOFAスコアと経腸栄養実施率には相関は認められなかった。重症患者ではさまざまな要因により経腸栄養による十分な栄養投与が困難であることが多く、その場合は経静脈栄養が選択肢となる。しかし、経腸栄養が円滑に行えるようあらゆる努力を傾けてもなお十分な栄養を投与できない場合にのみ経静脈栄養を開始すべきであるとされている。Artinianらは内科系ICU患者を対象に経腸栄養開始時期を早期と晩期に分け、転帰を比較した。早期に経腸栄養が開始される患者は重症度が低いという傾向が認められた。そのため、栄養管理法は重症度を反映する項目であるに過ぎず、転帰に関わる因子ではないのではないかという疑問が生じてくる。しかし、解析の結果、早期経腸栄養開始によってICUおよび院内死亡率が低下し、特に重症度の高い患者群でその傾向が強いことが分かった。今回の研究では多変量解析を行い、年齢、APACHEⅡスコア、敗血症性ショック、腎機能障害、人工呼吸、インスリン投与量、血糖値について調整し栄養投与経路と死亡率の関係を解析した。その結果、経静脈栄養そのものが死亡の独立予測因子であることが分かった。最高血糖値およびインスリン投与量は、本研究では死亡との関わりを認めなかった。今回の研究の問題点は、投与カロリー、使用された栄養剤の組成、敗血症罹患前の栄養状態、栄養管理開始時期などについての詳細な情報が欠けていることである。本研究は観測研究であるため、重症敗血症または敗血症性ショック症例において経静脈栄養が本当に死亡率上昇につながるか否かについては、以上の結果からは決定的な結論を導くことはできない。今後の無作為化比較対照試験の実施が待たれる。

教訓 重症敗血症では経腸栄養を早期に開始する方が予後が改善するようです。ただし、決定的な結論を得るにはRCTを実施する必要があります。この研究では血糖値と死亡率の相関はありませんでした。

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