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静脈血栓塞栓症と妊娠~予防と治療② [anesthesiology]

NEJM 2008年11月6日号より

Venous Thromboembolic Disease and Pregnancy

妊娠後期および分娩中の肺塞栓の管理
妊娠後期に肺塞栓が発生したら、酸素投与(酸素飽和度>95%を維持)とヘパリン静注を実施し、ハイリスク分娩に対応できる大病院に患者を転送する。血行動態が安定している場合は、確定診断に至れば一時的下大静脈フィルタを留置する。陣痛発来または帝王切開後ただちにヘパリン投与を中止する(必要であればプロタミンで拮抗する)。完全に抗凝固が効いている場合は帝王切開を行ってはならない。満期または胎児の状態から帝王切開を行わなければならない時期に広範な肺塞栓が発生した場合の対応は困難であり、産科医、集中治療医、胸部外科医、麻酔科医およびインターベンション専門放射線科医が協力して治療に当たらなければならない。帝王切開後人工心肺を使用して外科的に血栓を除去したり、経皮的に血栓を破砕し下大静脈フィルタを留置したりする。分娩中の血栓溶解療法は禁忌とされているが、転帰が良好であったとする分娩中血栓溶解実施例の報告が複数発表されている。

妊娠中および産褥期の血栓予防
血栓塞栓症の既往がある女性は、既往のない女性と比べ妊娠中に血栓塞栓症が再発するリスクが高い。産褥期にはさらに再発リスクが上昇する。静脈血栓塞栓症の既往のある女性には、産前産後を通じて弾性ストッキングの着用が推奨されている。さらに、既往のある女性に対しては分娩後少なくとも6週間は低分子ヘパリンまたはワーファリンを投与すべきである。アスピリンは血栓予防目的での投与は推奨されない。分娩前の抗凝固薬物療法については賛否両論があり、患者一人一人について利害得失を評価すべきである。二回以上の静脈血栓塞栓症の既往がある患者および血栓性素因のある患者(例, アンチトロンビン欠乏症、抗リン脂質抗体症候群、プロトロンビンG20210A変異、第Ⅴ因子Leiden変異)では妊娠中の抗凝固療法を行うべきである。妊娠と関係のない血栓塞栓症の既往があり、血栓塞栓症の発症原因が解決している患者では、血栓性素因がなければ抗凝固療法を実施する必要はないと考えられる。静脈血栓塞栓症が一回だけ発生し血栓性素因のリスクが低い妊婦では妊娠中の血栓予防は任意であるが、血栓予防を行わない場合は妊娠全期を通して注意深い経過観察を行わなければならない。病的肥満(BMI>40)および寝たきりの妊婦でも血栓予防を実施するのが望ましいと考えられる。

分娩前の予防的低分子ヘパリン投与量
           <50kg           50-90kg          >90kg
エノキサパリン   毎日20mg       毎日40mg      12時間ごと40mg
ダルテパリン    毎日2500単位     毎日5000単位   12時間ごと5000単位
ティンザパリン   毎日3500単位     毎日4500単位     12時間ごと4500単位

超高リスク
エノキサパリン 12時間ごと0.5-1.0mg/kg
ダルテパリン  12時間ごと50-100単位/kg
ティンザパリン 12時間ごと4500単位

帝王切開後の血栓予防
帝王切開後の静脈血栓塞栓症は稀であるが、もし発生すれば重症化し死に至る可能性がある。肺塞栓発生頻度は帝王切開後の方が経膣分娩後より2.5-20倍高く、致死的肺塞栓の発生頻度は帝王切開後の方が10倍高い。UKのConfidential Enquiry into Maternal Deathによれば、静脈血栓塞栓症を原因とする分娩後死亡の四分の三以上は帝王切開に関連している。中~高リスクの一般内科、泌尿器科、婦人科手術においては血栓予防法によって術後の静脈血栓塞栓症発生数が相当減少することが精度の高い無作為化比較対照試験で確認されているが、帝王切開に関しては同様の研究は行われていない。The Royal College of Obstetricians and GynaecologistsとThe American College of Chest Physiciansが提唱している帝王切開後の血栓予防法を以下に示す。帝王切開後の血栓予防法実施期間についての研究は実施されていない。分娩前後の深部静脈血栓症の発症頻度が最も高いのは分娩後の一週間である。血栓予防法実施期間は、各患者のリスク評価に基づき決定するが、高危険群では最長6週後まで低分子ヘパリン投与および弾性ストッキング着用を継続する。

低リスク:早期離床
 正常妊娠で特に危険因子のない帝王切開
中リスク:低分子ヘパリンまたは弾性ストッキング
 年齢>35歳、肥満(BMI>30)、出産回数>3回、著明な静脈瘤、子癇前症、術前に4日を超すベッド上安静、最近の重篤な疾患、分娩開始後の緊急帝王切開
高リスク:低分子ヘパリンおよび弾性ストッキング
 3つ以上の中等度危険因子、帝王切開+子宮全摘、最近の深部静脈血栓症、血栓性素因

教訓 肺塞栓発生頻度は帝王切開後の方が経膣分娩後より高く、致死的肺塞栓は帝王切開後の方が10倍多いそうです。

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