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静脈血栓塞栓症と妊娠~予防と治療① [anesthesiology]

NEJM 2008年11月6日号より

Venous Thromboembolic Disease and Pregnancy

妊娠中の血栓塞栓症の管理
ワーファリンは胎盤を通過し胎児に悪影響を及ぼすおそれがあるため、妊娠中の静脈血栓塞栓症の治療および予防には未分画ヘパリンまたは低分子ヘパリンが使用される。妊娠6週から9週にワーファリンに曝露された胎児の5%に、鼻形成不全、点状軟骨異形成症、側彎、近位四肢の短肢症、短指症などの奇形が発生する。妊娠中期および妊娠後期の初期にワーファリンを使用すると、胎児に頭蓋内出血や裂脳症が起こる。未分画ヘパリンも低分子ヘパリンも胎盤を通過しないため、奇形や胎児の出血性合併症が起こる可能性はない。妊娠中および産褥期の抗凝固療法の標準的薬剤は長年にわたり未分画ヘパリンであったが、最近では低分子ヘパリンが推奨されている。低分子ヘパリンの利点は、出血の危険性が低いこと、薬物動態が予測可能であるためモニタリングが不要で体重から投与量を決定することができること、HIT(ヘパリン起因性血小板減少症)やヘパリンによる骨粗鬆症のリスクが低いことである。腓腹静脈のみの血栓症の管理については諸説あり、ガイドラインは確立されていない。しかし、腸骨大腿静脈系の血栓は大部分が腓腹静脈から発生するため、症状がある患者においては低分子ヘパリンの使用が望ましい。抗凝固療法が禁忌である患者や、分娩まで2週間以内の期間に重度の静脈血栓塞栓症が発生した場合にのみ下大静脈フィルタの使用を考慮する。非妊婦の静脈血栓塞栓症では、低分子ヘパリンを一日一回投与することが多い。妊婦では腎排泄能が亢進しているため、低分子ヘパリンの半減期が短縮している。そのため、妊娠時は一日二回投与が推奨されている。しかし、利便性の問題から実際に広く行われているのは、一日一回投与である。大多数の患者では抗第Ⅹa因子活性のモニタリングを行って投与量を調節する必要はないが、過体重や低体重、腎機能低下がある場合はモニタリングをして投与量を決定する。妊婦に対するフォンダパリヌクス(合成ペンタサッカライド。第Ⅹa因子を直接阻害する作用がある。)の使用例はまだ少ないが、複数の低分子ヘパリンに過敏反応を示す場合は安全な代替薬として使用できる可能性がある。フォンダパリヌクスはin vitroでは胎盤通過性は確認されていないが、in vivoでは胎盤通過性がある可能性が指摘されている。FDAはフォンダパリヌクスを妊娠カテゴリーB(動物実験では胎児に対するリスクが確認されていないが、妊婦を対象とした適切な比較対照試験のデータがない。または、動物実験で有害作用が確認されているが、妊婦を対象とした比較対照試験ではリスクの存在が確認されていない。)に分類している。ベッド上安静は深部静脈血栓症患者に対してはphlegmasiaを来していない限り一般には推奨されない。


分娩時の抗凝固療法
妊娠後期はいつ何時陣痛が発来するか分からず、経膣分娩でも帝王切開でも相応の出血があり、またどちらも区域麻酔下に行われることが多いため、抗凝固療法の実施には困難がつきまとう。完全に抗凝固が行われている患者に陣痛が自然発来した場合は、区域麻酔は禁忌である。分娩誘発または予定帝王切開を実施すればこの問題は解決できる。American Society of Regional Anesthesia and Pain Medicineのガイドラインでは、低分子ヘパリンの予防的投与の12時間後、治療的投与の24時間後以降には脊髄クモ膜下麻酔を実施してもよいとされている。未分画ヘパリンを静注している患者に伝達麻酔を実施する場合は、6時間前には未分画ヘパリンを中止し、APTTが正常化していることを確認しなければならない。低分子ヘパリンを使用している場合、陣痛が発来したら使用を中止する。低分子ヘパリンは未分画ヘパリンのように速やかに拮抗できないため、帝王切開の可能性が比較的高いことや、陣痛発来時期の予測が困難なことから、妊娠の最後まで低分子ヘパリンを使用することを躊躇する産科医が多い。したがって、妊娠最終の二、三週間は未分画ヘパリンの皮下注に切り替えられることが多い。ただし、この方法の有効性は臨床試験で確認されているわけではない。妊娠後期に未分画ヘパリンを皮下注した場合、薬物動態の予測は不可能であり、APTTの測定を繰り返し、投与量をきめ細かく調節する必要がある。さらに、一般的に広まっている信憑に反し、皮下注未分画ヘパリンと低分子ヘパリンの薬物動態はほとんど同じである。したがって、妊娠後期に未分画ヘパリンの皮下注に切り替える方法の利点は限られていると考えられる。低分子ヘパリンの投与は、産後出血が続いていなければ分娩後12時間以内に再開してもよい。硬膜外カテーテル抜去後少なくとも12時間は低分子ヘパリンの予防的投与は見合わせるべきである。低分子ヘパリンの治療的投与は、術後または分娩後24時間または止血が完成していない場合は実施すべきではない。分娩後少なくとも6週間は、低分子ヘパリンまたはワーファリンによる抗凝固療法を行う。治療終了前には、血栓症のリスクを評価する。深部静脈血栓症発症後、60%の患者において血栓後症候群(静脈弁破壊により静脈圧・毛細血管圧が上昇し、うっ血性皮膚炎・静脈性潰瘍を生じる)が発生する。弾性ストッキングの使用によって血栓後症候群の発生が半減するため、深部静脈血栓症発症後最長2年間は患肢に弾性ストッキングを装着すべきである。

血栓溶解療法
妊娠中の血栓溶解療法の実施例は少ない。循環動態が不安定になるほどの重症肺塞栓症例では、血栓溶解療法によって救命できる可能性がある。血栓溶解剤の使用は、胎盤早期剥離につながる可能性が憂慮されているが、そのような報告はいまのところ存在しない。帝王切開または分娩後10日以内の血栓溶解療法は禁忌であるが、経膣分娩1時間後および帝王切開12時間後の血栓溶解療法成功例が報告されている。(つづく)

教訓 ワーファリンは胎盤通過性があり胎児毒性があるため、妊娠中は禁忌です。

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