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静脈血栓塞栓症と妊娠~診断 [anesthesiology]

NEJM 2008年11月6日号より

Venous Thromboembolic Disease and Pregnancy

静脈血栓塞栓症は、肺塞栓と深部静脈血栓症を引き起こす疾患である。何らかの基礎疾患に続発したものではない肺塞栓の約30%には無症状の深部静脈血栓症が関与している。有症状の深部静脈血栓症のうち40-50%には症状を伴わない肺塞栓が認められる。妊娠中は非妊時と比べ静脈血栓塞栓症の発生頻度が高い。また、妊娠中の静脈血栓塞栓症の診断は非妊時より困難である。妊娠中の静脈血栓塞栓症発生件数は、妊娠1000例につき0.76-1.72件と推計されており、これは非妊婦の4倍の発生頻度にあたる。静脈血栓塞栓症の発生頻度は妊娠全期を通じてほぼ一定であるが、肺塞栓の43-60%は産褥期に発生する。先進国では母体死因の首位は肺塞栓である。米国および欧州では肺塞栓による母体死亡発生頻度は分娩10万件あたり1.1-1.5件と見積もられている。静脈血栓塞栓症による母体死亡の原因の多くは、診断や治療開始が遅れたり、適切な治療が行われなかったり、適切な静脈血栓症予防法が行われなかったことであると報告されている。非妊時における静脈血栓塞栓症の管理法は確立している。しかし妊婦における静脈血栓塞栓症治療に関する勧告の多くは妊婦を対象とした良質なデータに基づいたものではない。

静脈血栓塞栓症の危険因子
妊娠中は過凝固状態になる。妊娠時に認められる凝固線溶系の変化は、フィブリン生成増加、線溶系活性の低下、第Ⅱ、Ⅶ、Ⅷ、Ⅹ因子の増加、プロテインS低下、活性化プロテインC抵抗性である。妊娠中はプロトロンビンフラグメントF1+2、D-ダイマーなどの凝固活性を示すマーカが上昇する。また、妊娠25-29週頃から分娩6週後までにかけては下肢の静脈血流速が非妊時のほぼ半分に低下する。先天性血栓性素因、抗リン脂質抗体症候群、血栓症の既往などがあれば、妊娠中から分娩後にかけての静脈血栓塞栓症発生リスクはさらに上昇する。その他の危険因子として、黒人、心疾患、鎌状赤血球症、糖尿病、SLE、喫煙、多胎妊娠、35歳以上、肥満、帝王切開(特に分娩開始後の緊急帝切)が挙げられる。深部静脈血栓症のうち約70-90%は左下肢に発生する(左腸骨静脈は右腸骨動脈と交差し圧迫されているため)。静脈圧迫法による超音波検査では、左腸骨静脈の深部静脈血栓症の診断精度が高くない。左腸骨静脈血栓症の症状には、腹痛、背部痛(腰痛)、下肢全体の腫れなどがあるが、症状も理学的所見も認められないこともある。

先天性血栓性素因と静脈血栓塞栓症
妊婦の静脈血栓塞栓症の少なくとも50%には先天性または後天性血栓性素因が関与していると考えられる。西側諸国では人口の15%に先天性血栓性素因がある。しかし、妊婦のうちわずか0.1%にしか静脈血栓塞栓症は発生しない。したがって、妊娠で過凝固状態が存在していても、血栓性素因が即、血栓性イベント発生につながるわけではない。したがって、妊婦全員を対象とした血栓性素因のスクリーニング検査の費用対効果は低い。妊娠中に急性静脈血栓塞栓症に罹患した患者においても血栓性素因のスクリーニング検査はあまり有用ではない。なぜなら、血栓性素因のスクリーニング検査を行っても結果次第でその時点における治療法が変わるわけではないからである。しかし、急性静脈血栓塞栓症を発症した妊婦では、妊娠が終了し抗凝固療法を中止した時点で血栓性素因のスクリーニングを考慮すべきである。その結果に応じて次回以降の妊娠中の管理を行わなければならない。

血栓塞栓症の診断
静脈血栓塞栓症の診断は、臨床所見を基にまず疑うことが重要である。しかし、深部静脈血栓症および肺塞栓の典型的な徴候および症状、つまり、下肢の腫脹、頻脈、頻呼吸および呼吸困難感は正常妊娠でも認められることがある。妊娠中の肺塞栓を予測する方法は確立されていない。妊娠中に肺塞栓を疑われた患者のうち、実際に血栓塞栓症の確定診断に至るのは10%未満である。非妊婦では約25%であるのと対照的である。しかし、静脈血栓塞栓症を疑わせるような症状を呈する妊婦の突然死は珍しくはないため、妊婦がそのような症状を示す場合は速やかに検査を実施すべきである。検査で静脈血栓塞栓症が否定されるまでは、絶対禁忌でない限り低分子ヘパリンまたは未分画ヘパリンによる治療が推奨される。一般人口においては、静脈圧迫超音波検査による有症状の近位深部静脈血栓症診断の感度は97%、特異度は94%である。この検査法はリスクがないため静脈血栓塞栓症が疑われる妊婦でも適応がある。静脈圧迫法による超音波検査では、腓腹静脈および腸骨静脈の診断精度は劣る。MRIで血栓を直接描出する方法は、放射線被曝がないため胎児に害がない上に、腸骨静脈血栓症の診断感度および特異度が高い。MRIを実施できない場合は、超音波パルスドップラー法やCTが腸骨静脈血栓症の診断に用いられる。ただし、CTでは放射線被曝があるため胎児に有害である可能性がある。正常妊娠中は妊娠が進行するにつれてDダイマーが上昇する。Dダイマー値の評価は他の検査結果と併せて行うべきである。妊娠初期および中期に精度の高いDダイマー検査で上昇が認められなければ、陰性的中率は100%であると報告されている。上昇している場合の感度は100%、特異度は60%である。静脈圧迫法による超音波検査が正常である場合に、Dダイマーの上昇が認められなければ静脈血栓塞栓症の可能性は非常に低く、Dダイマーが上昇していれば他の追加検査を行わなければならない。
肺塞栓が疑われる患者で、静脈圧迫法による超音波検査が正常の場合は他の画像診断法を追加しなければならない。胸部単純X線写真は必ず撮影すべきである。換気-血流スキャンまたはCT肺血管造影(CTPA)も実施すべきである。換気-血流スキャンはCTPAよりも胎児被爆量が多い(640-800μGy vs 3-131μGy)。しかし、母体に対してはCTPAの方がシンチよりも被爆量が多い(2.2-6.0mSv vs 1.4mSv)。したがって、検査に先立ち母親には、換気-血流スキャンはCTPAよりも小児癌発生リスクが高く(28万件につき1件 vs 100万件につき1件未満)、母体の乳癌発生リスクは低い(CTPAの方がシンチより13%リスクが高い)ことを説明しなければならない。(つづく)

教訓 シンチはCTより小児癌リスクが高く、CTはシンチより乳癌(母体)リスクが高いそうです。

コメント(4) 

コメント 4

ぶりぶり

背景が変わりましたね。
血栓の話題ということで、背景色も血栓色ですね。
by ぶりぶり (2008-12-01 07:35) 

vril

私の住む地域ではようやく冬の訪れが感じられるようになりました。10日ほど前から晴れていると通勤途中に遠くの山々が冠雪しているのが見えます。

それでデザインを変えてみたのですが、背景の少し赤みがかったダークブラウンから血栓を連想するとは、ぶりぶりさんは仕事熱心なんですね。職場でコーヒー係を拝命している不肖私、この色から超高級コーヒー豆Kopi Luwakを連想しました。映画「かもめ食堂」、「最高の人生の見つけ方」にこのコーヒー豆が登場します。ぶりぶりさんには「最高の人生の見つけ方」をおすすめします。
http://wwws.warnerbros.co.jp/bucketlist/
by vril (2008-12-01 09:25) 

ぶりぶり

いくら名前を「ぶりぶり」としたからといって、わたしは「うんこ」は飲みません。
by ぶりぶり (2008-12-01 10:13) 

vril

何事も試してみるのはいいものですよ。気力と体力が充実していればpoo-pooを飲んでも大丈夫です。Kopi Luwakはリッツカールトンのラウンジで召し上がることができます。日本語のスノッブじゃなくて英語で言うsnobな気分がしてきますよ。

私は気力にも体力にも自信はありますが、かわいこぶって紅茶にしておきます。

by vril (2008-12-01 14:45) 

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