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肺炎徴候のない緑膿菌感染は死亡率が高い [critical care]

Critical Care Medicine 2008年9月号より

Increased mortality of ventilated patients with endotracheal Pseudomonas aeruginosa without clinical signs of infection .

肺炎の症状や徴候のない患者の気道に多量の病原菌が存在する可能性は、明らかにはされていない。また病原菌の量が多いほど死亡率が上昇するのかどうかも分かっていない。VAP(人工呼吸器関連肺炎)の症状および徴候のない患者を含めた全ての人工呼吸管理症例について緑膿菌の定量を行った研究が行われたことはない。本研究では新たな緑膿菌感染を起こした成人人工呼吸症例を対象とし、緑膿菌量が多いほど転帰が悪化するという仮説を検証するため、臨床症状および徴候と無関係にICUに入室し人工呼吸管理が行われている患者から気管内採痰を毎日行い、緑膿菌を目標に培養検査を実施した。緑膿菌が培養された場合は、Ⅲ型毒素分泌系の特異的物質(ExoU、ExoSおよびPcrV)分泌能についても調べた。Ⅲ型毒素、特にExoUを分泌する緑膿菌株が検出される患者は、感染がより重症で死亡率が高いことが分かっている。Ⅲ型毒素は細菌の有する分泌装置を介してマクロファージを含む宿主の細胞に直接注入され、宿主の防御機構を壊滅または失調させる。

UCSFのICUに2002年10月から2006年4月の42ヶ月間に入室した48時間以上の人工呼吸管理症例(18歳以上)について前向き調査を行った。気管内採痰を毎日実施し、培養の結果新たに緑膿菌が検出された症例を対象とした。ICU入室時に気管切開されている、長期人工呼吸器管理が行われている、気管支拡張症または嚢胞性線維症、以前に緑膿菌が検出されたことがあるもしくは気管挿管前にすでに肺炎になっている場合のいずれかに合致する患者は除外した。細菌数が100万CFU/mL以上の場合を多量、未満の場合を少量とした。人工呼吸開始2日後以降に発生した下気道感染症をVAPと定義した。VAPの診断基準は胸部X線写真上で新たなまたは進行性の浸潤影があり、かつ、以下の三項目のうち二項目以上を満たす場合とした。:(1)体温>38度または<36度 (2)白血球数>12000または<4000 (3)膿性痰があり気管内採痰で100万CFU/mL以上またはBALで1万CFU/mL以上の細菌が培養される

3.5年間に1901名の患者のスクリーニング調査を行った。216名に気管内採痰培養で緑膿菌が検出された。147名が除外され、研究の対象となった新たな緑膿菌感染患者は69名であった。そのうち27名において登録48時間以内に多量の緑膿菌が検出された。登録48時間以内に少量の緑膿菌が検出された42名のうち18名において、登録から平均4日以内に多量の緑膿菌が検出された。したがって69名中45名(65.2%)に多量の緑膿菌が認められたことになる。登録後28日目までに、多量の緑膿菌がみとめられた患者のうち21名に緑膿菌によるVAPが発症し、7名に緑膿菌とその他の菌の混合感染によるVAPが発症した。残りの17名(37.8%)は気管内採痰培養で多量の緑膿菌が検出されたにも関わらずVAP診断基準を満たさなかった。一方、少量の緑膿菌が認められた24名のうち緑膿菌以外の細菌によるVAPが発症したのは3名(12.5%)であった。対象患者69名の登録後28日死亡率は24.6%であった。死亡率が最も高かった(47.1%)のは、培養で多量の緑膿菌が検出されたにも関わらずVAPが発症しなかった17名の群であった。緑膿菌検出量が少なかった42名では死亡率は16.7%、多量の緑膿菌が検出されVAPが発症した21名では17.9%であった。登録後72時間に抗菌薬を投与されなかったのは69名中7名のみであった。多量の緑膿菌が検出された患者のうち感受性のある一剤以上の抗菌薬が投与されたのは、VAPを発症した群では46.4%、VAPを発症しなかった群では41.2%であった。多量の緑膿菌が検出されたにも関わらずVAPが発症しなかった患者では、培養で緑膿菌が検出されるに先立つ24時間以内に抗緑膿菌抗菌薬を投与された群と比べ、抗緑膿菌抗菌薬を投与されなかった群の死亡率は2倍にのぼった(29% vs 63%; P=0.32)。多量の緑膿菌が検出されVAPが発症した症例では、培養陽性以前24時間の適切な抗菌薬投与の有無と死亡率の間に相関はなかった (23% vs 15%; P>0.99)。登録時の肝硬変、敗血症、分時換気量、平均気道内圧についての調整後の多変量Cox比例ハザードモデルでは、多量の緑膿菌が検出されたにも関わらずVAPが発症しなかった群はVAPが発症した群より有意に死亡の危険性が高かった(調整ハザード比37.53; 95%CI, 3.79-371.96; P=0.002)。46名から検出された緑膿菌についてⅢ型毒素であるExoU、ExoSおよびⅢ型毒素分泌機構制御タンパクPcrVの分泌量を調査した。PcrV分泌株が最も多かったのは緑膿菌VAP患者(100%)であり、多量の緑膿菌が検出されVAPが発症しなかった患者では92.3%、少量の緑膿菌が検出された患者では68.8%であった(P=0.01)。したがって、多量の緑膿菌が検出された患者の菌株はバイオフィルムを形成するというよりも自由に動き回る傾向が強く、急激に感染を拡大するのではないかと考えられた。ExoSとExoUは各患者群で認められたがPcrVよりも分泌量が少なかった。

多量の緑膿菌が検出された症例のうち、VAP非発症群はVAP発症群と比較し死亡率が約3倍も高く、肝硬変、敗血症、分時換気量、平均気道内圧について調整すると死亡リスクはさらに高いという結果が得られた。不適切な抗菌薬投与は死亡率上昇の原因ではなかった。Ⅲ型毒素を分泌する緑膿菌は宿主の正常な免疫反応を妨害する。したがって多量の緑膿菌が検出される場合は、宿主の防御機構が適切に機能していないことを示している可能性がある。死亡症例でVAPの臨床的徴候が認められなかった理由として考えられるのは、透析や副腎皮質ステロイドで発熱が隠蔽されたこと、胸部X線写真像が輸液量や体位による影響を受けたこと、ARDS発症例では肺炎の診断が著しく困難であることなどである。広く使用されているVAP診断基準では気管内採痰で多量の緑膿菌が検出される患者の全てを感染ありとして判定することができず、また、細菌量が多い患者と少ない患者を区別することもできないことが分かった。多量の緑膿菌が肺内に存在する患者では緑膿菌により宿主の免疫が障害され死亡率が上昇すると考えられる。

教訓 人工呼吸患者では肺炎の徴候がなくても痰の中に毒性の強い緑膿菌がたくさんいることがあります。肺炎の徴候がある場合よりも死亡率が高いので、CXRがきれいだからといって油断は禁物です。

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