SSブログ

ワーファリンの緊急拮抗~治療の選択肢 [anesthesiology]

Anesthesiology 2008年11月号より

Perioperative Hemostatic Management of Patients Treated with Vitamin K Antagonists.

はじめに
先進国では血栓塞栓症予防目的でワーファリン、アセノクマロール、フルインジオンなどの経口抗凝固薬を投与されている患者が増えている。これらの薬剤はビタミンK拮抗薬(VKA)であり、第Ⅱ、Ⅶ、ⅨおよびⅩ因子、プロテインC、プロテインSのγカルボキシル化を阻害する。これらの凝固因子はγカルボキシル基がないと、陰性荷電リン脂質の表面に存在するカルシウムイオンに結合することができない。ビタミンK拮抗薬(VKA)は、人工弁、心房細動、深部静脈血栓症などの患者や脳血管障害に代表される血栓塞栓症発症リスクの高い患者に長期間投与される。ビタミンK拮抗薬には出血性合併症という副作用があるとともに、治療域が狭い。目標INRは2.0-3.0であるが、年齢、体重、食習慣、性別、人種などによりビタミンK拮抗薬(VKA)の作用発現が影響されるため、適切な治療域を維持するのが困難なことも少なくない。一年間に抗凝固療法中の患者の約1-4%に消化管出血、尿路出血などの重大な出血性合併症が認められる。頭蓋内出血の年間発生率は0.25%から1%であると報告されている。

抗凝固療法中の患者が手術を受ける場合は、術前に凝固能を正常化しなければならない。予定手術の場合はVKAを手術の約4日前に中止するとINRがほぼ正常範囲(0.8-1.2)に戻るため、出血のリスクはほとんど無視しうるほどになる。欧州で用いられているフェンプロクモンはワーファリンよりも半減期がかなり長い(160-170時間 vs 30-40時間)。したがってフェンプロクモンを投与されている患者の場合は、休薬期間を4日より延長しなければならない。血栓塞栓症発生リスク中~高の場合は、INRが正常化していれば手術2日前から術前までのヘパリン投与が推奨されている。INRが1.3-1.5の場合はワーファリンを中止する必要はない。また、ほとんどの歯科治療において経口抗凝固療法を中止する必要はない。

抗凝固療法中の患者の外傷や緊急手術の際には、術前にビタミンK依存性凝固因子を急速補充しなければならない。重症肝機能障害の患者でも凝固因子減少が認められるため、同様に凝固因子を補充する必要がある。しかし、最近の研究では、肝機能障害による凝固因子減少の場合は阻害因子も減少しているため、必ずしも凝固因子を補充しなければならないわけではないことが明らかにされている。VKA療法中の患者において、止血困難な周術期出血が発生したときは、第Ⅱ、Ⅶ、ⅨおよびⅩ因子補充による迅速な凝固能の補正が必要である。VKAを投与すると、第Ⅸ因子は正常の1-3%まで、第Ⅱ、ⅦおよびⅩ因子は正常の30-40%まで低下する。

抗凝固薬拮抗の選択肢
抗凝固薬の作用を拮抗する治療法には、ビタミンKの経口または経静脈投与、新鮮凍結血漿(FFP)、プロトロンビン複合体濃縮製剤(PCCs)、遺伝子組み替え活性型第Ⅶ因子(rFⅦa)がある。ビタミンKはVKA療法中の非緊急的な凝固能補正に用いられる。ビタミンKの作用は静注後4-6時間後、内服後少なくとも24時間後にしか発現しない。したがって、迅速なINR正常化が必要な場合はビタミンKの投与のみでは不十分である。麻酔領域ではVKAの拮抗にはFFP、PCCsまたはrFⅦaが用いられることが多い。クリオプレシピテートにはVKAに拮抗する凝固因子が含まれていないため、この場合の適応はない。

北米ではVKAの拮抗に主に使われているのはFFPである。採血後8時間以内に凍結され、使用期限は12ヶ月である。FFPの一般的な適応は特定の凝固因子製剤が入手できない場合や、特定の凝固因子製剤の投与による治療が不適切な場合である。欧州ではウイルス混入がないことを保証するため6ヶ月間の検疫期間が設けられている。米国では採血後24時間以内に凍結する24時間FFPに切り替わりつつある。24時間FFPに含まれる第Ⅷ因子は従来のFFPより減少するが、その他の凝固因子については8時間以内凍結の製剤と同等である。メチレンブルーによりウイルスを不活化した血漿製剤は、欧州の数カ国で使用されている。溶剤洗浄剤処理によりウイルスを不活化した血漿製剤もあるが、米国では使用されていない。

プロトロンビン複合体濃縮製剤(PCCs)は、第Ⅱ、Ⅶ、ⅨおよびⅩ因子を含有する製剤である(四因子の一部しか含まない製剤もある)。ビタミンK依存性凝固因子欠乏に適応のあるPCCは数少ない(Beriplex P/N, Octaplex)。この二製剤は米国では市販されていない。米国で市販されているPCC(FEIBA VH, Profilnine SD, Bebulin VH)の適応は血友病であり、主に第Ⅸ因子を含有する製剤である。したがって抗凝固薬の拮抗に用いるのは適応外使用である。PCC製造の際は必ずウイルス不活化処理(濾過、殺菌または溶剤洗浄剤処理)が行われている。さらに、大多数の製剤には凝固制御因子(プロテインC、プロテインS、プロテインZ、ATⅢまたはヘパリン)が含まれている。このため、凝固因子を増加させつつも、止血機能のバランスが維持され過凝固に陥らないようになっている。VKAの緊急拮抗の目的でPCCを投与すると、プロテインCは100%増加し、第Ⅱ、Ⅶ、ⅨおよびⅩ因子はそれぞれ85%、61%、81%、115%増加すると報告されている。同研究では、健康被験者にPCCを投与したところ、投与後5分以内にプロテインCおよびプロテインSがそれぞれ149%、59%増加するという結果が得られている。凝固制御因子によってPCCsの血栓性合併症リスクは抑えられているものの、添付文書には血栓性合併症発生リスクがあることが記載されている。活性型凝固因子を投与すると血栓性合併症および心筋梗塞が発生する可能性がある。米国で市販されているPCCのうちFEIBAは活性型第Ⅶ因子を含有する。しかし、FEIBA投与による血栓性合併症発生頻度は10万回投与につきわずか4-8件である。PCCsは粉末製剤であり冷所保存しなければならない。投与前に室温に戻し溶解する。

遺伝子組み換え活性型第Ⅶ因子は、第ⅧまたはⅨ因子に対する抗体を持つ血友病患者の止血に用いられる。しかし危機的出血における有効性についても広く研究が行われている。(つづく)

教訓 ワーファリンなどのVKAの拮抗には、プロトロンビン複合体濃縮製剤、FFP、ビタミンK、第Ⅶ因子が用いられます。日本で市販されているプロトロンビン複合体濃縮製剤には、ファイバ、プロプレックスST(ともにバクスター) などがあります。

コメント(0) 

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。