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ワーファリンの緊急拮抗~PCC vs FFP [anesthesiology]

Anesthesiology 2008年11月号より

Perioperative Hemostatic Management of Patients Treated with Vitamin K Antagonists.

治療ガイドラインと緊急時の対応
米国のガイドラインでは、危機的出血がありINRが上昇している患者における抗凝固薬の拮抗の第一選択としてPCCs(プロトロンビン濃縮製剤)が推奨されている。rFⅦaも有効である可能性があるとされている。抗凝固薬の拮抗が緊急的に必要な場合は、PCCsの投与とともに、ワーファリンおよびその誘導体を中止しビタミンKを投与(10mgをゆっくり静注)しなければならない。危機的ではないが重篤な出血がある場合も同様の治療を行うが、PCCsまたはrFⅦaの代わりにFFPを投与してもよいとされている。ヨーロッパのガイドラインでも同様の対処法が推奨されている。しかし、多くの麻酔科医は危機的出血の場合もINRを正常化する目的でFFPを投与している。米国では、FFPの適応にこのような場合の使用が含まれていることや、抗凝固薬拮抗の適応があるPCCが市販されていないことが原因であろうと考えられる。しかし、欧州では抗凝固薬拮抗の適応があるPCCが市販されているにも関わらず、医師の19%しかガイドラインに準拠した治療を行っていない(大多数はPCCsではなくFFPを使用している)。PCCsは作用発現が早いため緊急時の抗凝固薬拮抗に用いる薬剤として適している。PCCsの投与量は第Ⅸ因子の投与量に基づいて決定する。通常は常用量を特に変更することなく投与することが多い。INR 5未満の場合、500単位(約7単位/kg)の投与で迅速な補正が可能であるとされている。

凝固能のモニタリング
凝固能のモニタリングに広く用いられているのはプロトロンビン時間(PT)である。PTは外因系の凝固活性を評価する検査法である。第Ⅱ、Ⅶ、Ⅹ因子が減少すると延長する。試薬によって測定値にばらつきが生じるため、測定値を標準化したINRで表記される。PT-INRが不正確になるのは、PT測定値が不正確、国際感受性指標が不正確、測定器械の不調、ループス抗凝固因子の影響、INR 4.5以上(INR校正の閾値を外れるため)などの場合である。ワーファリン投与中の患者では抗凝固作用の評価にはPTよりも抗プロトロンビン抗体の測定の方が適しているとされている。また、PTは血漿中で生成されるトロンビンの量を反映しない。PCCとrFⅦaの比較研究では、二剤ともVKAを拮抗しPTを正常化させたが、トロンビン生成を正常化したのはPCCのみであることが分かった。他の研究でも、INRに第Ⅱ、Ⅹ因子量は反映されないことが示されており、INRが5を超えるような患者においてはINR値ではなく臨床的な判断で凝固能拮抗の程度を評価するべきであるという意見もある。以上から、INRは無謬の検査方法ではないと言える。抗凝固薬の拮抗の目的は、INRの正常化ではなく、トロンビン生成が適切に行われ凝固能が正常に発揮されるようにすることである。

プロトロンビン複合体濃縮製剤 vs 新鮮凍結血漿
緊急的に止血が必要な状況においてプロトロンビン複合体濃縮製剤(PCCs)を投与すると、抗凝固作用が強く発現している患者であっても、INRが速やかに正常化する。手術、観血的処置、活動性出血などのため抗凝固作用を緊急に拮抗しなければならない患者8名を対象とした研究では、PCC投与前に平均3.4であったINRが、PCC(中央値3600単位)投与後10分以内に、7名のINRが1.3未満、1名のINRは1.4に低下したという結果が得られている。臨床的にも効果は良好で、血栓塞栓症などの副作用も認められなかった。43名の患者を対象とした別の研究でも、PCC投与後30分以内にINRが1.3未満に低下したと報告されている。PCCsとFFPを比較した研究では、INR補正効果はPCCsの方が優れているという結果が複数の研究で得られている。たとえば、FFP 4単位を投与された患者ではINRが2.3であったが、PCC 25-50単位/kgを投与された患者では1.3であり、FFP投与群の最低INRは1.6(つまり目標値である1.5未満を達成できなかった)であったという報告がある。また、INR補正効果の発現は、PCCsの方がFFPより4~5倍早いとされている。しかし、米国ではPCCsは抗凝固薬の拮抗の適応はないのに反し、FFPには同適応がある。FFPと比較した場合のPCCsの利点の一つに、抗凝固作用を拮抗するのに必要な投与量が少ないことが挙げられる。FFPは通常およそ15mL/kgが投与されるが、出血制御が困難な場合には30mL/kg程度が投与されることもある。また、FFP 800mLを投与しても第Ⅱ、Ⅶ、ⅨおよびⅩ因子は平均9-14単位/mL程度しか増加しないことが明らかにされている。FFPと違いPCCは1-2mL/kgの投与量で抗凝固作用の拮抗が可能であるため、過剰輸液のリスクがFFPよりも低い上に、投与開始から終了までの時間も短い。さらに、PCCsは製剤を準備するのに要する時間がFFPよりも短い。PCCsの中には室温保存が可能で加温の手間がかからない製剤もあるが、FFPは加温融解するのに相当な時間を要する。PCCsは血液型と関係なく投与できるため、この点においても製剤の準備に要する時間がFFPよりも短くなる。診断からINR正常化までにかかる時間は、PCCsでは約15分であるのに対し、FFPでは1-2時間である。FFPにはウイルスまたはプリオン汚染の可能性がある。現在では、検査精度の向上やウイルス不活化技術によりこの可能性は以前よりは低いとはいえ、依然としてゼロではない。PCCsもFFPと同様に血漿から製造されるが、複数のウイルス不活化工程(製剤によって異なる)を経て製造されるため安全性はFFPより高いと考えられる。あるPCCの製造に用いられている不活化技術では、HIV、肝炎ウイルス(A,BおよびC)、HSV-1、ポリオウイルス1型、インフルエンザウイルス、パルボウイルス、ウエストナイルウイルスおよびプリオンを不活化することができる。FFPの重大な副作用の一つに輸血関連急性肺傷害(TRALI)がある。PCCsでTRALIが発症する可能性が指摘されたことはない。PCCsに関わる最大の危険性は、脳卒中、心筋梗塞、肺塞栓、DIC、深部静脈血栓症などの血栓性合併症である。最近市販されているPCCsは血栓症発生リスクを抑制するような成分(凝固阻害因子を含有、活性化因子使用の減少、各凝固因子の量が均等)に変わってきているため、以前よりも血栓性合併症発生リスクは低下している(FFPは血漿中に含まれるすべての凝固阻害因子が含まれている)。PCCsの中には、プロテインC、プロテインS、AT-Ⅲなどを含むものがあるが、含有量はいずれも示されていない。最近の研究では、製剤によって含有量が相当異なることが明らかにされている。現在までにPCCsは抗凝固薬拮抗の目的で広く使用されているが、血栓性合併症発生リスクは低いことが分かっている。健康被験者を対象とした研究では、PCC 50単位/kgを投与したところ、投与後5分以内に第Ⅱ、Ⅶ、ⅨおよびⅩ因子が62%から158%増加するものの、D-dimerの有意な上昇も血栓性合併症も認められなかったという結果が得られている。しかし、PCCs投与によって血栓性合併症が発生したという報告はある。PCCに含有される第Ⅱ因子が多いと血栓性合併症発生リスクが上昇するという指摘もある。

プロトロンビン複合体濃縮製剤 vs 遺伝子組み替え活性型第Ⅶ因子
抗凝固薬の拮抗において遺伝子組み替え活性型第Ⅶ因子(rFⅦa)が安全かつ有効であるという報告がある。米国ではrFⅦaには抗凝固薬拮抗の適応はない。欧州でも同様であろう。PCCsと同様にrFⅦaはFFPと比較し投与量が少なくて済み、製剤の準備にも時間がかからないという利点がある。PCCとrFⅦaは同等にPTを短縮するものの、PCCの方がトロンビン生成については優れているという実験結果が報告されている。PCCsの方がビタミンK依存性凝固因子をバランスよく含有しているため、rFⅦaよりも有効性が高いと考えられる。

まとめ
抗凝固薬を投与されている患者における緊急手術や術中出血の制御にはPCCsによる抗凝固作用の迅速な拮抗が不可欠である。多くの症例でこのような状況下で未だにFFPが用いられている。しかし、ガイドライン(American College of Chest Physicians)では、FFPより作用発現が早く、短時間で製剤を準備することが可能で、過剰輸液・ウイルス感染・TRALIの危険性が低いという利点があるためPCCsを抗凝固薬拮抗の第一選択として推奨している。rFⅦaも有効である可能性はあるが、現時点ではデータが不足している。今後は臨床評価が進んでいる経抗Xa剤の拮抗についても最適な方法を確立する必要がある。

教訓 ワーファリンの拮抗にはプロトロンビン複合体濃縮製剤が最適なようですが、日本ではoff-label使用になります。

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