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BMS留置後の予定手術までの待機期間 [anesthesiology]

Anesthesiology 2008年10月号より

Time and Cardiac Risk of Surgery after Bare-metal Stent Percutaneous Coronary Intervention.

ベアメタルステント(BMS)は10年以上前から使用されている。薬剤溶出ステント(DES)は米国では2003年から市販がはじまった。現在ではPCIの大部分の症例にDESが用いられているが、患者の臨床的特性によっては今でもBMSが使用される場合もある。ステント血栓症は重大な合併症である。BMSによるPCI後にはアスピリンとクロピドグレル併用による抗血小板療法が実施される。この二剤併用療法を行った場合のBMS留置 30日後のステント血栓症発生率は0.5%以下である。ステントを留置された患者のうち約5%が、PCI後1年以内に非心臓手術を受ける。抗血小板療法による周術期出血量増加リスクと、手術が招く凝固能亢進によるステント血栓症発生リスク上昇とを比較考量しなければならない。ACC-AHAガイドラインではBMS留置症例では、非心臓手術実施まで少なくとも6週間の待機期間を設けるべきであると推奨されている。本研究では、術後主要心臓合併症(major adverse cardiac events; MACEs)と出血性合併症のリスクは、BMS留置後の非心臓手術までの待機期間と相関するという仮説を検証した。

1990年1月1日から2005年1月1日までの期間にMayoクリニックでBMS留置後1年以内に非心臓手術を受けた患者899名を対象としカルテを基に調査を実施した。非心臓手術に関連したMACEs(死亡、Q波心筋梗塞、非Q波心筋梗塞、ステント血栓症、PCI再実施またはCABGを要する再狭窄)と手術による出血性合併症(血小板製剤、新鮮凍結血漿またはクリオプレシピテート投与を必要とする出血)について調べた。

BMS留置から非心臓手術実施までの待機期間中央値は64日(四分位範囲27-182日)であった。対象となった899名中47名(5.2%)に一件以上のMACEsが発生した(死亡31例、Q波心筋梗塞12例、非Q波心筋梗塞6例、ステント血栓症9例、PCI再実施またはCABGを要した再狭窄12例)。単変量解析で明らかになったMACEsと有意な相関のある因子は、急性冠症候群に対するPCI実施(P=0.013)、PCIに至るまでに発生した心原性ショック(P<0.001)、PCI不成功(P=0.002)、PCI後アスピリンまたはチエノピリジン非使用(P=0.017)、ACC-AHAによる手術リスク分類(P-0.003)、全身麻酔(P=0.046)、ステント留置から手術までの日数(P=0.003)であった。BMS留置後30日以内に非心臓手術を実施した場合のMACEs発生頻度は10.5%、31-90日後では3.8%、91日以降の非心臓手術実施例では2.8%であった。単変量解析では、BMS留置後の待機期間が短いほどMACEs発生頻度が上昇することが明らかになった(P<0.001; PCI 後91日以降に非心臓手術を行う場合と比べ、0-30日の場合のOR=4.0、31-90日の場合のOR=1.4)。年齢、全身麻酔、PCI前の心原性ショックおよびPCI成功について多変量解析を行い調整したところ、MACEs発生ORはPCI後0-30日では3.2、31-90日の場合は1.4であった。傾向スコアによる調整後のORも同様であった。赤血球以外の輸血(血小板、FFP、クリオプレシピテート)を要する外科的出血は43名(4.8%)に認められた。血小板製剤は33名に、FFPは29名に、クリオプレシピテートは5名に投与された。非心臓手術後PCI後30日以内に非心臓手術を実施した場合の出血性合併症発生頻度は6.9%、31-90日後の非心臓手術実施の場合は4.6%、91日以降の場合は3.6%であった。単変量解析では、PCI後の待機期間が長いほど出血性合併症頻度が低下する傾向が認められたが(P=0.046; 待機期間が30日延長するとOR0.90)、30日以内、31-90日後、91日以降の三群での比較では有意差は認められなかった。出血性合併症と有意な相関を持つその他の因子は、心筋梗塞の既往(P=0.016)、緊急手術(P=0.016)、手術リスク分類(P<0.001)、全身麻酔(P=0.002)であった。心筋梗塞の既往と手術リスク分類について多変量解析および傾向スコア法による調整を行ったところ、BMSを用いたPCI後の非心臓手術までの待機期間と出血性合併症発生頻度との間に有意な相関は認められなかった。

BMSを用いたPCI後は、少なくとも6週間の待機期間を設けて予定非心臓手術を実施すべであると推奨されている。6週間あればBMSの内皮化が期待できるため、ステント血栓症発生リスクが低下するという推測に基づいて、この6週間という待機期間が提唱されている。今回の研究は、BMS使用PCI後非心臓手術における周術期MACEsと出血性合併症についての最も大規模な評価研究である。本研究では、PCI後非心臓手術までの待機期間とMACEs発生頻度のあいだに明白な相関が認められた。出血性合併症に関しては待機期間との関わりは認められなかった。BMS留置後間もなく手術を行う場合、出血性合併症を懸念して抗血小板療法を中止すると、周術期ステント血栓症発生リスクが上昇する。BMS留置後の抗血小板薬二剤併用療法は、平均4週間実施される。今回の調査では、術前7日以内までの抗血小板療法の継続と虚血性または出血性合併症発生リスクのあいだに有意な相関は認められなかったが、ステントの完全の内皮化と二剤併用抗血小板療法の十分な実施のためには少なくとも90日の待機期間を設けるべきであると考えられる。二剤併用抗血小板療法実施中またはBMSを用いたPCI後90日以内に緊急手術や準緊急手術が必要になった場合は、虚血性イベントや出血性合併症が発生する危険性を念頭に注意深く対応し、術後抗血小板療法について循環器専門医に意見を求めるべきである。

BMS留置後非心臓手術を実施した場合、待機期間が短いほど心臓合併症発生頻度が高かった。BMSを用いたPCI実施後に非心臓手術を行うときは、可能であれば少なくとも90日間の待機期間を設けるべきである。出血性合併症の発生頻度と、PCI後待機期間および非心臓手術実施前7日以内の抗血小板療法実施の有無とのあいだに相関は認められなかった。

参照:DES留置後の予定手術までの待機期間

教訓 BMS後の予定手術までの待機期間は90日です。DESでは1年です。術前に抗血小板療法を実施していても出血性合併症は増えないようですが、日本でも当てはまるかどうかは分かりません。


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