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活性化プロテインCは急性肺傷害に効果なし [critical care]

American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2008年9月15日号より

Randomized Clinical Trial of Activated Protein C for the Treatment of Acute Lung Injury

ALI(急性肺傷害)およびARDSは米国で年間20万名に発症し、死亡率は25-40%にのぼる。肺傷害に有効な治療薬はまだ見つかっていない。ALIの治療法としてはじめて有効性が確認されたのは肺保護戦略(lung-protective ventilator strategy)であり、死亡率を40%から31%へと低下させるという結果が得られている。ALIの発症には凝固能亢進と炎症反応が関わっている。肺における血管外フィブリン沈着(特に肺胞におけるヒアリン膜)はALIの特徴的な病理所見である。そして、全てのALI患者において血中プロテインC欠乏が認められ、血中プロテインCが低下しているほど死亡率が高く肺以外の臓器障害発生頻度が高いことが分かっている。ALI患者の肺胞では正常な血栓溶解機構が破綻している。血中および肺水腫液中のプラスミノーゲン活性化制御因子-1(plasminogen activator inhibitor-1, PAI-1)の増加はALI患者の死亡率上昇の予測因子である。プロテインC欠乏とPAI-1増加がALIの転帰不良を示唆することから、感染性および非感染性ALIの発症において凝固機構および血栓溶解機構が重要な役割を果たしていると考えられる。活性化プロテインC(APC)は抗凝固作用と抗炎症作用を併せ持った薬剤で、Recombinant Human Activated Protein C Worldwide Evaluation in Severe Sepsis(PROWESS) trialの結果その効果が確認され、重症敗血症の治療薬として承認されている。ALI発症に凝固能亢進と炎症反応が深く関わっていることから、APCにALI治療効果があるという仮説を検証した。本研究は無作為化二重盲検偽薬対照比較phaseⅡ臨床試験である。

8ヶ所の大学病院で収容されたALI患者を対象とした。主な除外基準はALI発症後72時間以上経過、重症敗血症、外傷や肝疾患により出血リスクが高い症例とした。対象患者は無作為にAPC群(24μg/kg/hr×96時間)または偽薬群に割り当てられた。人工呼吸は肺保護戦略に基づいて実施した。当初主要転帰は死腔率と定めたが、FDA(米国食品医薬品局)から臨床的転帰をより正確に反映する項目を主要転帰とするべきであるとの強い勧告を受け、第28日までの人工呼吸器非使用日数(ventilator-free days, VFD)とした。第28日までに死亡した症例はVFDゼロとした。二次転帰項目は60日後死亡率、臓器障害のない日数(organ failure-free days)および死腔率の変化とした。

対象患者は米国に所在する8施設において2005年1月から2007年2月にかけて収集された。38名が偽薬群、37名がAPC群に割り当てられた。基準時点においてAPC群の方が死腔率が有意に大きかったが、APACHEⅡスコア、肺傷害の原因などのその他の項目については有意差は認められなかった。初日と第3日の比較で、APC群の方が血中プロテインC増加率が偽薬群より有意に高かった (P=0.002)。VFD(両群とも中央値19日)、60日後死亡率(偽薬群5/38、APC群5/37)については有意差は認められなかった。生存者のみについての比較でも、VFDおよびorgan failure-free daysについても有意差はなかった。肺傷害スコア(LIS)と基準時点における死腔率について調整を行ってもVFDの有意差は認められなかった。APCには抗凝固作用と血栓溶解促進作用があることから、APC群では死腔率が低下すると推測した。基準時点における死腔率の差を調整して比較したところ、治療開始後4日間の死腔率の変化はAPC群の方が偽薬群より有意に大きかった(P=0.02)。しかし、PaO2:FIO2およびLISの改善については偽薬群と同等であり、治療効果は認められなかった。偽薬群で7例、APC群で9例の出血性合併症が認められた。

本研究はALIに対するAPCの治療効果を検証するために行われたが、75名の患者を登録した時点で、中間解析の結果、主要転帰および60日後死亡率に有意差が認められないという理由でThe National Heart, Lung, and Blood Instituteのデータ安全性モニタリング委員会から中止を命ぜられた(当初予定患者90名)。今回の研究の特徴は、データ安全性モニタリング委員会の指示に基づき重症敗血症とAPACHEⅡスコア25点以上の患者を除外した点である。そのため対象患者の死亡率はわずか13%であった。重症敗血症とAPACHEⅡスコア25点以上の患者を除外しなかった過去の大規模ALI研究では死亡率はおよそ25%であった。今回の死亡率はAdministration of Drotrecogin Alfa in Early Stage Sepsis(ADDRESS)臨床試験におけるAPACHEⅡスコア20点以下の患者群の死亡率と同等である。本研究の問題点の第一は、偽薬群と比べAPC群の基準時点の死腔率が有意に高かったことである。しかしその他の呼吸関連パラメータ(PaO2:FIO2、pH、LIS)については差はなかった。さらに、LISおよび死腔率の差について調整した後でも、VFDの有意差は認められなかった。第二の問題点は、対象患者が少なく十分な検出力が得られなかったことである。しかし、phaseⅡ試験の主目的はさらに規模の大きいphaseⅢを行うことの妥当性を確かめることである。当初予定の90名まであと15名分のデータを収集していたとしても、結果はほとんど変わらなかったと考えられる。今回の研究では、VFD、60日後死亡率およびorgan failure-free daysについてAPC群と偽薬群のあいだに有意差は認められなかったが、本研究のような小規模phaseⅡ試験ではタイプ2エラーが生じやすいため、本研究の結果からAPCに全く効果がないと結論づけるのは早計である。PROWESS試験では重症度の低い患者ではAPCの効果は限定的であり、APACHEⅡスコア25点以上か多臓器不全のある患者においてのみ有効性が認められたという結果が得られている。またADDRESS試験(n=2640)は重症敗血症のうち重症度の低い患者を対象として行われ、APCの有効性は認められなかった。Researching Severe Sepsis and Organ Dysfunction in Children(RESOLVE)試験(n=477)では、小児を対象としてAPCの評価が行われ、同様に有効性なしという結果が報告された。我々の行った研究は小規模ではあるが結果は以上の大規模試験で得られたものと同じであり、やはりAPCは重症度の低い患者では有効性を期待しがたく、今回の結果は死亡リスクの低いALI患者ではAPCの効果はないことを示唆するものである。APCを投与すると出血性合併症のリスクが上昇する。APC投与群の重篤な出血性合併症発生率は、PROWESS試験1.7%、ADDRESS試験1.7%であった。したがって、敗血症のないALI患者におけるAPCの有効性を検証する大規模phaseⅢ試験は行うべきではない。敗血症のないALI患者の死亡率は低いため、もしこのような患者群を対象にAPCの死亡率低減効果を検証する臨床試験を実施するとすれば間違いなく必要患者数は膨大になる。敗血症性ショック症例におけるAPCの効果についてはphaseⅢ試験であるPROWESS-SHOCKが現在進行中である。

教訓 DrotAA(Xigris)にはALIに対する劇的な効果はないようです。PROWESS-SHOCKは今年3月にはじまったばかりです。2年間で1500名の患者を対象にする予定の大規模試験で、主要エンドポイントは28日後死亡率です。
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