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気管支鏡は腸管虚血を招く [critical care]

Ctitical Care Medecine 2008年9月号より

Bronchoscopy is associated with decreased mesenteric arterial flow .

気管支鏡検査(FOB)の重篤な合併症には出血、気管支攣縮、不整脈、気胸、肺炎があるがいずれも稀なものであり、比較的安全な手技であると考えられている。FOB後24時間以内に2.5%から16%の症例において発熱が認められる。FOB後の発熱の原因については菌血症やサイトカイン放出などいろいろな意見がある。FOBによって上気道細菌叢からの移行や粘膜損傷が起こり細菌が血中へ入り込むことがあると信じられているが、我々はそうではなくて消化管におけるバクテリアルトランスロケーション(BT)がFOB後の発熱の一因ではないかと考えた。動物実験ではFOB後にBTが発生することが証明されている。ヒトにおいてBTを直接的に証明する方法はないが、腸間膜の虚血再灌流傷害がBTの主因であることが示されているため、今回の研究ではFOBによる腸間膜血流の変化と虚血再灌流傷害マーカーの推移を調査した。

ルーチーン検査としてFOBが行われる患者を対象とした。体温が37.3℃を上回る、X線写真上肺炎像が認められる、HBV/HCV/HIV陽性、免疫抑制剤/副腎皮質ステロイド/抗菌薬使用中、不安定な循環動態、人工呼吸管理下およびFOB後24時間以内に退院または手術や検査が予定されている場合は除外した。橈骨動脈に留置したカテーテルからFOB前、FOB1時間後、4時間後、24時間後に血ガス、血液培養、酸化ストレスマーカーの血液検体を採取した。検査前夜から絶飲食とした。FOB実施直前に2%リドカイン4mg/kgをネブライザーで投与した。その他の前投薬や鎮静薬は使用しなかった。上腸間膜動脈(SMA)の血流変化はFOB前とFOB1時間後、4時間後、24時間後に本研究の仮説を関知しない単独の放射線科医がドップラー超音波で評価した。脂質過酸化反応のマーカーとして血清マロンジアデルヒドを測定した。好中球活性の間接的な指標として血清ミエロペルオキシダーゼを測定した。抗酸化能は赤血球還元型グルタチオンとカタラーゼ活性によって評価した。

47名の患者が2005年1月から2007年3月までに登録された。FOB後24時間以内に9名(19.1%)に発熱が認められ、全員が1-3日以内に自然に解熱した。血液培養で細菌が検出されたのは5名(10.6%)であった。そのうち3名にグラム陰性菌が認められた。発熱時に菌血症があったのは1名のみであった。FOB後、検査前と比較しPaO2は21.8±1.5%低下した。動脈圧が正常範囲内に維持されていても、SMA血流量は38.8±14.9%低下した。SMA血流量がFOB前の50%未満に低下したのは15名(31.2%)、50%-59%が10名(21.2%)、60%-69%が4名(8.5%)、70%以上に保たれていたのは1名(2.1%)であった。SMA血流量の低下と年齢、性別、診断名、FOB実施時間との間に相関は認められなかった。ミエロペルオキシダーゼとマロンジアデルヒド値はFOB 1時間後に最高値を示しその後時間経過と共に低下したが、4時間後でも高値であった。赤血球還元型グルタチオンとカタラーゼ活性はFOB 1時間後に最低値を示した。赤血球還元型グルタチオンはその後上昇したが4時間後、24時間後でも依然として低値であった。SMA血流量とPaO2の低下の度合いには有意な相関(r=0.71, P=0.0001)が認められた。SMA血流量の変化とミエロペルオキシダーゼ量および赤血球還元型グルタチオン量の変化にも有意な相関が認められた。

FOBによって腸間膜血流が減少し、その結果腸間膜虚血からBTが惹起される危険性があることが明らかになった。FOBによって腸間膜血流が低下する理由は不明だが、SMA血流量の低下とPaO2の低下が軌を一にしていることから、低酸素血症が関与している可能性が考えられる。低酸素血症に陥ると腸管などから重要臓器(心臓、脳など)へ血流が再分布すると考えられる。だが、低酸素血症と腸管血流量の変化のあいだには他の複数の要素が絡む複雑な機序が関与していると推測される。今回の調査では絶食下でのFOB後にSMA血流量が38.8%も低下し270mL/minとなり、この状態が4時間後まで続いたが、これが「異常な低下」であるのかどうかは判然としない。SMA血流量は運動のようなストレス下では、絶食中であれば32%、食後であれば22%低下し、激しい運動を行うと43%も低下することが知られているが、この変化によって腸管虚血が起こるわけではなく臨床的意義はないと考えられている。しかし、運動によるSMA血流量低下は運動中止後ただちに回復する。今回の調査ではFOB後少なくとも4時間にわたってSMA血流量が低下していた。SMA血流量が基準値の50%-70%まで低下した状態が3時間続くと腸管虚血に陥るという実験結果も報告されている。ヒトではSMA血流量が基準値の半分以下になると腸管虚血の危険性があるとされている。腸管虚血再灌流傷害によって腸管粘膜バリアの損傷が起こる。この過程には過酸化物とキサンチンオキシダーゼ反応が関与している。今回の研究では、脂質過酸化反応、好中球活性および内因性スカベンジャーの指標がいずれも有意な変化を示した。また、3例においてグラム陰性菌が検出された。以上からFOBによって腸管虚血再灌流傷害が発生したことが示唆される。

FOBによって腸間膜血流量が低下し、腸管虚血およびBTが惹起される危険性がある。したがってFOB後の菌血症やサイトカイン放出は少なくとも一部は腸管由来であると考えられる。ただし、FOB後の菌血症は大部分が一時的な現象であり治療を要する合併症として扱われる類のものではない。本研究の結果の臨床的意義は現時点では不明であるが、FOBを実施する際には念頭に置くべき知見である。

教訓 黒く光ってよくしなる鞭はあまり振り回さない方がいいようです。

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