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HIV感染患者の集中治療~治療大略 [critical care]

NEJM 2006年7月13日号より

Intensive Care of Patients with HIV Infection 

 抗レトロウイルス治療を行うと免疫機能が改善する。HIV感染後長期間が経過している症例では、抗レトロウイルス治療は免疫能改善による日和見感染症および悪性腫瘍罹患の発生頻度減少につながる。また、進行性多巣性白質脳症などのHIVに伴う特有疾患の治療においても他に有効な治療法がないことから抗レトロウイルス治療の実施が重要である。抗レトロウイルス治療によってHIVに感染している重症患者の合併症および死亡率を減少させうる。以前の薬剤と比べ毒性の低い新しい抗レトロウイルス治療薬およびより安全な多剤併用療法が開発された結果、ICUにおける抗レトロウイルス治療実施の是非に関する議論がますます白熱している。すでに抗レトロウイルス治療を行われている患者においては治療を中止することによって耐性ウイルスが選択され、治療再開時にそれまでの抗レトロウイルス治療法が無効となるおそれがある。特にefavirenzもしくはnevirapineを投与されている患者ではそのおそれが大きい。この二剤は他薬剤と比べ半減期が著しく長いため、抗レトロウイルス治療を中止した場合、他薬剤の血中濃度が減少しても結果的にこれらの薬剤の単剤治療を行っていることになるためである。

 ICUにおける抗レトロウイルス治療薬使用に難色を示す医師は多い。免疫再構築症候群が発生すれば、患者がさらに重症化する可能性があるためICUでの抗レトロウイルス治療開始は敬遠されている。抗レトロウイルス治療薬の薬物相互作用および毒性によって重症患者管理が一層困難になる。抗レトロウイルス治療薬の投与経路および吸収に関する問題に加え、急性多臓器不全患者に対する抗レトロウイルス治療薬投与には様々な未解明の課題が残されている。吸収不良、臓器障害および薬物相互作用によって薬物動態が変化し、血中濃度が治療域に達しなかったり、反対に治療域上限を超えて副作用が発現したりする危険性がある。

 ICUにおける抗レトロウイルス治療の方針決定の目安となるような無作為臨床研究やガイドラインは存在しない。抗レトロウイルス治療については症例ごとに検討し決定しなければならないのが現状であるとはいうものの、我々は以下の治療大略を提案する。ICU入室以前に抗レトロウイルス治療を受けていてウイルス増殖が抑制されていることが確認されている(血漿HIV RNA量が検出可能レベルを下回っている)場合は、可能であれば実施中の抗レトロウイルス治療を継続すべきである。抗レトロウイルス治療を継続する症例においては、ICUで使用する薬剤と抗レトロウイルス治療薬との相互作用などの禁忌を避けなければならない。一方、血漿HIV RNAが検出される患者においてICU入室後も抗レトロウイルス治療を継続することが有効であるのかどうかははっきりしていない。この場合はHIV専門家にコンサルトすべきである。ICUに入室するHIV感染患者の多くはICU入室以前に抗レトロウイルス治療を受けていない。ICUにおけるAIDS関連疾患に対する多剤併用抗レトロウイルス治療の効果を評価した研究は現在までに一つしかない。この遡及的研究では、サンフランシスコ総合病院のICUに入室したニューモシスティス肺炎に罹患したHIV感染患者58名を対象とし、抗レトロウイルス治療実施群は、非実施群と比べ有意に死亡率が低かったことを報告している(25% vs 63%, P=0.03)。

 AIDS関連疾患以外の疾患によるICU入室患者では抗レトロウイルス治療開始を見合わせるべきである。この患者群では、AIDS関連疾患によるICU入室患者よりも一般的に予後が良好で、短期的な転帰はAIDS以外のICU入室の原因となった疾患の治療の成否によって決まる。しかし、CD4数が200/mm3を下回る場合は日和見感染症発症の危険性が上昇することが知られているため、ICU入室期間が長期化していれば抗レトロウイルス治療開始を考慮すべきである。同時にCD4数が200/mm3を下回る患者では、最新のガイドラインで推奨されている通りに日和見感染症予防薬の投与を行う(例;ニューモシスティス肺炎予防にST合剤)。一方、AIDS関連疾患によるICU入室患者では抗レトロウイルス治療を考慮すべきである。適切なICU管理およびAIDS関連疾患の治療を行っているにも関わらず全身状態が悪化する患者においては特に積極的に抗レトロウイルス治療実施を考慮しなければならない。しかし、HIV治療薬耐性、抗レトロウイルス治療薬薬物動態、薬物相互作用および毒性など、抗レトロウイルス治療開始に先立ち勘案しなければならない重要事項がいくつもある。抗レトロウイルス治療を開始したら免疫再構築症候群の発症に留意しなければならない。

教訓 ICUにおけるHIV治療薬の投与開始、中断、続行を決めるときは耐性、薬物動態、相互作用、毒性などをよく考えなければなりません。
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