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麻酔科医と薬物依存~発生率と病因 [anesthesiology]

Anesthesiology 2008年11月号より

Addiction and Substance Abuse in Anesthesiology.

米国の麻酔科研修プログラムのうち80%が、1991年から2001年のあいだに薬物依存で働けなくなったレジデントが所属していたことがあると回答した。薬物依存の治療を行うことなく死亡した例を経験したことがあるプログラムは19%にのぼった。薬物依存の理解とともに治療技術も相当進歩を遂げてきているが、予後はあまり好転していない。麻酔科医の薬物依存においては、麻薬の使用が最も一般的である。2005年の調査では、麻酔科医の薬物依存例で用いられた薬剤は、フェンタニルとスフェンタニルが最も多かった。プロポフォール、ケタミン、チオペンタール、リドカイン、笑気、吸入麻酔薬が用いられていた例も少ないながらも存在した。麻酔科医に薬物依存が多い要因として、依存性のある薬物がいつも大量に身の回りにあること、そういった薬物を私的に流用することが比較的容易なこと、職場のストレスが大きいこと、職場での依存薬物曝露による脳の報酬回路の形成などが指摘されている。

発生率
麻酔科医の薬物依存の発生率についての正確なデータは収集されていない。医師における薬物依存の発生率は、一般人口の発生率と少なくとも同等ではあると推測されているが正確な数字は不明である。1987年の報告によれば、薬物依存のため治療を受けたレジデントのうち33.7%を麻酔科レジデントが占めていた。この当時、麻酔科レジデントは全レジデントのうちわずか4.6%に過ぎなかった。この5年後の調査では、麻酔科とその他の科の間にこのような差は認められず、むしろ救急と精神科のレジデントにおいて薬物依存が多く見られた。Alexanderらによる2000年の論文では、卒後5年間の薬物関連死リスクは麻酔科が最も高く、その後も他科と比べ高いまま推移すると報告されている。2002年のBoothらの調査では、麻酔科医の薬物依存発生率は、指導医クラスが1.0%、レジデントは1.6%であるという結果が得られている。

薬物依存の遺伝的および生化学的理論
ニコチン受容体のα4サブユニットの点変異があると、ニコチンに対する感受性が高くなる。この点変異を持つマウスは少量のニコチン投与で強化効果を示す(=少しのニコチンですぐにハマる)。薬物依存になりやすい人はこのような遺伝子的特徴を持っている可能性がある。精神に作用する薬を使っても大多数の人は薬物依存にはならないが、そうではない人もいる。薬物依存になりやすい人には、もともとそのような性質を持っていることが多い。たとえば、新奇性追求(novelty-seeking)傾向が強いとか、反社会性性格傾向である。ニコチンを含む数種の薬物依存における薬物探索行動の強化には、中脳辺縁系ドパミン経路のドパミン放出が関わっている。ヒトではムスカリン受容体M2サブタイプは記憶および認知機能に関わっている。この受容体の変異とアルコールなどの薬物依存および鬱病との関連が指摘されている。

精神科領域の基礎疾患
薬物依存患者100名のうち57名に人格障害が認められるという報告がある。1984年の調査では、薬物/アルコール依存治療施設に収容された患者の5.9%に精神疾患が認められた。したがって、精神科基礎疾患による症状を緩和するために薬物に手を出し、薬物依存になることがあると考えられている。不安およびうつ傾向であるとオピオイドに依存しやすく、注意欠陥多動性障害があるとアセトアミノフェンに依存しやすい。

曝露関連理論(Exposure-related Theories)
精神的ストレスと容易に薬物を入手できる環境が、以前考えられていたよりも薬物依存に強く関わっていることが分かってきた。薬物に対する身体依存が成立すると、脳内のGABA、ドパミン、セロトニンの量が変化し脳内報酬系が出来上がり、薬物を乱用することの危険性を合理的に判断することよりも、薬物を探し回ることを優先するようになる。少量のオピオイドでも感作が成立することが分かっている。オピオイドを投与されている患者の呼気には測定可能範囲のオピオイドが含まれている。このような形で感作された麻酔科医は、オピオイドに曝露されていないと退薬症状を感じて自分でオピオイドを投与するようになるのではないかという意見もある。しかし、脳内報酬系は患者の呼気に含まれる程度のオピオイドに曝露されたぐらいでは形成されないため、微量曝露がどのようにして自発的なオピオイド使用に移行するのかは不明である。この理論は最近登場した斬新な考え方であり、当否については今後さらに詳しい研究が必要である。(つづく)

教訓 麻酔科医の1%以上に薬物依存・乱用が発生します。オピオイドを投与すると、呼気からもオピオイドがでてきます。
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