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小児頭部外傷に低体温療法は無効 [critical care]

NEJM 2008年6月5日号より

Hypothermia Therapy after Traumatic Brain Injury in Children

小児外傷性脳損傷患者18名を対象とした約半世紀前の症例集積研究で、低体温療法によって転帰が改善する可能性があることが指摘された。小児外傷性脳損傷患者を対象とした無作為化試験は今までに二編が実施されている。二編で計96名の小児重症外傷性脳損傷患者について調査が行われ、低体温療法は安全に施行することが可能で、重篤な有害事象発生の有意な増加は認められないと報告されている。しかしこれら二編の研究は、生存率や神経学的転帰の改善については有意な効果があるという結果を示すには至らなかった。Marionらの行った単一施設における無作為化試験では、外傷性脳損傷で入院時GCSが5-7点の成人患者からなるサブグループにおいて24時間の低体温療法によって死亡、植物状態の固定、重度の障害などの不良転帰リスクが上昇するという結果が得られた。我々は以上の結果を受けて間もなく、小児を対象とした24時間低体温療法の有効性を検証する研究を開始した。本研究では、小児重症外傷性頭部外傷症例において、受傷後8時間以内に24時間低体温(32-33℃)療法を実施すると、正常体温(36.5-37.5℃)と比較し受傷6ヶ月後の不良転帰リスクが低下するという仮説を検証した。

三ヶ国17施設で調査を行った(カナダ、UK、フランス)。1-17歳の重症外傷性頭部外傷症例(事故現場または救急外来でGCS 8点以下、CTで頭部外傷の所見あり、人工呼吸を要する)を対象とした。入院時評価が一通り終了し患者の状態が安定した時点で治療群の無作為化割当を行った。年齢(7歳未満と7歳以上)と施設についての層別化を実施した。表面冷却によって低体温を導入し、食道温を24時間にわたり32.5±0.5℃に維持した。2時間で0.5℃ずつ復温した。復温後および正常体温群の体温は37±0.5℃に維持した。転帰が不良であった患者の割合を主要転帰とした。転帰不良とは、6ヶ月後における重度の後遺症、植物状態の固定または死亡と定義した。主要転帰の他に、可能であれば知能、記憶、情報処理速度を調査した。血圧、頭蓋内圧、体温管理以外の治療法、ICU滞在期間、入院期間、有害事象(低血圧、感染、出血、不整脈、電解質異常)発生頻度も記録した。

1999年2月から2004年10月までに総計1441名の重症頭部外傷患者が研究参加施設の小児ICUに収容された。そのうち327名(23%)が対象候補基準を満たし、保護者の同意が得られた225名(69%)が無作為化割当の対象となった。108名が低体温群、117名が正常体温群に割り当てられた。頭蓋内圧モニタリングが行われなかった患者は7名であった(低体温群3名、正常体温群4名)。低体温群108名のうち実際に低体温が導入されたのは102名で、割当後24時間の体温は33.1±1.2℃に維持された。受傷後6.3±2.3時間後(1.6-19.7時間後)に冷却が開始され、冷却開始後3.9±2.6時間(0.0-11.8時間)で目標体温に到達した。24時間低体温維持後に目標体温まで復温するのに要した時間は18.8±14.9時間(2.5-148.0時間)であった。正常体温群で正常体温(36.9±0.5℃)を24時間維持できたのは117名のうち114名であった。正常体温群に割り当てられた患者のうち低体温療法を行われた例はなかった。割当後24時間に高張食塩水を投与された患者は正常体温群の方が有意に多かった。低血圧のため昇圧薬を投与された患者は低体温群の方が有意に多かった(復温期)。主要転帰が判明したのは205名(91%)であった。6ヶ月後の転帰が不良であったのは、低体温群102名中32名(31%)、正常体温群103名中23名(22%)であった(低体温群の不良転帰に関する相対危険度1.41; 95%CI, 0.89-2.22; P=0.14)。 6ヶ月後転帰が不明であった20名について、低体温群が全員転帰不良、正常体温群が全員転帰良好であったとすると低体温群の方が有意に転帰が不良で(P=0.001)、低体温群が全員転帰良好、正常体温群が全員転帰不良とすると有意差は認められなかった(P=0.82)。ロジスティック回帰分析を行い小児外傷性脳損傷の転帰に関与する臨床因子について調整すると、低体温群における転帰不良についての調整オッズ比は2.33であった(95%CI, 0.92-5.93; P=0.08)。7歳以上のサブグループについての解析では、低体温群の方が転帰不良リスクが正常体温群より高かった(RR, 1.71; 95%CI, 0.96-3.06; P=0.06)。年齢を問わず頭蓋内圧が20mmHg未満であった患者群でも低体温群の方が転帰不良リスクが高かった(RR, 2.12; 95%CI, 1.07-4.19; P=0.03)。両群とも受傷後経時的にPediatric Cerebral Performance Category score(小児脳機能カテゴリースコア)は改善したが、受傷後1、3、6、12ヶ月後のスコアは正常体温群の方が低体温群より良好であったが有意差はなかった(P=0.07)。死亡したのは低体温群23名(21%)、正常体温群14名(12%)であった(低体温群の死亡に関する相対危険度1.40; 95%CI, 0.90-2.27; P=0.06)。低体温群の死亡に関する調整前のCox比例ハザード比は1.84で、小児外傷性脳損傷の転帰に関わる臨床因子調整後の死亡ハザード比は2.36であった(P=0.04)。低体温群の冷却期間中の頭蓋内圧は正常体温群よりも有意に低く、低体温群の復温期間中の頭蓋内圧は正常体温群よりも有意に高かった。心拍数は低体温群の方が有意に少なかった。低体温群復温期は正常体温群よりも低血圧発生頻度が有意に大きく、平均動脈圧および脳灌流圧が有意に低かった。生存患者についての追跡調査では、受傷後12ヶ月後の視覚長期記憶は低体温群の方が有意に劣っていた。割当後24時間の血糖値は低体温群の方が正常体温群より有意に高く (171±91.9mg/dL vs 138.7±46.8mg/dL)、血小板数が有意に少なく、乳酸値が有意に高く(11.7±7.2mg/dL vs 9.0±5.4mg/dL)、プロトロンビン時間が有意に延長していた。

小児重症頭部外傷患者に対し受傷後8時間以内に24時間低体温療法を実施しても6ヶ月後の機能転帰は改善しないことが、今回実施した多施設無作為化比較対照試験で明らかになった。低体温療法が実施された患者群の方が、死亡率が高い傾向が認められ、機能転帰、神経心理学的転帰、ICU滞在期間、入院期間および有害事象発生頻度などの副次転帰のいずれについても低体温療法の利点は見いだせなかった。今回の研究を実施している途上で、392名の成人重症外傷性脳損傷患者を対象とした低体温療法に関する論文をCliftonらが発表した。この研究では48時間低体温療法による生存率や機能的転帰の改善は得られず、むしろ重篤な低血圧などの合併症が多いという結果が報告された。成人の低体温療法に関する系統的レビュー4編のうち3編でも、外傷性脳損傷症例に対する低体温療法の有効性は認められないと結論づけられている。我々が今回行った研究の問題点の一つは、低体温導入までに6.3時間も要していることである。受傷後早期に低体温にするほうが効果があるということが動物実験では示されているが、患者搬送に要する時間や医療資源の分布などを考慮するとこれ以上短時間での低体温導入を目指すような研究の実施は困難である。また、今回の対象患者のうち比較的早期に低体温を導入された患者について解析しても、低体温療法の有効性は認められなかった。第二の問題点として、今回は成人における研究結果を基に低体温維持時間を24時間としたが、一編の系統的レビューでは48時間の低体温療法により生存率と神経学的転帰が改善すると指摘されている。第三の問題点は対象患者数が少なかったことである。一方、今回の研究の長所は、両群の頭蓋内圧制御および輸液管理に異同がなかったことと、6ヶ月後転帰が不明であった患者が全体の10%未満であったことである。

小児重症外傷性脳損傷に対する受傷後8時間以内の24時間低体温療法は無効である。より早期の低体温導入や、より長時間の低体温維持による小児重症外傷性脳損傷の転帰改善効果の有無を明らかにするにはさらに研究を実施する必要がある。

教訓 小児でも頭部外傷に対する低体温療法は実施しない方がよさそうです。

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