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敗血症と左室壁運動低下 [critical care]

Critical Care Medicine 2008年6月号より

Actual incidence of global left ventricular hypokinesia in adult septic shock.

敗血症に伴い急性心筋障害が発生することがはじめて示されたのは1984年のことである。敗血症によって心原性ショックと見紛うほどの重度の心筋障害が起こることもあるが、通常は可逆性である。一般的な敗血症性ショック治療ガイドラインでは、血管内容量の維持とドパミンやノルエピネフリンなどの血管収縮薬の使用に主眼が置かれていることが通例である。敗血症性ショックの管理における強心薬の必要性が顧慮されることは少ない。我々の施設では敗血症患者の循環管理に経食道心エコー(TEE)を使用することが慣例になっており、敗血症症例の急性左室壁運動低下の発生頻度を正確に知ることが可能であることから、3年間にわたり前向きにTEE所見を検討した。

敗血症性ショックで循環不全を呈し人工呼吸器を使用している患者全員にTEEを実施した。66%の症例において血液培養で起因菌を同定することができた。循環不全の定義は、適切な容量管理を行ったにも関わらず橈骨動脈収縮期圧が90mmHg未満の場合とした。TEEはベッドサイドでのTEEを日常的に2年間以上実施した経験のある上級医がおこなった。TEEはICU入室日(day1)、血管収縮薬投与開始から12-24時間後(day2)、血管収縮薬投与開始から48時間後(day3)、血管収縮薬が完全に不要になった時点(day n)の4回実施した。びまん性左室壁運動低下の定義は長軸像でのLVEFが45%未満の場合とした。通常、最初のTEE実施時にはすでにノルエピネフリンの投与が開始されていた。びまん性左室壁運動低下が認められる場合はドブタミンを追加した。したがってday2とday3のTEEはノルエピネフリンのみか、ノルエピネフリン+ドブタミン投与下で行った。ノルエピネフリンのみを投与されている患者のday2またはday3のTEEでびまん性左室壁運動低下が観られた場合はノルエピネフリン投与量を減らしドブタミンを追加した。それでも橈骨動脈収縮期圧が90mmHg以上を維持できない場合はエピネフリン単剤投与とした。

2004年1月から2006年12月までに67名の敗血症性ショック患者が入室し本研究の対象となった。43例がALI、24例がARDSであり、すべてprotective lung strategyで管理した。起因菌は22例がグラム陽性菌、22例がグラム陰性菌であった。広域スペクトラム抗菌薬とステロイド投与、場合によっては緊急手術を実施しても37名において代謝性アシドーシスが進行したため早期に血液濾過を開始した。血液濾過によっても循環動態が改善しなかった13名にはDrotAAを投与した。全体の28日死亡率は35%であった。生存例と比較し死亡例の初回平均心係数は有意に高かった(3.1 vs 3.8, P=0.017)。day1にびまん性左室壁運動低下を示したのは26名であった。当初LVEFが正常範囲内でノルエピネフリンのみを投与されていて、day2またはday3になってからびまん性左室壁運動低下を呈したのは14名であった。以上から、対象となった敗血症性ショック患者におけるびまん性左室壁運動低下発生頻度は60%であった。

平均0.8±0.7mcg/kg/minのノルエピネフリンが投与された。左室壁運動低下がある場合は、ノルエピネフリン投与量は平均0.5±0.5mcg/kg/minに減らされ、30名にはドブタミン5.4±1.7mcg/kg/miが追加投与され、10名にはエピネフリン0.7±0.6mcg/kg/minが投与された。ドブタミンもエピネフリンもLVEFを有意に上昇させたが、心係数の増加はエピネフリン投与例でのみ観察された。67名のうち44名は4±2日で心血管作動薬が不要となった。右室の壁運動は左室と同様の変化を示した。

敗血症性ショック症例の60%において、治療開始から3日以内にびまん性左室壁運動低下が認められることが明らかになった。今回の研究では、day1における死亡例の心係数が生存例より有意に高かったことから、心拍出量が高いほど重症であると考えられる。1984年のParkerらの報告でも、敗血症症例のびまん性左室壁運動低下は可逆性であり予後を悪化させる要因ではないが、左室収縮能が低下していない患者は死亡率が高いとされている。我々が実施した経胸壁心エコーを用いた調査では、死亡症例は生存症例と比べLVEFが有意に高く、LVEDVが有意に小さい上に輸液負荷によって是正され難いことが明らかにされている。敗血症性ショックで壁運動低下が認められない場合は予後が悪いことは強調されるべき点である。

現在、敗血症性ショックの管理においては、血管内容量適正化後の循環動態維持の第一選択薬はノルエピネフリンである。しかし、当初は左室壁運動が正常であった患者の34%がノルエピネフリン投与開始24時間後または48時間後にはびまん性左室壁運動低下を呈したことは留意すべき点である。この変化は、敗血症自体の経過によるものなのかもしれないが、ノルエピネフリンが影響を与えている可能性も念頭に置くべきである。ノルエピネフリンは後負荷を増加させるため左室収縮能を低下させる可能性がある。ノルエピネフリン投与によって動脈圧が一旦安定した後に、再び下降する場合はびまん性左室壁運動低下の関与を考慮すべきである。今回のデータはTEEから得たが、TEEではなく経胸壁心エコーでも我々が行っているのと同様の日常的評価が可能である。

教訓 敗血症性ショックの循環動態管理には心エコー所見も参考にするといいようです。壁運動低下が認められないときは要注意です。

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