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笑気の毒性~職業曝露 [anesthesiology]

Anesthesiology 2008年10月号より

Biologic Effects of Nitrous Oxide: A Mechanistic and Toxicologic Review

笑気の職業曝露限界値(OEL)は、余剰ガス排気装置が整備されている環境における8時間時間加重平均値で表される。国によっては短時間曝露についてもOELよりさらに厳しい基準が設けられており、一定以上の濃度の笑気にはいかなる場合にも曝露されることが許されない。UKおよびスウェーデンのOELは100ppmであるが、米国では産業衛生学会は50ppm、労働安全衛生局は25ppmを妥当な基準としている。排気設備がなかった時代は、手術室内の笑気濃度は常に1000-2000ppm程度であった。現在では余剰ガスが十分排気されるため手術室内の笑気濃度は相当低下しているが、それでも最高値は短時間とはいえ1000ppm以上になることが最近の研究で明らかにされている。

生殖に対する影響
笑気は濃度および時間依存性にメチオニン合成酵素を阻害する。したがって、職場における笑気曝露は労働衛生上のリスクである。妊娠中に1000ppmの笑気に曝露されていると流産および発達遅延の危険性が上昇するが、500ppm以下では曝露されていない場合と同等であると報告されている。笑気の職業曝露による胎児毒性は葉酸およびメチオニン補給によって低下するため、メチオニン合成酵素阻害が毒性の本態であると考えられている。動物では1000ppm以下の笑気曝露では不妊にはならないが、5000ppmでは場合によっては不妊が認められるとされている。OEL以下の笑気曝露で胎児毒性や不妊などの問題が起こるというデータは今までのところ得られていない。動物実験結果からは、胎児毒性および不妊に関する笑気の安全限界値は500ppmと推測されている。

遺伝子毒性
メチオニン合成酵素が阻害されると、メチル基転移および葉酸代謝の障害によりプリンおよびピリミジン合成が低下する。そのため笑気によって遺伝子毒性が発現する可能性がある。しかし、笑気の職業曝露により遺伝子毒性が認められたとする臨床データはほとんど存在しない。医師50名(麻酔科医25名、笑気曝露の機会のない医師25名)を対象とした調査では、セボフルラン(8.9±5.6ppm)と笑気(119±39ppm)に職業曝露されていた麻酔科医群では対照群と比較し姉妹染色分体交換が増加していた。手術室に2ヶ月間出入りしないと姉妹染色分体交換は正常範囲に戻るため、麻酔薬による可逆性の影響であると考えられる。この研究における曝露濃度はOELを超えているが、OEL以下のイソフルランおよび笑気曝露でも同様の結果が得られている。笑気単独の職業曝露による遺伝子毒性のデータはない。

神経系に対する影響
歯科医師および歯科助手60000名を対象とした質問票調査では、笑気の高度曝露(週に6時間以上を10年以上)によってしびれや脱力感などの末梢神経障害の発生頻度が上昇することが明らかにされている(1.5% vs 対照群0.4%)。ただし、笑気依存者の数が分からない、余剰ガス排気が整備されていない、回答者バイアスなどの交絡因子があるためデータの信頼性には疑問がある。MACの5-10%(52000-105000ppm)程度の笑気に曝露されていると認知機能が低下すると報告されている。

血液毒性
笑気の血液毒性は1800ppm以下では認められないため、職業曝露では血液毒性は発現しない。

教訓 余剰ガス排気+換気がちゃんとしていれば笑気に職業曝露されていてもあまり問題はなさそうです。ただしご懐妊の方は用心した方がよさそうです。葉酸、VitB12、メチオニンを補充してください。

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