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笑気の毒性~心筋、生殖 [anesthesiology]

Anesthesiology 2008年10月号より

Biologic Effects of Nitrous Oxide: A Mechanistic and Toxicologic Review

心筋に対する影響
笑気は周術期心筋合併症発生リスクを増大させる。ホモシステインが代謝されメチオニンを生成するにはメチオニン合成酵素が必要であるため、笑気を投与すると血中ホモシステイン濃度が上昇する。ホモシステインの増加は心臓合併症の独立した危険因子である。この原因としてホモシステインによる内皮障害と凝固能亢進が指摘されている。しかし、笑気によるホモシステイン増加が本当に心臓リスク上昇の原因であるのか否かについては未だ決着がついていない。動物実験で笑気による心臓合併症増加が認められたのは、笑気を投与されなかった群がプレコンディショニング効果のあるイソフルランを笑気投与群より高濃度で投与されたため、笑気投与群ではプレコンディショニング効果を得られなかった結果として笑気によって心臓リスクが上昇するように見えるだけだという意見もある。笑気は他の吸入麻酔薬と違い心機能をあまり抑制しないため術中の循環動態が良好に維持される可能性がある。笑気が周術期転帰に与える影響についてはさらに研究が必要であるが、ENIGMA試験では笑気によって心臓に関連する転帰が悪化するという結果は得られていない。ただし、ENIGMA試験には心臓関連転帰を評価するに足る検出力がない。ENIGMAⅡ試験では冠動脈疾患患者における笑気のリスクを評価するため7000名の患者登録が計画されている。

生殖に対する影響
動物実験で高濃度笑気を長期間投与すると胎児毒性が認められたとする報告がある。しかし、臨床ではあり得ないような投与量、投与時間での実験のため、この結果が臨床的にも意味があるとは言い難い。同様の動物実験では、高濃度長時間笑気投与に加えハロセンを併用すると笑気による胎児死亡および神経解剖学的異常の発生が抑制され、また、イソフルランを併用すると胎児死亡は防がれるが骨格系の異常は抑制されないという興味深い結果が報告されている。吸入麻酔薬による笑気の胎児毒性抑制作用は子宮血流量の増加によるものではないかと考えられているが、臨床的にも有意な現象であるのかどうかは分かっていない。臨床研究に目を転ずると、5405名を対象とした麻酔による胎児毒性の観測調査では、麻酔方法によらず麻酔による胎児に対する悪影響は認められないという結果が得られている。他にも、麻酔による流産発生頻度上昇は認められないという報告もある。麻酔薬による胎児毒性は未解明の部分が多く、更なる研究が必要であるが、現時点までの臨床研究データによれば、麻酔には臨床的に問題となるような胎児毒性はないと考えられる。(つづく)

教訓 笑気の心臓に対する影響についてはENIGMAⅡが明らかにする予定です。

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