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笑気の毒性~神経 [anesthesiology]

Anesthesiology 2008年10月号より

Biologic Effects of Nitrous Oxide: A Mechanistic and Toxicologic Review


神経系に対する作用
メチオニン合成酵素の作用が低下すると、ミエリンが損傷され亜急性連合性脊髄変性症などが発生する。サルやブタに笑気を長期投与するとミエリン変性が起こり、メチオニン補充によってこの作用が防がれることが明らかにされている。ヒトでもコバラミン欠乏患者たとえば悪性貧血などの患者では、笑気を投与すると神経合併症が起こるが、投与後数週間後にようやく症状が顕性化すると報告されている。授乳期間中に乳製品および肉類を摂取しなかった母親の月齢6ヶ月の乳児が笑気投与後に筋緊張低下、代謝性アシドーシス、コバラミン低下、瀰漫性脳萎縮を呈した症例が報告されている。コバラミン低下の原因は不明だが、母親の食生活が関与している可能性がある。一方、コバラミン欠乏のないヒトでは、薬物依存のように大量に長期連用しない限りは上述のような神経合併症は起こらない。笑気中毒患者では、意識レベル低下、異常感覚、下肢筋力低下および痙攣などが認められる。栄養不良患者に笑気を使用する場合は、コバラミンと葉酸を補給し笑気による神経障害を予防すべきである。ただし、葉酸のみの投与は避けなければならない。コバラミンが欠乏している状態で葉酸のみを投与すると、笑気による神経障害がかえって促進されるからである。NMDA受容体阻害作用のある他の薬剤と同様に、笑気には神経毒性がある一方で神経保護作用もあると言われている。しかし、笑気の神経保護作用については十分な根拠がない。臨床で使用される量の笑気を投与したところ、形態学的な神経損傷が認められなくても脳損傷を示唆するマーカーが検出されると報告されている。イソフルランやプロポフォールなどのGABA作動性薬剤と笑気を併用すると、笑気によるこの種の毒性は軽減される。雌ラットではNMDA拮抗薬による脳損傷が発生しやすいためヒトの女性も男性よりもNMDA拮抗薬による神経障害が起こりやすいと考えられている。ゼノンはNMDA拮抗薬であるにも拘わらず、笑気のような神経毒性はない。これはゼノンと笑気ではドパミン放出作用が異なるせいであろうと推測されている。笑気の神経毒性はドパミン拮抗薬であるハロペリドールによって阻害されることから、笑気によるドパミン放出が神経毒性発現と関与している可能性が指摘されている。ケタミンやMK-801などのNMDA拮抗薬は新生ラット脳においてアポトーシスによる広範な神経細胞死を引き起こすことが明らかにされている。しかし、ゼノンではこのような現象は認められない。ゼノンと同様に笑気を75%までの濃度で新生ラットに投与しても脳のアポトーシスは起こらない。しかし、ゼノンと異なり笑気はイソフルラン(0.75%)による脳損傷を悪化させる。若年者はNMDA拮抗薬による神経毒性の影響を受けやすいという報告もあるが、現時点では臨床的にはあまり問題にはならないとされており、小児麻酔においてNMDA拮抗薬の使用を差し控える必要はない。麻酔による神経合併症の一つに術後認知障害(POCD)がある。しかし、全身麻酔でも区域麻酔でも同程度の頻度でPOCDが発生することが近年明らかになり、POCDの原因が全身麻酔にあるとする考えに疑問が呈されている。動物実験では手術による神経炎症反応がPOCDの原因であるという報告もある。全身麻酔がPOCDの危険因子である可能性はあるが、年齢や術式などのほうがより重大な影響を及ぼしているようである。今のところ笑気がPOCD発生の有意な危険因子であるとする臨床データは存在しない。(つづく)

教訓 笑気の神経毒性をハロペリドールが抑制します。


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