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肝肺症候群 [critical care]

NEJM 2008年5月29日号より

Hepatopulmonary Syndrome — A Liver-Induced Lung Vascular Disorder

 肝肺症候群とは肝疾患に伴う肺血管拡張による動脈血酸素化障害を特徴とする疾患概念で1977年頃にはじめて報告された。最もよく認められる症状は労作時あるいは安静時の呼吸困難であるが、進行した肝疾患患者では貧血、腹水、水分貯留、筋萎縮などの肝疾患に関連する様々な合併症によって呼吸困難が認められる頻度が高く、呼吸困難があるからといって肝肺症候群と診断するのは早計である。

 肝肺症候群に特異的な症状や徴候、特徴的な理学所見といったものはない。しかし、クモ状血管腫、ばち指、チアノーゼ、重篤な低酸素血症(PaO2 < 60 mmHg)などの所見は肝肺症候群の存在を強く示唆する。

 仰臥位から起坐位に体位変換することでPaO2が5%以上もしくは4mmHg以上減少する(この現象をorthodeoxiaと言う)場合、換気血流不均衡が体位変換によって著しく悪化していることを示し、起き上がると呼吸困難感がひどくなると患者が訴える可能性がある(起坐位呼吸困難)。

 胸部X線撮影は多くは非特異的な所見を示し、び漫性の肺血管拡張の存在によるものと考えられる軽度の間質性陰影が下肺野に認められることがある。

 肝肺症候群における特筆すべき病理所見の特徴は、肺血管の前毛細血管および毛細血管における全体的な拡張(患者安静時に直径15ないし100μm)と拡張血管の絶対数の増加である。

 肺血管が拡張すると、混合静脈血が直接的にまたは肺内シャントを経由して肺静脈へ流入しやすくなる。肺胞換気は増加しないのに、肺血流が増えるため換気血流不均衡が起こり酸素化不良となる。肝硬変患者の30%では低酸素性肺血管収縮が抑制または消失するため、さらに肺血流が増大する。肺内シャント増大や換気血流不均衡の程度は低酸素血症の程度に反映される。対して、門脈肺血管交通の低酸素血症との関与は僅かである。換気血流不均衡とシャントの増悪が肝肺症候群におけるorthodeoxia発生メカニズムの本態である。下側肺肺胞の肺血管トーンが変化に乏しいため換気に呼応した重力性の血流変化が起こりにくいことがorthodeoxiaの原因と考えられる。

 肝肺症候群の重症度が進むに従って酸素拡散障害は悪化する。病期が進行し拡散障害が生ずると、心拍出量が増大するほど赤血球が通過する時間が短くなるのでかえって酸素化が悪化する。この現象は、肝疾患一般と一部の肝肺症候群において認められる。拡散能低下のもう一つの原因は、肺胞毛細血管間隙が広すぎてヘモグロビンと一酸化炭素が完全な平衡に達することができないことであると考えられている。

 肝肺症候群に対する有効な内科的治療法は現在のところ存在せず、肝移植が唯一の治療法である。術後死亡率および移植後から低酸素血症の改善までの期間は、肝肺症候群の重症度が高く術前低酸素血症が重篤であるほど延長することが明らかにされている。 今までに行われたうちで最も大規模な単一施設研究では、肝肺症候群患者の肝移植後5年生存率は76%であるという結果が得られており、肝肺症候群がなく肝移植を受けた患者の5生率とのあいだに有意差はなかった。この研究で死亡の予測因子として最も強い影響が認められたのは術前PaO2が50mmHg以下であることと、肺血流シンチにおける脳の取込みが20%以上であることであった。移植以外の治療では肝肺症候群の予後は悪いのでPaO2が60mmHg以下の肝肺症候群の患者はほかの疾患で肝移植の候補になっている患者より優先度を高く考えねばならない。

教訓 肝疾患患者では、仰臥位よりも座位のときのほうがSpO2が低下することがある。
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肝移植について

はじめまして。
腎移植や肝移植についてブログをリサーチしていたところ、貴サイトへたどり着きました。
臓器移植に関して様々なブログを読み歩いて勉強をしています。
助かる命がそこにあるのなら、少しでもお役に立ちたいと日々考えています。
こちらのサイトにありました意見や情報は色々参考になりました。
ありがとうございました。
by 肝移植について (2011-02-11 14:31) 

vril

ご訪問いただき、ありがとうございます。
本ブログでは移植に関する文献はあまり扱っていませんが、よろしければ以下の記事もご覧下さい。

http://vril.blog.so-net.ne.jp/2008-12-12
by vril (2011-02-14 09:25) 

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