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AKIによる腎外遠隔臓器障害~脳 [critical care]

Acute Kidney Injury and Extrarenal Organ Dysfunction: New Concepts and Experimental Evidence

Anesthesiology 2012年5月号より

AKIと脳障害

AKI動物モデルを用いた実験で、尿毒症性脳症の発症に神経伝達物質が関与していることが明らかにされている。両側腎虚血再灌流を起こすと48時間後の時点で線条体、中脳および視床下部におけるドパミン代謝が低下していることが分かっているが、AKIまたは尿毒症によって直接的に引き起こされる作用なのかどうかは明かではない。AKI後には脳に炎症が生じ、機能が低下することが示されている。マウスの実験では、腎虚血再灌流によって神経細胞の核濃縮や海馬におけるミクログリアの増加が起こることが明らかにされている。このような変化は、学習、記憶、不安および抑鬱などに深く関わっている。核濃縮とは、核のクロマチンが不可逆性に濃縮することであり、壊死またはアポトーシスする細胞において観察される事象である。ミクログリア細胞は中枢神経系にとどまり姿を変えたマクロファージであり、神経炎症カスケードにおける主役とも言うべき重要なメディエイタである。AKI後の脳では炎症の指標であるグリア線維酸性タンパク(GFAP)が増加することも報告されている。腎虚血再灌流後のマウスの脳にエバンスブルーを投与すると血管外漏出が起こることから、AKIの影響で血液脳関門が破綻することが示唆されている。この知見は臨床的にも重要である。なぜなら、血液脳関門が破綻すると脳浮腫が起こるだけでなく、本当なら血液脳関門を通過しないはずの代謝産物や毒性物質が通過してしまって中枢神経系の機能を傷害する可能性があるからである。腎虚血再灌流または両側腎摘除後マウスの行動検査を行った研究では、自発運動量が中等度~高度低下することが示されている。

まとめ

AKIが起こると、多臓器不全発症時期が早まり死亡率が上昇するが、その程度はAKIによる病態悪化だけでは説明がつかないことが最近の臨床研究で明らかにされている。腎虚血再灌流もしくは両側腎摘除などによって作成したAKI動物モデルを用いた研究では、AKIは決して腎臓だけに限局した病態ではなく、好中球遊走、サイトカイン濃度の上昇、酸化ストレスの増強などの機序を介して肺、心臓、肝臓および脳などの遠隔臓器にも傷害を発生させることが示されている。しかし、腎不全、特に多臓器不全を伴う場合には、治療の手段は限られていて、数少ない治療法も有効性に乏しいのが現状である。したがって、新しい治療標的を見出すには、AKI誘発性遠隔臓器傷害の発生機序の解明が必要なのである。

教訓 AKI後には脳に炎症が生じ、機能が低下します。また、AKIはBBBを破綻させます。
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AKIによる腎外遠隔臓器障害~心 [critical care]

Acute Kidney Injury and Extrarenal Organ Dysfunction: New Concepts and Experimental Evidence

Anesthesiology 2012年5月号より

AKIと心機能低下

心腎症候群と言って、心不全と腎不全が同時に起こることがある。通常は心臓か腎臓かのいずれかが臓器不全の首座となる。AKI発症後に心不全が起こるタイプのものは、心腎症候群3型に分類されている。AKIに引き続いて心機能が低下する要因は、水分過多による肺水腫、酸血症による肺血管収縮、尿毒症に起因する心外膜炎や心筋収縮力低下、高カリウム血症による不整脈などである。以上に挙げた要因はいずれもたいていは是正可能であるが、こういった要因がない場合でもAKIが起こるとそれだけで心機能が低下することがある。

炎症性サイトカインが心臓関連の転帰によくない影響をおよぼすことを裏付ける知見が、基礎研究と臨床研究のいずれにおいても続々と報告されている。フラミンガム研究では、TNF-αやIL-6の血中濃度が高い患者は鬱血性心不全を発症するリスクが高いことが明らかにされている。CRPが5mg/dL以上であると鬱血性心不全の発症リスクが2.8倍に増大する。さらに、TNF-α-、IL-6およびCRPのいずれもが上昇している患者では鬱血性心不全のリスクが一層高いことが分かっている(ハザード比4.07)。心不全症状のある患者では、TNF-αの血中濃度が重症度やNYHAスコアと直接的に相関し、臨床転帰不良の予測にもつながる。鬱血性心不全の患者は、慢性炎症でみられるのと同じ様々な特徴を呈する。重症鬱血性心不全症例ではTNF-α血中濃度が高く、その上昇程度が心臓悪液質の発症と有意に関連する。

左室機能低下、肺水腫、左室リモデリング、心筋肥大および心筋アポトーシスなどの進行に、ナトリウムおよび水分貯留作用のある神経ホルモンだけでなく、TNF-αおよびIL-6が関わっていることが動物実験でも示され、鬱血性心不全の発症過程にサイトカインが関与していることが裏付けられている。TNF-α過剰発現トランスジェニックマウスでは、左室拡張および左室肥大が起こり、そのため死期が早まることが分かっている。また、両側胸水、心筋細胞アポトーシスおよび心筋炎も起こる。IL-6およびIL-6受容体のいずれもが過剰発現するトランスジェニックマウスでも、心室肥大が見られる。

AKI発症後に起こる心機能低下にサイトカインが関与していることは、動物モデル実験で明らかにされている。ラットを用いた腎虚血再灌流モデルの実験では、心臓にTNF-α、IL-1およびICAMメッセンジャーRNAが増え、MPO活性が上昇することが分かっている。腎虚血再灌流から48時間以内に心臓超音波検査を行うと、左室拡張末期径および左室収縮末期径の増大と左室内径短縮率の低下が認められる。腎虚血再灌流モデルでは心筋アポトーシスが見られるが、両側腎摘除モデルでは見られない。抗TNF-α抗体を投与すると心筋細胞のアポトーシスが有意に抑制されるため、AKI後の心機能低下にはTNF-αが直接的に関与しているものと考えられている。最新の研究では、ヘムオキシゲナーゼ-1に細胞保護作用があることが明らかにされている。ヘムオキシゲナーゼ-1はヘムの分解に関わる酵素であり、酸化ストレスや低酸素によって誘導される。ヘムオキシゲナーゼ-1ノックアウトマウスに腎虚血再灌流を引き起こすと、非ノックアウトマウスと比べ糸球体濾過率が大幅に低下し、IL-6 mRNAの誘導が促進され、死亡率が上昇する。

虚血再灌流による軽度腎傷害は中等度以上の腎傷害と異なり、心筋虚血を防ぐ作用をもたらす。特定の冠動脈を閉塞させると、その冠動脈の灌流域だけに止まらない心筋保護作用がもたらされることが明らかにされたことをきっかけに、虚血プレコンディショニングが虚血部位とは離れた場所に及ぼす影響についての研究が行われるようになった。Ghoらは低体温下(30℃)で15分の腎虚血に曝露したマウスを用いた実験を行い、冠動脈閉塞後の心筋虚血域が対照マウスより縮小することを他に先駆けて示した。心筋保護作用が生ずる機序についてはいろいろな意見がある。神経節遮断作用のあるヘキサメトニウムが、遠隔部位虚血プレコンディショニング作用を打ち消すことから、プレコンディショニング作用の発現に神経を介する機序が関与しているという考えが示されている。また、心臓および腎臓のいずれにも虚血再灌流を起こしたウサギの血液を、何の操作もしていないウサギに投与すると心保護作用が得られることから、体液が関与する機序の可能性も指摘されている。そして、虚血に対する心筋保護作用は、全身的な抗炎症作用および抗アポトーシス作用の一部としてもたらされるものと考えられている。遠隔部位に虚血プレコンディショニング作用をおよぼすのは腎の虚血に限った話ではなく、骨格筋、脳、肝臓の虚血再灌流でも同様の効果が得られることが示されている。

教訓 AKI後の心機能低下にはTNF-αが直接的に関与しているようです。虚血再灌流による軽度腎傷害は中等度以上の腎傷害と異なり、心筋虚血を防ぐ作用をもたらします。

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AKIによる腎外遠隔臓器障害~消化管、肝 [critical care]

Acute Kidney Injury and Extrarenal Organ Dysfunction: New Concepts and Experimental Evidence

Anesthesiology 2012年5月号より

AKIと消化管機能障害

肝臓と小腸は門脈循環を介してつながっていて、AKI後の多臓器不全の進展に一体となって関与する。腸には免疫防御バリアという重要な機能があり、腸管内に大量に存在するTLRリガンド、サイトカインおよび細菌抗原などの炎症促進物質が門脈循環を経由して全身の血流へ広がるのを防いでいる。つまり、腸管のバリア機能が破綻すると、肝傷害が生じたり増悪したりするのである。このことは重症疾患では重大な問題となる。肝臓はタンパク合成、薬物代謝および解毒などの大切な代謝作用を司っているからである。

腎虚血再灌流と両側腎摘除のいずれにおいても、IL-17Aが制御を失い小腸で過剰発現する。IL-17Aは炎症促進サイトカインであり、アレルギー反応において好中球遊走、T細胞活性化およびTNF-αやIL-6などのサイトカインやケモカインの発現誘導といった重要な作用をもたらす。実際、AKIを発症したマウスでは、大量の好中球、マクロファージ(fig. 4)およびTリンパ球が小腸上皮および血管へ集積する。こういった炎症促進作用によって腸管バリア機能が破綻する。この状態でエバンスブルーを投与すると血管外漏出が観察される。そして、本当なら腸管内に止まっているはずの炎症促進物質が門脈循環内へ侵入し、炎症反応カスケードがさらに賦活化されて事態が悪化する。腸管バリアの破綻は腸絨毛の組織学的変化にもあらわれ、絨毛内皮のアポトーシス、絨毛上皮の壊死、絨毛毛細血管の鬱血および絨毛の萎縮といった所見が見られるようになる。絨毛のアポトーシスはTUNEL染色をすると確認できる。特に、血管周囲の内皮細胞では分かりやすい所見が得られる。

腸管で産生されたIL-17Aは門脈循環に流入し、肝臓においてTNF-αおよびIL-6の発現を促進する。このことは、肝組織におけるTNF-αおよびIL-6のメッセンジャーRNAの増加によって裏付けられる(fig. 5)。TNF-αおよびIL-6の発現量が増えると肝傷害が起こり、ASTおよびALTの血中濃度が上昇する。腎虚血再灌流および腎摘除のいずれによるAKIであっても肝傷害を引き起こし、組織学的には好中球浸潤、肝細胞空胞変性および門脈周囲壊死が出現する(fig. 6)。IL-17A、TNF-αまたはIL-6欠損マウス、もしくはIL-17A、TNF-αまたはIL-6の中和抗体を投与されたマウスでは、AKI後の肝傷害が起こらないという瞠目すべき知見が示されている。つまり、AKI後に起こる小腸におけるIL-17Aの産生および肝臓におけるTNF-αとIL-6の発現が、肝傷害を直接的に増強するものと考えられる。

肝臓における酸化ストレスの増大と活性酸素の産生量増加も、炎症反応の惹起と遷延において不可欠の役割を担っていると考えられている。腎虚血再灌流および両側腎摘除のいずれであっても、脂質過酸化のマーカであるマロンジアルデヒドが肝内で増加する。また、重要な内因性フリーラジカルスカベンジャーで肝保護作用を発揮するグルタチオンは、AKIが起こると減ってしまう。腎虚血再灌流を行うに先立ちグルタチオンを投与すると、投与しなかった場合よりも肝傷害による組織学的変化が緩和され、マロンジアルデヒド濃度が低下し、トランスアミナーゼが減少する。腎虚血再灌流は、ミエロペルオキシダーゼ、SODおよびカタラーゼなどの抗酸化酵素の濃度を低下させることも知られている。

腎臓-肝臓虚血再灌流による二重侵襲モデルの実験では、虚血または片側/両側腎摘除によるAKIを起こす上に肝臓にも虚血再灌流を施すモデルで、肝虚血再灌流に加え対照(sham)腎手術を行ったマウスと比べ、肝傷害が有意に重篤であることが示されている。この知見は、AKIに肝機能低下が合併すると転帰が悪化することを裏付けていると言えよう。

AKIが引き起こす腸管傷害および肝傷害を防ぐ上で抗炎症物質が死活的に重要な役目を担っていると考えられている。吸入麻酔薬のイソフルランには強力な抗炎症作用がある。マウスを用いた実験では、抗炎症作用がほとんどないペントバルビタールと比べイソフルランは腎虚血再灌流を軽減し、続発する腸管傷害および肝傷害も防ぐ作用があることが明らかにされている。この効果はスフィンゴシン-1-リン酸を介した直接的な作用であることが分かっている。スフィンゴシン-1-リン酸はGタンパク共役型受容体に結合するリゾリン脂質で、細胞の成長や生存を促し、アポトーシスを阻害する作用があることで知られている。

教訓 AKIはサイトカインを介して腸管のバリア機能が破綻させます。すると腸管内のTLRリガンド、サイトカインおよび細菌抗原などの炎症促進物質が門脈循環を経由して肝臓に至り肝傷害を引き起こします。
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AKIによる腎外遠隔臓器障害~肺 [critical care]

Acute Kidney Injury and Extrarenal Organ Dysfunction: New Concepts and Experimental Evidence

Anesthesiology 2012年5月号より

肺機能障害とAKI

AKIは二つの異なる機序によって肺に影響を及ぼす:炎症反応のカスケードが制御を失うことによる細胞膜の透過性亢進と、ナトリウム-カリウムポンプおよび水チャネル(アクアポリン)のダウンレギュレーションである。腎虚血再灌流後には尿細管細胞が傷害されTNF-αやIL-6が放出され血中濃度が上昇し(fig. 3)、腎摘除を行うと腎以外の細胞(Tリンパ球など)から同じようにTNF-αやIL-6が放出される。こうして生じたサイトカインが炎症反応による細胞傷害を引き起こし、急性相反応や肺、心臓および肝臓などの腎外臓器の傷害を招く主因となる。TNF-αおよびIL-6には、血管透過性亢進、白血球集簇および浮腫を引き起こす作用もある。

AKIが起こると炎症促進サイトカインが増え、このサイトカインが直接的に肺傷害を引き起こす。IL-6欠損マウスと野生型マウスにIL-6中和抗体を投与すると、腎虚血再灌流または腎摘除後の肺傷害が起き難くなる。また、好中球浸潤、毛細血管透過性、MPO活性および肺水腫がいずれも抑制される。反対に、野生型マウスにIL-6のみを投与すると肺傷害が生じMPO活性も亢進する。

AKI発症後に制御を失った炎症反応が生ずると、肺血管の透過性が亢進する。そのため、エバンスブルーを投与すると血管外漏出が観察される。血管の統合性が破綻すると肺組織の間質に水分が貯留し肺水腫となり、肺のメカニクスが劣化する。水分が血管外へ漏出し肺胞内に溜まるとサーファクタントの活性が失われ、肺コンプライアンスが一層低下する。マクロファージの炎症性サイトカイン放出を阻害するCNI-1493を投与すると血管透過性の亢進が抑制されることから、血管透過性の亢進にはマクロファージが一役買っているものと考えられている。

肺間質の浮腫を代償するために人体に備わっている機構が、ナトリウム-カリウムポンプによる能動的輸送とアクアポリンを通じた受動的拡散による水の移動である。しかし、虚血性AKIの場合は、肺において間質浮腫を起こすだけでなくナトリウム-カリウムポンプおよびアクアポリンにダウンレギュレーションをかけてこの代償機構を無効にしてしまう。また、アクアポリン活性を低下させた動物はVILIが起こりやすいことも分かっている。

腎虚血再灌流が起こると、肺の内皮細胞および上皮細胞のアポトーシスをはじめとする組織学的変化が生ずる。その他、肺水腫、肺胞出血および白血球集簇などの所見が見られる。両腎摘除後には以上のような変化は生じないとされていたが、後になってKleinらがAKIが両腎摘除によるものであれ虚血再灌流によるものであれ、肺間質浮腫や好中球浸潤が見られることを明らかにした。

教訓 AKIが起こると炎症促進サイトカインが増え、このサイトカインが直接的に肺傷害を起こします。炎症反応により肺の血管透過性が亢進する上に、ナトリウム-カリウムポンプおよびアクアポリンのダウンレギュレーションのため間質浮腫がなおりにくい状態に陥ります。
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AKIによる腎外遠隔臓器障害~動物実験 [critical care]

Acute Kidney Injury and Extrarenal Organ Dysfunction: New Concepts and Experimental Evidence

Anesthesiology 2012年5月号より

AKI動物モデル

AKIが腎以外の臓器に及ぼす影響の解明は研究分野として登場したばかりである。臨床研究を行おうと思ってもAKIは他の病態と密接にからみあって発生し複雑な過程をたどるため、研究するのがそもそも難しいため成果はまだあまり上がっていない。AKIの腎外波及による臓器不全の病態生理を解明するにあたり、腎傷害の動物モデルが利用されている。動物モデルであれば、ヒトを対象とした研究につきものの困難や実験上の制約にあまり縛られず、観測対象の変数を他の因子から独立させることができるため機序を理解するのに好都合であるからである。いろいろな動物モデルがあるが、中でも頻用されているのは腎虚血再灌流モデルと腎摘除モデルである。簡単かつ再現可能であり、傷害の程度を容易に調節することができるからである。腎虚血再灌流モデルは、腎動脈を一時的に遮断して作成する。このモデルでは、腎動脈上の大動脈瘤切除術、腎部分切除、腎移植、造影剤腎症、ショック、心停止などによって腎傷害が発生したときと似た状況を再現することができる。再灌流症候群は独特な特徴のある病態を呈し、傷害の生じた尿細管がサイトカインやケモカインの主な発生源となる。再灌流後には、内皮障害の程度に応じた血管作動性メディエイタの調節が失調に陥り腎血流量が最大50%も低下する。このため間質浮腫が発生し白血球が間質へ遊走する。一方、片側もしくは両側腎摘除によって作成されたモデルは、AKIの根本的特徴である腎機能低下もしくは喪失による影響を、再灌流障害のない状態で再現したい場合に用いられる。

その他にも、腎毒性物質や敗血症による腎傷害モデルがあるが、腎以外の臓器へのAKIの影響を検討するのに用いられることは少ない(table 1)。こういったモデルは臨床でAKIが発生するのと似た状況を再現することができるが、マウスに腎毒性物質を投与したり敗血症を起こしたりすることによって、望ましい形でAKIを引き起こすことは一筋縄ではいかないため、実験で用いるには適していない。造影剤腎症を例に挙げると、造影剤投与のみによっては期待するような腎傷害は発生しがたいため、造影剤投与に先立ち、他の腎毒性物質を投与する上に虚血まで引き起こさなければモデルを作成できないことが多いのである。同様に、ゲンタマイシンの腎毒性を研究する場合も、グラム陰性菌による敗血症などを引き起こした上でゲンタマイシンを投与してモデルが作成されている。

腎傷害の動物モデルを用いる研究には、動物種の違いに由来する複数の問題点がある。ヒトでは低血圧やショックによって腎血流量が低下すると虚血性尿細管壊死が起こることが多い。しかし、ラットでは高度低血圧が長時間続いても普通は腎傷害を来さない。そのため、「単一侵襲」動物モデルの作成にはふさわしくない。一方、ヒトでは虚血再灌流が起こっても部分的にわずかな組織学的変化が生ずるだけであるが、同程度の侵襲がラットに与えられると近位尿細管が広汎かつ高度な壊死に陥る。つまり、実際の症例では複数の要因によってAKIが発生していると考えられるが、腎虚血再灌流や腎摘除などの「単一侵襲」によるAKIモデルでは、こういった状況を反映することができないのである。

動物モデルには以上のような困難や問題がつきまとう。しかし、AKIが腎臓だけの問題ではなく、好中球遊走、サイトカイン発現および酸化ストレスの増強などの炎症促進作用を波及させ、肺(table 2)、心臓、肝臓、腸管および脳(table 3)などの他の臓器の機能をも障害するということを明らかにする上で、AKI動物モデルを用いた実験は一役買ってきた。(fig. 2)。標的となる終末臓器へ向けて好中球が血管外へ遊走する現象は、急性炎症に伴う自然免疫反応に特徴的である。この現象はサイトカイン発現におけるアップレギュレーションをもたらし、直接的に終末臓器を傷害する。その結果、血管透過性が亢進する。アルブミンに対して高い親和性を持つ染料であるエバンスブルーを静注すると通常は血管内に残るが、血管の統合性が破綻していると血管外に漏出する。そのため、エバンスブルー投与によって血管透過性の程度を評価することができる。さらに、炎症部位には活性化好中球が存在し、活性酸素を産生し抗酸化能を低下させるため、サイトカインによる傷害に拍車がかかる。

教訓 AKI動物モデルを用いた実験によって、AKIが好中球遊走、サイトカイン発現および酸化ストレスの増強などの炎症促進作用を遠隔部位に波及させ、肺、心臓、肝臓、腸管および脳などの他臓器の機能をも障害するということが明らかにされました。
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