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術中覚醒高リスク患者の術中覚醒を防ぐには~はじめに [anesthesiology]

Prevention of Intraoperative Awareness in a High-Risk Surgical Population

NEJM 2011年8月18日号より

意図的にもたらしたのではない偶発的術中覚醒とは、術中に知覚体験があり、それを生々しい記憶として想起できることを指す。術中覚醒症例のうち実に70%がPTSDを発症するとの報告もある。術中覚醒のリスクが高い患者群では、術中覚醒の発生頻度は1%に迫るとされている。米国だけでも年間2万人から4万人が術中覚醒を経験すると推定されている。術中覚醒の中には、麻酔薬の投与量不足が原因の症例もある。つまり、回避可能な医療過誤も含まれているというわけである。

全身麻酔ではたいていの場合、強力な麻酔作用を持つ吸入麻酔薬が用いられ、呼気麻酔ガス濃度が測定される。最小肺胞濃度(MAC)とは、被験者の50%において外科的侵襲を加えても体動が見られない時の肺胞内麻酔薬濃度である。呼気終末麻酔薬濃度(ETAC; end-tidal anesthetic-agent concentration)が0.33MACであると、被験者の半分は口頭命令に正しく従うことができない。術中のETACを0.7MAC以上に維持すると術中覚醒の発生頻度を低下させることができると考えられている。

麻酔深度モニタとなる可能性を秘めた、脳波データを利用した器械がいくつか開発されてきたが、その目的の一つは術中覚醒の予防である。現在最も普及しているのはBIS(bispectral index)モニタ(Coviden)である。この器械は特許保護された独自開発のアルゴリズムで単一の前頭脳波信号を処理し無次元数を算出する。得られた無次元数は患者の意識レベルをあらわす。BIS値がゼロであれば脳の電気的活動が検出可能レベル以下であり、100であれば完全に覚醒していることを示す。術中覚醒を防ぎ、かつ麻酔薬の投与量を必要最小限に抑えるには、BIS値を40~60にするとよいとされている。

プロトコルに則った簡便ではあるが厳格な対策を講ずることによって、周術期合併症および死亡を減らすことができることが示されている。きっちり構成されたプロトコルに情報技術を取り入れて臨床上の意思決定に便利なようにすると、医療の安全性が向上し医療過誤を抑止することができると考えられている。新しい技術を導入するには、第一に臨床的便益があることが決定的に示され、第二に費用対効果の面からも問題がないことが証明されなければならない。

B-Aware試験は2500名の患者を対象として行われ、従来の標準的な麻酔法と比べ、BISプロトコルに基づいて麻酔薬を投与する方法を実施すると、術中覚醒リスクの高い患者群における術中覚醒発生率が0.74パーセンテージポイント減少することが明らかになった(95%信頼区間, 0.14~1.40)。一方、B-Unaware試験(NCT00281489)では、ETACを指標として麻酔薬を投与するプロトコルとBISプロトコルとのあいだに術中覚醒の発生率の差はないことが分かった(95%信頼区間, -0.56~0.57)。さらにB-Unaware試験では、BISプロトコルを実施しても麻酔薬投与量は減少せず、術後死亡率も低下しないことが明らかにされた。B-Unaware試験では、いずれのプロトコルが行われた群においても、術中覚醒リスクの高い患者の術中覚醒発生率は予測より低かった(両プロトコルとも0.2% vs 予測値1.0%)。しかし、B-Unaware試験は重大な問題点をはらんでいる。中でも一番に特記すべきことは、対象患者数が1941名にとどまっており、術中覚醒発生率低下の信頼区間が広く、BISモニタリングによってもたらされる臨床的には有意な効果(術中覚醒発生率0.56パーセンテージポイント低下)がないと言い切れるわけではないことである。さらに、単一施設研究であるという問題もある。そこで我々は所在する国の異なる三つの施設においてBIS or Anesthetic Gas to Reduce Explicit Recall試験(BAG-RECALL; はっきりした術中記憶想起を防ぐにはBISか麻酔ガスモニタか?)という研究を行い、術中覚醒高リスク患者群における術中覚醒発生率を低下させるのにBISプロトコルとETACプロトコルのいずれが優れているかを検討した。

教訓 このBAG-RECALL研究では、BISと呼気終末麻酔ガス濃度のどちらが術中覚醒を防ぐのに有用な指標であるかを検証しました。
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