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術後肺合併症による医療・経済負担と予防策~VAP予防策 [critical care]

Clinical and economic burden of postoperative pulmonary complications: Patient safety summit on definition, risk-reducing interventions, and preventive strategies

Critical Care Medicine 2011年9月号より

VAP予防策

VAP予防策は手術室へ入室したときから実施を開始し、ICU入室中もずっと継続しなければならない。VAP予防策の具体的な内容は、こまめな手洗い、抗菌薬の適切な投与、口腔内衛生保全および正しい気道管理などである。口腔咽頭内の分泌物の排出を促すために行うべき術後対策は、体位変換、気道の加湿、気管挿管中であれば気管内吸引、定期的に咳をさせる、胸郭用手圧迫による痰喀出の促進などである。Bouadmaらは48時間以上の人工呼吸管理が行われたICU患者を対象とし、8種類の予防策を組み合わせた多角的プログラムのVAP発生率低下効果を検討した。この研究で取り上げられた予防策は、手指衛生、手袋およびガウンの装着、頭高位、気管チューブカフ圧の管理、経口胃管の使用、胃の拡張の防止、口腔内衛生および気管内吸引の必要時のみの実施である。各予防策の実施遵守率は高かったにも関わらず、VAP発生率は43%低下したものの依然として高いレベルに止まっていた。つまり、ICUにおけるVAPの根絶は困難を極めるということであろう。

新しい技術を応用した気管チューブを使用すればVAPのリスクが低減する可能性がある。銀イオンやスルファジアジン銀などの抗菌剤で被覆した気管チューブを用いると、バイオフィルムが形成されにくくなり、遠位気道の汚染が抑制される。抗菌剤被覆気管チューブに関する臨床試験が期待を持って行われてきたが、この手の気管チューブを臨床に導入しルーチーンで使用する気にさせるほどの有望な結果は得られていない。チューブ内腔の粘液塊形成を防ぐ気管チューブや粘液塊を「削ぎ落とす」器具などの有効性が主に動物を対象とした少数の研究で検討され、有効であるとの結果が示されている。カフの材質や形状に工夫を凝らし、皺によって通路ができるのを防ぐことができる気管チューブも登場している。カフのみがこのように新しいタイプの気管チューブや、カフが新しいだけでなく銀イオンで被覆されていたり吸引用ルーメンが組み込まれていたりする気管チューブについての二、三編の研究では、旧来の高容量低圧カフの気管チューブよりも優れていることが明らかにされている。声門下分泌物の持続的または間欠的吸引が可能な専用ポートが装備された気管チューブを用いれば、口腔咽頭内の汚い分泌物がカフを伝って気道遠位へとたれ込むのを防ぐことができるのではないかと期待されている。このような専用ポート付きの気管チューブによってVAP発生率、人工呼吸期間または死亡率が改善するかどうかはまだはっきりしていない。また、吸引孔が後方についているため気管後壁を損傷することがあり安全性に懸念が示されている(参考:声門下持続吸引による気管粘膜損傷)。

半坐位(30°~45°の頭高位)とすると誤嚥が防がれ細菌による気道汚染が起こりにくくなることが分かっている。さらにVAP発生率も減る可能性があるとされている。ベッド頭部を持ち上げるだけのこの簡単な方法の成否は、ICUスタッフの遵守率にかかっている。頭高位にしても口腔内分泌物や胃内容による気道汚染はなくならないことが細菌学的検査で明らかにされていて、頭高位を徹底してもやはりVAP発生率は無視できるほどに低下するわけではない。回転ベッドの使用や、側臥位や腹臥位もVAP予防に有効である可能性があることが報告されている。しかし、術後においてはこういった体位をとることは困難であることが多く、半坐位より優れていることが示された体位はない。

人工呼吸注の患者において、鎮静薬の持続投与量を極力減らし、安全が確保される限りにおいて可及的速やかに抜管すると、VAP発生率が低下し、ICU在室日数が短縮する。そしておそらく死亡率も減ると考えられている。ミダゾラム、プロポフォールやモルヒネなどの従来から広く用いられている薬剤が投与されている患者では、一日一回鎮静薬の投与を中断し、患者が覚醒し指示に従えるかどうかを確認し、苦痛の有無についての評価を行うと、鎮静薬の投与量を最小限に抑えることができる。自発呼吸試験を一日一回実施し、人工呼吸の補助なしに問題なく2時間にわたり自発呼吸が可能であれば抜管するという方法を実施すると、挿管期間を短縮することができる。

無気肺による術後低酸素血症には非侵襲的陽圧換気を早めに行うと、酸素を投与するだけの場合と比べ、再挿管率が低下し、おそらく術後肺炎の発生率も減ると考えられる。非侵襲的陽圧換気は、マウスピース、鼻マスク、顔マスクまたはヘルメット型マスクなどの様々な器具のうちいずれかを用いて行う。非侵襲的陽圧換気が有効であるとの報告は数多いが、内科系患者と比べ外科系患者で使用されることは非常に少ない。その主な理由は、腹部手術後には安全性に問題があると考えられていることや、術後は鎮静作用のある薬を使用することが多いためである。だが、熟練者が禁忌の有無を厳密に検討した上で正しく使えば、非侵襲的陽圧換気は安全かつ有効であることが最近の研究で示されている。

挿管患者を移動させると気管チューブのカフによる気管の密閉具合にゆるみが生ずるおそれがあるため、移動の機会を出来る限り避けるとICU管理の質が低下するのを防ぐことができる。ICU外への移動を必要最小限に留めれば、コスト削減につながり、ICU管理の予定を変更せずに済む。さらに、VAP発生率が低下する可能性がある。

教訓 VAP予防策については以下を参考になさってください。
VAPの新しい課題と論点~はじめに
VAPの新しい課題と論点~極薄カフ/SSD
VAPの新しい課題と論点~カフ圧自動制御、Lotrach
VAPの新しい課題と論点~バイオフィルム除去、生食注入
VAPの新しい課題と論点~早期気管切開
VAPの新しい課題と論点~抗菌コーティング気管チューブ
VAPの新しい課題と論点~人工鼻
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